
オーバードライブの話をしていると、必ずと言っていいほど出てくるのが「TS系」という言葉です。その「TS」の一番最初、すべての始まりにあたるのが Ibanez TS808 Tube Screamer です。1979年に日本のMaxon(日伸音波製作所)が設計し、Ibanezブランドで世界に送り出されたオーバードライブ(真空管アンプが軽く歪んだときのような、温かみのある歪みを付加するエフェクト)で、40年以上たった今でも現行品として売られ続けています。
向いているのはブルース、ロック、カントリー、フュージョンあたり。それから、ハイゲインアンプの前に置いて音を締める「ブースター」としての使い方は、メタル系のプレイヤーにも定番です。TS808が話題になり続ける理由をひと言でまとめると、「歪ませるためのペダルではなく、アンプの鳴り方そのものを変えるペダル」だからです。単体で聴くと地味なのに、アンプの前に挟んだ瞬間にバンドの中での抜けが変わる。この不思議さが、後続の無数のTS系クローンを生みました。
なお、弟分にあたるTS9とは回路の出力段だけが違う兄弟機です。この記事ではTS808そのものを掘り下げつつ、TS9との違いも随所で触れていきます。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
Ibanez TS808の主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エフェクトの種類 | オーバードライブ(真空管アンプが軽く歪んだときのような、温かみのある歪みを付加するエフェクト) |
| コントロール | Overdrive(歪みの量)、Tone(高音域の明るさ調整)、Level(エフェクト音の出力レベル)の3ノブ |
| 電源 | 9Vバッテリー(006P)またはDC 9V 外部アダプター(センターネガティブ極性) |
| 消費電流 | 8mA(9V時) |
| 入出力端子 | モノラル1系統(インプット: 右側面、アウトプット: 左側面) |
| バイパス方式 | バッファードバイパス(エフェクターをオフにしたとき、内部のバッファ回路を経由して信号を通す方式。長いケーブルで起きがちな高域の痩せを防ぐ効果がある一方、「オフのときも音が変わる」ことを嫌ってTrue Bypass化の改造を施すユーザーもいます) |
| オペアンプ(IC) | 現行復刻版は JRC4558D を搭載。オリジナル期は Fairchild UA1458 → Raytheon RC4558 → JRC NJM4558 と時期によって変遷しています |
| 出力段の回路定数 | 100Ω直列 + 10kΩアース間(TS9は470Ω + 100kΩ。ここがTS808とTS9の音色差の正体です) |
| 筐体サイズ・重量 | Ibanez公式に記載がないため、同一筐体のTS9の実測値(約124(奥行)×74(幅)×53(高さ)mm / 約570g)を目安としてください |
| 製造国 / ブランド | 日本(Made in Japan)/ Ibanez(ブランド)・Maxon=日伸音波製作所(設計・製造) |
| 発売年・現行品か | オリジナル: 1979年。復刻版が2004年頃に登場し、現行品として販売継続中 |
スペック表の中でいちばん重要なのは出力段の回路定数の行です。TS808とTS9は、ここ以外ほぼ同じ回路です。「TS808は温かい、TS9は明るい」と言われる差は、たった数個の抵抗値の違いから生まれています。
Ibanez TS808はどんな音がするのか
以下はすべてFender系のクリーンアンプ(Twin Reverb / Deluxe Reverb)と、Marshall系のクランチアンプの前段に置いた場合の話です。TS808は「どのアンプの前に置くか」で印象が大きく変わるペダルなので、この前提は重要です。
全体のキャラクター
ひと言でいうと「丸くて、押し出しの強い中音域」です。TS808の代名詞であるミッドハンプ(中音域を持ち上げる特性)によって、700Hz〜1kHzあたりがぐっと前に出ます。同時に低域はやや削られるため、バンドで鳴らしたときにベースとぶつからず、ギターだけがすっと前に出てくる。これがTS系が「なぜかミックスで抜ける」と言われる理由です。
周波数帯域の傾向
- 低域:意図的にカットされています。ブーミーさが消えるので、コードを弾いても濁りません。逆にドンシャリな重低音を求めると物足りなく感じます
- 中域:主役。ここが持ち上がることで、リードが埋もれません
- 高域:TS9より明確に丸いです。角が取れていて、耳に刺さる帯域がやわらかく処理されます。ピックのアタック音がキンキンしません
ゲイン量と歪みの質感
