
Mesa/Boogie Dual Rectifier(メサ・ブギー デュアル・レクティファイアー)は、アメリカのアンプメーカーMesa/Boogieが1992年に発売したオール真空管ギターアンプヘッドです。その名の通り「整流器(レクティファイアー)」を2系統(真空管とソリッドステート)から選べる独自機能を持ち、チャンネルごとにサウンドキャラクターを切り替えられる柔軟性が最大の特徴です。ヘビーなリフには唸るような低音と分厚いゲイン、リードには艶のある伸びを発揮し、グランジ・オルタナロック・ニューメタル・プログレッシブメタルなど幅広いハードロック/メタル系ジャンルで圧倒的な支持を得ています。「1990年代のロックサウンドを定義したアンプ」と呼ばれるほどその影響力は大きく、Kirk Hammett(Metallica)やDave Grohl(Foo Fighters)など数多くの著名アーティストが愛用したことでも知られています。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
見た目ヘッドアンプの中で一番好き
Mesa/Boogie Dual Rectifierの主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発売年 | 1992年2月(初代2チャンネル版)、2000年以降に3チャンネル版へ移行 |
| 出力 | 100W(Multi-Wattスイッチで50Wに切替可能) |
| パワー管 | 6L6(EL34に切替可能。バイアススイッチで対応)× 4本 |
| プリアンプ管 | 12AX7 × 5本 |
| チャンネル数 | 3チャンネル(現行モデル) |
| チャンネル1 | Clean(クリーン)/Pushed(プッシュド)の2モード |
| チャンネル2・3 | Raw(ロー)/Vintage(ヴィンテージ)/Modern(モダン)の3モード |
| 整流器セレクト | 各チャンネルに独立した整流器切替スイッチ(Tube Rectifier:ヴィンテージなサグ感/Solid State Rectifier:タイトで現代的なレスポンス) |
| パワーセレクト | Bold(フル出力)/Spongy(スポンジー。出力を抑えてアンプの「たわみ感」を増す) |
| コントロール | チャンネルごとにGain、Treble、Mid、Bass、Presence、Masterを独立装備 |
| エフェクトループ | パラレルエフェクトループ(Sendレベル/Mixレベル調整可能) |
| その他 | Soloスイッチ(ソロ時に音量を瞬時に上げる機能) |
| 形状 | アンプヘッド(コンボタイプは別ラインで存在) |
「整流器(Rectifier)」とは、電源の交流(AC)を直流(DC)に変換する回路のことです。真空管整流器はわずかな「もたり」や「サグ」を生み、Vintage系のしなやかなタッチ感を演出します。ソリッドステート整流器はレスポンスが速く、タイトでパンチのあるModern系サウンドに向いています。このどちらかをチャンネルごとに選べるのが、Dual Rectifierが「Dual(2つ)」と名付けられた理由です。
Mesa/Boogie Dual Rectifierに関するエピソード
Dual Rectifierの開発は1989年にさかのぼります。当時のギターアンプ業界では、SoldanoやBognerといったブティックアンプ(少量生産の高品質な手作りアンプのこと)メーカーが高ゲインサウンドを求めるハードロック/ヘアメタル勢に人気を博していました。これに対抗すべく、Mesa/Boogieの創業者Randall Smithはまったく新しい回路設計に挑みました。後に「これまでのどのアンプ設計にも基づいていない、革命的な回路だった」と自ら語ったほど、ゼロから作り上げたアンプです。Smithは当時の会社のすぐ隣にあったガレージのV8エンジンが奏でるハーモニクスからインスピレーションを得たとも語っており、その「機械的なうなり」がDual Rectifierの骨格にあると言われています。
1992年2月にリリースされたDual Rectifierは、皮肉にも当初のターゲットであったヘアメタルブームの終焉とほぼ同時期に世に出ました。しかし、その直後にグランジ・ムーブメントが急拡大したことで、アンプのヘビーで生々しいサウンドが時代にぴったり合致し、爆発的な人気を獲得します。1993年から2004年の間、Rectifierシリーズ全体でMesa/Boogieの総売上の半分以上を占めたという事実が、その人気の大きさを物語っています。
Dave Grohl(Foo Fighters)はDual Rectifierをバンドの代表作のひとつ『The Colour and the Shape』(1997年)で積極的に使用しました。「Everlong」「My Hero」「Monkey Wrench」などのヘビーなパートにDual Rectifierのディストーション、クリーンパートはVox AC30と使い分けるスタイルで、90年代オルタナロックの教科書的なサウンドを生み出しました。しかし次作では「前作でDual/Triple Rectifierのサウンドをやりすぎた」と本人が語り、意図的にそのサウンドを控えるほど、Dual Rectifierのトーンはそのアルバムと強く結びついています。
