
モダンハイゲインアンプの代名詞として君臨し続けるMesa/Boogie Dual Rectifier
その漆黒の筐体とダイヤモンドプレートは多くのギタリストにとって憧れの的です。
90年代初頭の登場以来へヴィミュージックシーンを席巻し数々の名盤サウンドを支えてきました。
本記事ではその無骨なルックスと裏腹に多彩なサウンドを誇るDual Rectifierの魅力に迫ります。
歴史やサウンドの特徴 そして現代のデジタル機材でそのサウンドを再現する方法までを解説します。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。

見た目ヘッドアンプの中で一番好き
Mesa/Boogie Dual Rectifierの概要
Mesa/Boogie Dual Rectifierは1991年に発表されたハイゲインギターアンプです。
その名の通り整流管(Rectifier Tube)をシリコンダイオードと切り替えられる「Dual Rectifier」システムが最大の特徴です。これによりタイトでアグレッシブなモダンハイゲインサウンドからヴィンテージライクで温かみのあるサウンドまで一台で両立させることに成功しました。特に真空管整流時の電圧降下によって生み出される独特のコンプレッション感と弾力のある感触は「サギング」と呼ばれ多くのギタリストを虜にしました。
チャンネル構成はクリーンと2つのドライブチャンネルの3チャンネル仕様が基本です。
クリーンチャンネルは透き通るような美しいトーンを持ちドライブチャンネルはクランチから猛烈なハイゲインまで幅広い歪みを生み出します。
その圧倒的な音圧と深く歪むサウンドは特に90年代以降のオルタナティブロックやニューメタル、ハードコアといったジャンルで絶大な支持を集めました。
リンキン・パークやコーン、メタリカといったバンドが使用したことでその地位を不動のものとし現代のラウドロックシーンにおいても欠かすことのできない定番アンプとして存在し続けています。まさにへヴィミュージックの歴史を語る上で避けては通れない偉大なアンプと言えるでしょう。
Mesa/Boogie Dual Rectifierにまつわるエピソード
Dual Rectifierの誕生はMesa/Boogie創業者ランドール・スミスの探求心の賜物でした。
彼は既存のMARKシリーズとは異なる全く新しいハイゲインサウンドを模索していました。その開発過程で偶然にも整流管を切り替えるアイデアに辿り着きます。当初はMARKシリーズのシャーシを流用してプロトタイプが作られましたがそのサウンドは明らかに異質で新しいモデルとして世に出すことが決まりました。
特に有名なエピソードとしてメタリカのジェイムズ・ヘットフィールドとカーク・ハメットが『ブラックアルバム』のツアー中にプロトタイプをテストした話が挙げられます。彼らはそのサウンドを絶賛しすぐさまツアー機材に導入しました。これがきっかけとなりDual Rectifierの名は世界中のギタリストに知れ渡ることになります。また90年代初頭のグランジオルタナティブロックシーンの隆盛もDual Rectifierにとっては追い風となりました。アリス・イン・チェインズやサウンドガーデンといったバンドが使用しそのヘヴィでダークなサウンドは時代の音として認知されていきました。
さらに面白いのはそのルックスです。ダイヤモンドプレートのフロントパネルは元々軍用機器の保護に使われていた素材でありランドール・スミスがその無骨な美しさに惹かれ採用したと言われています。このデザインはDual Rectifierの屈強なサウンドイメージと完璧に合致しアンプの象徴的な顔となりました。
Mesa/Boogie Dual Rectifierと一緒に使われる機材
キャビネット
Dual Rectifierのサウンドを最大限に引き出す定番の組み合わせは同社のMesa/Boogie Rectifier Cabinetです。
特に4発のCelestion Vintage 30スピーカーを搭載した「Recto 4×12 Standard Slant/Straight Cabinet」は王道中の王道と言えるでしょう。タイトな低音と突き抜けるような中高音が特徴でアンプヘッドのポテンシャルを余すことなく再生します。
王道のコンパクトエフェクター
Dual Rectifierの歪みをさらに引き締めたり音作りの幅を広げたりするためにいくつかのエフェクターが定番として使われます。
- オーバードライブ/ブースター:歪みチャンネルの前段に接続しゲインブースターとして使用するのが定番です。音の輪郭をタイトにしよりアグレッシブなサウンドにします。IbanezのTS9やTS808 MaxonのOD808などが非常に人気です。
- ノイズゲート:ハイゲインアンプ特有のノイズを抑制するために必須とも言えるエフェクターです。ISP TechnologiesのDecimator IIやBOSSのNS-2などがよく使われます。
- 空間系エフェクター:ディレイやリバーブなどはアンプのセンドリターン端子に接続することでクリアな効果を得られます。EventideやStrymonといった高品位なデジタルエフェクターとの相性も抜群です。