TS808の歪みはソフトクリッピング(波形の角が丸く潰れる歪み方。真空管の歪みに近い、自然でザラつきの少ない質感)です。Overdriveノブを全開にしても、いわゆるディストーションのような激しい歪みにはなりません。クリーン〜軽いクランチ止まりと考えてください。「歪みが足りない」という声はTS808への定番の不満ですが、これは設計思想どおりです。
ダイナミクスへの追従性
ここがTS808の真骨頂です。ピッキングを弱めれば歪みが減り、強く弾けば歪みが増える。ギター本体のボリュームを7〜8まで絞ると、ほぼクリーンに戻ります。設計者の田村進氏が「プレイヤーのピッキングのニュアンスが出てくる必要があった」と語っているとおり、弾き手の手元の情報がそのまま音になります。踏みっぱなしにして、あとは右手とボリュームノブで音量も歪みも操る——という使い方ができるペダルです。
TS9との違い(弾き比べたときの印象)
| 観点 | TS808 | TS9 |
|---|---|---|
| 高域 | 丸く、角が取れている | 明るく、エッジがある |
| 中域 | より肉厚。ふくよか | やや締まっている |
| 音の輪郭 | 滑らか。歌わせる方向 | 輪郭がはっきり。抜ける方向 |
| 向いている場面 | クリーンアンプで艶のあるリード。録音 | ライブでバンドの音圧を切り裂く |
どちらが上ということはなく、Fender Twin Reverbのクリーンと組み合わせるならTS808の落ち着いた温かみ、ライブで前に出したいならTS9のエッジ、という使い分けをするプレイヤーが多くいます。
Ibanez TS808のエピソード
「Maxon OD808」と「Ibanez TS808」は中身が同じ
TS808を語るうえで外せないのが、この機材がもともとMaxon(日伸音波製作所)の製品だったという事実です。設計したのは同社の田村進氏で、1979年に Maxon OD808 として世に出ました。当時のMaxonには独自に海外へ輸出する体制がなかったため、星野楽器の Ibanez ブランドが海外流通を担当し、同じ回路の製品が「TS808 Tube Screamer」の名前で世界に広まったのです。この協業は2003年まで続きました。
つまりOD808とTS808は、ブランド名が違うだけの同一設計です。ヴィンテージのIbanez製品の基板にその痕跡が残っていることが知られています。「TS808のクローンは山ほどあるが、本家はMaxonである」というややこしい構図は、ここから来ています。
設計目標は「歪みペダル」ではなかった
田村氏はインタビューで、目指したのは単なるオーバードライブではなく「ギターアンプとオーバードライブペダルが組み合わさった音」だったと語っています。開発時のリファレンスに使ったのは1968年製のFender Twin ReverbとVibrolux Reverb、ときどきMarshall 1959 Super Lead。狙いは「ギター本来の音を残したまま、より柔らかく歪ませること」でした。
TS808が単体で聴くと地味なのに、アンプの前に置くと化けるのは偶然ではありません。最初からアンプとセットで鳴らすことを前提に設計されたペダルなのです。ちなみに田村氏は後年、「808がこれほど有名になるとは夢にも思わなかった」と述懐しています。
Eric Johnsonの「バイオリンのようなトーン」
Eric Johnsonは40年近くTube Screamerを使い続けているプレイヤーです。彼のリードトーンは「バイオリンのように伸びて減衰しない」と形容されますが、その一端を担っているのがTS808です。Johnsonの場合、TS808を歪みそのものとしてではなく、Fuzz Faceをさらに押し出すためのブースターとしても使っています。歪みの上に歪みを重ねることで、音が潰れるのではなく「伸びる」方向に働かせるという、TS系ならではの使い方です。
Gary Mooreのサステイン
ブルース期のGary Mooreも、Les PaulのサステインをさらにねばらせるためにTube Screamerを使っていました。「Still Got the Blues」に代表される、1音を長く歌わせて泣かせるあのフレージングは、ギターとアンプだけでは出しきれない粘りをTS系が支えていた例と言えます。
「SRVはTS808ユーザー」という話をどう受け止めるか
Stevie Ray VaughanとTube Screamerの関係は、TS808を語るときに必ず出てくる話題です。ただしここは注意が必要で、機材専門店Analog Manの資料は「SRVはTS-808をあのジューシーなストラトトーンに使った」と記していますが、一方でGuitar World誌がステージ写真・ライブ映像・保険書類・通関申告書まで調べ上げた調査によると、SRVがメインで使っていたのはTS9で、TS808の使用は1981年末〜1982年初頭のごく短い期間にとどまるとされています。