Mesa/Boogie Dual Rectifierと共に使用される機材
Mesa/Boogie Dual Rectifierと共に使用されるキャビネット
| キャビネット名 | 搭載スピーカー | 定番の理由 |
|---|---|---|
| Mesa/Boogie Rectifier Standard 4×12 Straight(スタンダード・オーバーサイズ・ストレート) | Celestion Vintage 30 × 4 | Dual Rectifierのために設計されたオーバーサイズ(特大サイズ)キャビネット。重厚な低音とスムーズなミッドレンジが同アンプのハイゲインサウンドを最大限に引き出す、最も定番の組み合わせ。 |
| Mesa/Boogie Rectifier Standard 4×12 Slant(スタンダード・オーバーサイズ・スラント) | Celestion Vintage 30 × 4 | ストレートと同スペックだが、上部が斜めになったスラントタイプ。サウンドの広がりが異なり、ライブでの音の飛びがよいと言われる。スタジオではストレート、ライブではスラントと使い分けるアーティストも多い。 |
| Mesa/Boogie Rectifier Traditional 4×12(トラディショナル) | Celestion Vintage 30 × 4 | オーバーサイズより一回り小さく軽量。低音域がタイトでミッドに芯がある。レコーディングや小~中規模のライブで扱いやすいとして人気が高まっている。 |
Mesa/Boogie Dual Rectifierと共に使用されるエフェクター
| エフェクター名 | 役割 | 定番の理由 |
|---|---|---|
| Ibanez Tube Screamer / Maxon OD808(チューブスクリーマー系オーバードライブ) | フロントエンドブースト・低音域の整理 | Dual RectifierのヘビーなサウンドはModernモード時に低音が過剰に膨らむ「Flubby Bass(フラビーベース)」と呼ばれる現象が起きやすい。Tube ScreamerをGainゼロ・Volumeマックスで使うと低音が引き締まり、中域にまとまりが出る。Maxon OD808が特に人気で、常時オンにする使い方が定番。 |
| ISP Decimator / Boss NS-2(ノイズゲート) | ハイゲイン時のノイズ除去 | Dual Rectifierは高ゲイン設定でノイズが乗りやすい。ノイズゲートをギター直後に配置することで演奏中のノイズを効果的に除去できる。プロのライブリグでもほぼ必須とされる。 |
| Boss GE-7 / MXR 10 Band EQ(グラフィックイコライザー) | 低域・中域のコントロール | Tube Screamerと同様に、EQペダルをブースターとして使う方法も人気。ゲインの増加なしに特定の周波数帯を調整できるため、よりニュートラルなブーストが可能。「逆山形(低域と高域を下げてミッドを上げる)」に設定するとDetuneされたギターでも音がクリアに。 |
| TC Electronic Nova Delay / Boss DD-7(ディレイ) | リードサウンドへの空間付加 | Dual Rectifierのエフェクトループに入れるのが定番。空間系エフェクトはアンプのリターンに戻すことでプリアンプの歪みに干渉せず、クリアな空間感が得られる。 |
| MXR Phase 90 / TC Electronic Corona Chorus(モジュレーション系) | クリーン/クランチサウンドへの揺らぎ付加 | Channel 1のクリーン~Pushed設定と組み合わせることで、1990年代オルタナロック的なウェットなサウンドを作れる。エフェクトループでの使用が推奨される。 |
Mesa/Boogie Dual Rectifierの兄弟機・派生機
| モデル名 | 主な違い |
|---|---|
| Triple Rectifier(トリプル・レクティファイアー) | 出力が150Wに強化されたDualの兄貴分。基本的な回路やチャンネル構成はDualと同じだが、パワー管が6本(6L6)となり、ヘッドルーム(音が歪み始めるまでの余裕)が大きい。大規模なライブ向け。 |
| Single Rectifier(シングル・レクティファイアー) | 50W仕様の弟分。2チャンネル構成でDualよりコンパクト・軽量。スタジオやクラブサイズのライブに向いており、Dualほど出力が必要ない場面で活躍。 |
| Road King I / II(ロードキング) | Rectifierシリーズの最上位モデルで、4チャンネル構成に内蔵リバーブを搭載。チャンネルごとに6L6とEL34を独立して選べるなど、さらに多彩なサウンドメイキングが可能な豪華版。 |
| Roadster(ロードスター) | Road Kingの機能をシンプルにした4チャンネル版。Road Kingよりも価格が抑えられており、多チャンネルの柔軟性を求めるプレイヤーに人気。 |
Mesa/Boogie Dual Rectifierのモデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。以下の各デバイスにDual Rectifierのモデリングが収録されています。