シリーズ
Dual Rectifierにはいくつかのバリエーションや兄弟機が存在します。
兄弟機やワット数違い
- Triple Rectifier:Dual Rectifierの150Wバージョンです。より広大なヘッドルームと強烈な音圧を誇ります。大規模なステージで使用されることが多いモデルです。
- Single Rectifier:50W仕様のモデルです。Dual Rectifierのサウンドニュアンスを保ちつつよりコンパクトで扱いやすくなっています。
- Rect-O-Verb:Single Rectifierにスプリングリバーブを搭載したモデルです。より幅広いジャンルに対応できる汎用性の高さが魅力です。
- Mini Rectifier Head:25Wの小型ヘッドアンプです。自宅での使用や小規模なライブに最適ながら本格的なRectifierサウンドを出力します。
- Road King / Roadster:より多チャンネル化し多彩なサウンドメイキングを可能にした上位モデルです。
- Badlander:近年のモデルでRectifierのサウンドを現代的に再解釈しています。よりタイトでアグレッシブなキャラクターが特徴です。
Mesa/Boogie Dual Rectifierのモデリング
近年ではデジタルプロセッサーやアンプシミュレーターでDual Rectifierのサウンドを非常に高いクオリティで再現できます。主要な機材でのモデリング名を表にまとめました。
プロセッサー/アンプシミュレーター | アンプモデリング名 | キャビネットモデリング名(主にセットで使われるもの) |
Fractal Audio Systems Axe-Fxシリーズ | USA IIC+ / Brit Super / Treadplate | 4×12 Recto (V30) / 4×12 Mesa (V30) |
Line 6 Helixシリーズ | Cali Rectifire | 4×12 Cali V30 |
Kemper Profiling Amplifier | (プロファイルによる) 様々な”Dual Recto” “Treadplate”等の名前 | (プロファイルによる) Mesa Boogie 4×12 V30 |
Neural DSP Quad Cortex | US C-Grill Big Bro | 412 US C-GRILL V30 |
BOSS GT-1000 / GX-100等 | R-FIER VINTAGE / R-FIER MODERN | 4×12″ MES V30 |
Mesa/Boogie Dual Rectifierの著名な使用者
Dual Rectifierは数多くのトップアーティストに愛用されてきました。そのサウンドはジャンルを超えて様々な名盤で聴くことができます。
海外のアーティスト
- James Hetfield / Kirk Hammett (Metallica)
『Load』『Reload』期などで使用。メタリカのサウンドの一翼を担いました。 - Brad Delson (Linkin Park)
初期のサウンドを代表する機材でありニューメタルの象徴的なトーンを作り上げました。 - John Petrucci (Dream Theater)
MARKシリーズと並行して長年愛用。プログレッシブメタルの頂点でそのサウンドを響かせています。 - Synyster Gates (Avenged Sevenfold)
キャリアを通じてTriple Rectifierを愛用しています。 - Adam Jones (Tool)
Diezel VH4と並び彼の独特なヘヴィサウンドの核となっています。 - Mark Tremonti (Creed / Alter Bridge)
Triple Rectifierをメインに据えパワフルなリフとメロディアスなリードを奏でます。 - Jerry Cantrell (Alice in Chains)
- Kim Thayil (Soundgarden)
日本のアーティスト
- PATA (X JAPAN)
- INORAN / SUGIZO (LUNA SEA)
- K.A.Z (Oblivion Dust / VAMPS)
- TORU (ONE OK ROCK)
- Die (DIR EN GREY)
- Masato (coldrain)
- Ken (L’Arc〜en〜Ciel)
まとめ
Mesa/Boogie Dual Rectifierは単なるハイゲインアンプではありません。90年代以降のへヴィミュージックのサウンドスケープを定義し数多のギタリストにインスピレーションを与え続けてきた生ける伝説です。その圧倒的なパワーと多彩な表現力はこれからも音楽の最前線で鳴り響き続けることでしょう。実機に触れる機会があればもちろん素晴らしいですが現代の高品質なモデリングでその片鱗に触れてみるのもおすすめです。この鋼鉄の心臓が持つ真の魅力をぜひ体感してみてください。