どちらの資料も「SRVがTS808を触っていた」ことは否定していません。食い違うのは「メインだったかどうか」です。TS808を買う動機として「SRVのあの音が出る」と期待するのは、少し慎重になったほうがよさそうです。
Ibanez TS808の使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーンでの位置
TS808は歪み系の中でも前のほう、アンプに近い側に置くのが基本です。
- 基本形:ギター → (チューナー)→ ワウ → ファズ → TS808 → 他の歪み → アンプ
- ブースターとして使う場合:歪ませたアンプ、あるいは他のディストーションの直前に置きます。「後ろのものを押す」のがTS808の仕事なので、押したい相手の手前に置くのが鉄則です
- エフェクトループには入れません。アンプのプリ段を歪ませるのが目的なので、ループ(プリとパワーの間)に入れると意図した効果が得られません
ファズとの前後関係だけは例外的に注意が必要です。ファズ(特にゲルマニウム系)は手前にバッファがあると音が変わるため、ファズはTS808より前に置くのが無難です。
セッティング例
| 使い方 | Overdrive | Tone | Level | ねらい |
|---|---|---|---|---|
| クリーンブースト(最も定番) | 0〜9時 | 12時 | 2〜3時 | 歪ませず音量だけ上げてアンプを押す。ソロで一段前に出る |
| ハイゲインアンプの前で締める | 0〜8時 | 1〜2時 | 3時〜全開 | 低域を削ってリフの粒立ちを出す。メタル系の定番 |
| 単体で軽いクランチ | 11〜1時 | 11〜12時 | 12時 | クリーンアンプに軽い歪みを足す。ブルース向き |
| 歌わせるリード | 2〜3時 | 1時 | 1〜2時 | サステイン重視。ギターのボリュームで歪み量を調整する前提 |
迷ったら「Overdriveを絞り、Levelを上げる」から始めてください。TS808を歪みペダルとして使うより、ブースターとして使うほうが本来の力を発揮します。
重ね使いで効果的なパターン
- TS808 → Fuzz Face:Eric Johnsonの使い方。ファズの音がまとまり、伸びが出ます
- TS808 → ハイゲインアンプ:低域が整理され、速いリフでも音が団子になりません
- TS808 → TS808(2台重ね):TS系を2段にする「スタック」。1台目をクリーンブースト、2台目を歪みとして使い分けます
Ibanez TS808と相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
| アンプ | 出力 | サウンドの特徴 | なぜこの組み合わせが人気か |
|---|---|---|---|
| Fender Twin Reverb | 85W | ヘッドルームが広く、粒立ちの良いクリーン | 設計者の田村氏が開発リファレンスに使ったアンプ。TS808が本来想定していた組み合わせそのもの |
| Fender Deluxe Reverb | 22W | 甘く、ほどよく歪むクリーン | アンプ側が自然に歪み始める領域をTS808が押す。ブルース/ルーツ系の王道 |
| Marshall 1959 Super Lead(およびJCM800系) | 100W | 中域の張ったブリティッシュクランチ | TS808のミッドハンプがMarshallの中域とかみ合い、リードで前に出る。開発時のテストにも使われていた |
| Mesa/Boogie Rectifier / Mark系 | 100W前後 | 低域が豊かなハイゲイン | 「ハイゲインアンプの前にTS」はメタル界の定番。TS808が低域を削ってリフの輪郭を出す |
相性の良いエフェクター
| エフェクター | 役割 | なぜ定番か |
|---|---|---|
| Dunlop Fuzz Face | ファズ(TS808の前段) | Eric Johnsonの実例。TS808がファズのモコつきを整理し、サステインを伸ばす |
| Ibanez TS9 | 2台目のオーバードライブ | TS808(丸い)とTS9(明るい)でキャラクターが違うため、曲や場面で踏み分けられる |
| ProCo RAT | ディストーション | RATの荒々しい歪みをTS808でブーストすると、粒がそろって前に出る |
| Dallas Rangemaster 系トレブルブースター | 高域ブースター | TS808が削りがちな高域を補い、ヴィンテージ寄りの抜けを作る |
Ibanez TS808の兄弟機・派生機