Mesa/Boogie Dual RectifierのQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | CA Duo Ch3 Modern | Mesa/Boogie Dual Rectifier(Channel 3 Modernモード) |
| Amp | CA Duo Ch3 Raw | Mesa/Boogie Dual Rectifier(Channel 3 Rawモード) |
| Amp | CA Duo Ch3 Vintage | Mesa/Boogie Dual Rectifier(Channel 3 Vintageモード) |
| Cabinet | 412 CA Stand OS A V30 ’01 | Mesa/Boogie Rectifier Standard OS Angled(Celestion Vintage 30搭載) |
| Cabinet | 412 CA Stand OS S V30 90s | Mesa/Boogie Rectifier Standard OS Straight(Celestion Vintage 30搭載) |
| Cabinet | 212 CA Recto V30 ’98 | Mesa/Boogie Rectifier 2×12(Celestion Vintage 30搭載) |
Mesa/Boogie Dual RectifierのFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | RECTO1 RED MODERN | Mesa/Boogie Dual Rectifier(2チャンネル版 / Redチャンネル Modernモード) |
| Amp | RECTO1 ORANGE MODERN | Mesa/Boogie Dual Rectifier(2チャンネル版 / Orangeチャンネル Modernモード) |
| Amp | RECTO1 ORANGE NORMAL | Mesa/Boogie Dual Rectifier(2チャンネル版 / Orangeチャンネル Variable High Gainモード) |
| Amp | RECTO2 RED VINTAGE | Mesa/Boogie Dual Rectifier(3チャンネル版 / Channel 3 Vintageモード) |
| Amp | RECTO2 RED MODERN | Mesa/Boogie Dual Rectifier(3チャンネル版 / Channel 3 Modernモード) |
| Amp | RECTO2 ORANGE MODERN | Mesa/Boogie Dual Rectifier(3チャンネル版 / Channel 2 Modernモード) |
| Amp | RECTO2 ORANGE VINTAGE | Mesa/Boogie Dual Rectifier(3チャンネル版 / Channel 2 Vintageモード) |
| Cabinet | 4×12 Recto Straight | Mesa/Boogie Rectifier 4×12 Straight Cabinet |
Mesa/Boogie Dual RectifierのKemperにおけるモデリング
KemperはアンプをモデリングではなくプロファイリングKemper(実機の音を直接収録する技術)する機器です。アンプとキャビネットを1つのリグ(Rig)にまとめた形式で収録されており、キャビネット単独のエントリは存在しません。
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Mesa Boogie Dual Rectifier | Mesa/Boogie Dual Rectifier |
Mesa/Boogie Dual RectifierのLINE6 HELIXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Cali Rectifire | Mesa/Boogie Dual Rectifier |
| Cabinet | 4×12 Cali V30 | Mesa/Boogie 4FB V30 4×12キャビネット |
Mesa/Boogie Dual Rectifierの使用アーティスト
海外のアーティスト
| アーティスト名 | 音楽スタイル | 使用時期・アルバム |
|---|---|---|
| Kirk Hammett(Metallica) | スラッシュ・メタル/ヘビーメタル。ダウンピッキングを主体とした攻撃的なリフとエモーショナルなリードが特徴。 | ライブリグのコアとして継続使用。Mesa/Boogie Rectifier Standard 4×12キャビネットと組み合わせて使用することが確認されている。 |
| Adam Jones(Tool) | プログレッシブ・メタル/オルタナティブ・メタル。変拍子と重厚なリフを組み合わせた知的かつヘビーなサウンドが特徴。 | Toolの主要作品全般。Mesa/Boogie Rectifier Standard 4×12 Straightキャビネットとの組み合わせが知られている。 |