| モデル | 登場時期 | TS808との違い |
|---|---|---|
| Maxon OD808 | 1979年 | TS808と同一回路。ブランドが違うだけの実質的な兄弟(というより本家) |
| Maxon OD-880 | TS808以前 | 田村氏が最初に手がけたオーバードライブ。TS808の前身にあたる |
| Ibanez TS9 | 1981年 | 出力段の抵抗値を変更。TS808より明るくエッジがある方向 |
| Ibanez TS10 | 1980年代後半 | TS808/TS9から回路を大きく変更。安価な部品を採用したため耐久性に難があり、数年で製造終了 |
| Ibanez TS808HW(ハンドワイヤード) | 現行 | 手配線・True Bypass仕様の上位機。実売300ドル前後とTS808本体よりかなり高価 |
| Ibanez TS808DX | 現行 | TS808にブースター回路を追加した拡張版。1台でブースト+オーバードライブが完結する |
| Ibanez TS808 35th Anniversary | 2014年 | 1979年に非USA市場向けに作られた「ナローボックス」筐体を復刻。MXR風の電池アクセスを持つ独特な個体 |
Ibanez TS808のモデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。TS808は各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターにほぼ例外なく収録されている、モデリング界の必修科目のような存在です。
ただし各社とも「Tube Screamer」が商標登録されているため、独自の名称を付けています。名前が実機とかけ離れているので、下の表で対応関係を確認してください。
Ibanez TS808のQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Green 808 | Ibanez TS808 Tube Screamer |
QUAD CORTEXの「Guitar overdrive」セクションに、初期ファームウェア(CorOS 1.0.0)から収録されています。ベースはTS808であり、TS9専用のモデルは現行ラインナップにはありません。QUAD CORTEXでTS系の音が欲しいときは、このGreen 808が唯一かつ本命の選択肢になります。
Ibanez TS808のFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | T808 OD | Ibanez TS-808 Tube Screamer |
| Effect | T808 Mod | Ibanez TS-808(人気の改造仕様を再現したバージョン) |
| Effect | Valve Screamer | Ibanez TS9 Tube Screamer |
Fractal Audio機器(Axe-Fx、FM9、FM3等)のDriveブロックに収録されています。「T808」という名称は商標を避けるためにFractal Audioが独自に付けたものです。
ここは資料が食い違っている箇所なので注意してください。Fractal公式フォーラムのDriveモデル解説スレッド(Axe-Fx II世代の資料)では「T808 OD / T808 Mod はTS9ベース」と明記されていました。一方、現在のFractal Audio WikiではT808 OD=TS-808ベース、Valve Screamer=TS9ベースという整理になっているという記述が複数見られます。おそらくAxe-Fx III世代でValve Screamerが追加された際に役割分担が整理し直されたものと考えられますが、執筆時点でFractal Audio Wikiの一次情報にアクセスできなかったため(アクセス制限により閲覧不可)、どちらが現行の公式見解かは確定できていません。いずれの資料でも、TS9に対応するモデルとして「Valve Screamer」が別に存在する点は共通しています。「T808 Mod」はTube Screamerに施される定番の改造(MOD)を再現したもので、周波数レンジが広がりゲインもやや高めです。
Ibanez TS808のLINE6 HELIXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Scream 808 | Ibanez TS808 Tube Screamer |
LINE6公式のモデルリストで、「ベース」欄が Ibanez TS808 Tube Screamer と明記されているモデルです。TS9専用の独立モデルは現行ラインナップには収録されていません。