| Dave Grohl(Foo Fighters) | オルタナティブ・ロック。パワフルなコードワークと攻撃的なリフからメロディアスなフレーズまで幅広いスタイルを持つ。 | 『The Colour and the Shape』(1997年)でのレコーディング・ライブで積極使用。「Everlong」「My Hero」「Monkey Wrench」などのディストーションパートに使用。 |
日本のアーティスト
| アーティスト名 | 音楽スタイル | 使用機材詳細 |
|---|---|---|
| 瀧善光(Yoshimitsu Taki) | Mesa/Boogie公式アーティスト。多彩なジャンルを横断するギタリスト。 | Dual Rectifier HeadおよびTriple Rectifier Headを使用。Mesa/Boogie公式アーティストページで確認。Rectifier Standard OS Slant 4×12キャビネットおよびRecto 2×12 Horizontalキャビネットと組み合わせて使用。 |
Mesa/Boogie Dual Rectifierの特徴と注意点
特徴
- チャンネルごとの整流器切替という唯一無二の設計:チャンネルごとに真空管整流器(ヴィンテージ系のサグ感)とソリッドステート整流器(タイトでモダンな応答性)を選択できるアンプは他にほとんど存在しません。1台のアンプで「太くしなやかなリード」と「切れ味鋭いリフ」を実現できるため、フォーラムでは「ほかのアンプには戻れない」という声が繰り返し見られます。
- 3チャンネル × 3モードによる圧倒的なサウンドバリエーション:Raw(ローゲインでウォームなクランチ)、Vintage(ふくよかでクリーミーな高ゲイン)、Modern(アグレッシブでタイトな超ハイゲイン)の3モードがチャンネル2・3に搭載されており、一般的なアンプの「クリーン/クランチ/リード」のような単純な区別を超えた多彩な音作りが可能です。
- Modernモードは「ネガティブフィードバックなし」という特殊回路:Modernモードでは回路からネガティブフィードバック(音の安定化回路)が除去されます。これにより低音域のインピーダンス依存が高まり、スピーカーとの相互作用が独特の「生々しさ」を生みます。他のアンプでは再現しにくい部分で、Fractal AudioのエンジニアCliff Chaseも特筆しているポイントです。
- 50W/100Wのマルチワット切替で小音量環境にも対応:Multi-Wattスイッチで50Wに切り替えると、スタジオやリハーサル環境でもある程度アンプを「鳴らしきった」音色に近づけられます。ユーザーフォーラムでも「小さいスタジオでは50Wが使いやすい」という声が多数見られます。
注意点
- Modernモードの低音域が膨らみすぎる「Flubby Bass」問題:Modernモードはネガティブフィードバックが除去されているため、スピーカーのインピーダンス特性によって低音域が過剰に膨らむことがあります。Boogieフォーラムではこの現象を「Flubby Bass」と呼び、Tube ScreamerやEQペダルを前段に置いて低音を整理する方法が定番解決策として繰り返し紹介されています。
- エフェクトループをオンにするだけで音質が変化する:Dual Rectifierのパラレルエフェクトループは、何も機材を繋いでいない状態でもループをオンにすると音が変わるという特性があります。Fractal AudioのCliff Chaseもモデリング制作時に「ループをオフにした状態でモデルを作成した」と明記しており、ループの扱いには注意が必要です。エフェクトを使わない場合はループをバイパスしておくことを推奨します。
- チャンネルごとのプレゼンスコントロールの挙動が大きく異なる:チャンネル2とチャンネル3ではPresenceコントロールのテーパー(効き方のカーブ)が意図的に異なって設計されています。チャンネル3(Modernモード向け)のPresenceは非常に効きが強く、わずかな調整で音が激変します。Mesa/Boogie自身がマニュアルで「Channel 3のPresenceは危険なほどのトレブルが出る」と記述しているほどで、ダイヤルの位置が変わるだけで全体の音色が大きく変わります。
- ローゲイン設定での音作りが難しい:Dual Rectifierはハイゲインサウンドに最適化された設計であるため、ゲインを低く設定したクリーン〜クランチの領域での音作りは、Fender系やVox系のクリーンアンプと比べると難易度が高いとされています。ユーザーフォーラムでは「Rawモード以外でローゲインのいい音を出すのに苦労した」という声が多く見られます。
まとめ
Mesa/Boogie Dual Rectifierは、「1990年代ロックのサウンドを定義した」と称されるだけの実力と個性を持つアンプです。整流器のセレクトによるサウンドキャラクターの違い、Rawからモダンまでの幅広いゲインモード、そしてKirk HammettやAdam Jonesらが長年にわたって信頼を寄せてきた実績は、一般的なハイゲインアンプとは一線を画します。重厚なリフを主体としたヘビーメタルやニューメタルはもちろん、90年代オルタナロック的な「歪みの中に粗削りな生命感」を求める人には特におすすめです。「もっとも”ロック”な音がしたい」「海外の大型フェスで聴くようなあの分厚いサウンドを手元で鳴らしたい」と思っているギタリストなら、一度は試してみる価値があるアンプです。