Ibanez TS808のKemperにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Green Scream | Maxon OD808 / Ibanez TS-808 |
| Effect | Kemper Drive | TS-808 / TS9 / Klon Centaur / Boss OD-1・SD-1 / Timmy 等を参考にした統合型 |
Kemperのストンプエフェクトに古くから収録されている「Green Scream」は、まさにTS-808(Maxon OD808)を直接モデリングしたものです。TS9系の記事では「TS9そのものではない」という注記が必要になりますが、TS808の記事においてはど真ん中のモデルということになります。
さらにOS 8.0以降では「Kemper Drive」が追加されました。これはTS-808・TS9・Klon Centaur・Boss OD-1/SD-1・Timmyなど複数の名機にインスパイアされた統合型のオーバードライブで、個別のペダルを1つずつ再現したものではありません。Kemperが「One to rule them all」と称する設計で、1台でさまざまなドライブのキャラクターをカバーします。TS808のキャラクターもこの中で作り込めますが、「TS808のモデル」ではなく「TS808を参考にした統合型」である点は区別しておいてください。
Ibanez TS808の使用アーティスト
海外のアーティスト
| アーティスト | 音楽スタイル | 使用時期・関連作品 | 関わり方 |
|---|---|---|---|
| Eric Johnson | インストゥルメンタル・ロック/フュージョン。「バイオリンのような」滑らかなリードで知られる | 約40年にわたり使用 | メイン。歪みとしてだけでなく、Fuzz Faceを押すブースターとしても使用 |
| Gary Moore | ブルース/ハードロック。1音を長く歌わせる泣きのフレージング | ブルース期(『Still Got the Blues』ほか) | Les Paulのサステインを伸ばす目的で使用 |
| Carlos Santana | ラテンロック。伸びやかなサステインが特徴 | ― | TSシリーズをアンプのブースターとして使用 |
| Stevie Ray Vaughan | テキサスブルース | 1981年末〜1982年初頭のごく短期間 | 下の注記を参照。メインはTS9だったとする調査がある |
Stevie Ray Vaughanについての注記:Analog Manの資料は「SRVはTS-808を使った」と記す一方、Guitar World誌の詳細な調査ではメインはTS9で、TS808の使用は1981年末〜1982年初頭に限られるとされています。資料が割れているため、この表では「短期間の使用」として扱っています。
日本のアーティスト
TS808を明確に「メインで使用していた」と裏付けられる日本人アーティストについて、現時点で信頼できる情報源からの裏付けが取れていないため記載を省略します。
Ibanez TS808の特徴と注意点
特徴
- アンプを押したときの「まとまり方」が別格:低域を削り中域を持ち上げる特性のおかげで、ハイゲインアンプの前に置くだけでリフの輪郭が出ます。歪みを足すのではなく整理するペダルなので、他の歪みと喧嘩しません
- ピッキングとボリュームへの追従性が高い:踏みっぱなしでも、右手とギターのボリュームだけでクリーンからクランチまで行き来できます。ペダルを踏み替える回数を減らせるのは実用上の大きな利点です
- 高域が丸く、耳に刺さらない:TS9と比べて角が取れているため、シングルコイルの高域がキンキンしがちなセットアップで扱いやすくなります
- 「これが基準」という安心感:無数のTS系クローンが存在する中で、TS808は比較の原点です。他のペダルの評価が「808と比べてどうか」で語られるため、1台持っておくと自分の基準ができます
- 現行品として買い続けられる:1979年設計のペダルが今も新品で入手でき、しかもJRC4558Dを積んでいます。ヴィンテージ相場に手を出さずに本家の音が手に入ります
注意点
- 単体では歪みが足りない:Overdriveノブを全開にしてもクランチ止まりです。「これ1台で歪みを完結させたい」という用途には向きません。あくまでアンプありきのペダルです
- 低域が削られる:これは特徴でもあり弱点でもあります。太い低音でリフを鳴らしたい場合、TS808を挟むと痩せて聞こえます。ドロップチューニングの重いサウンドを求めるなら別のペダルを検討してください
- バッファードバイパスなので、オフでも音が変わる:ファズを前段に置くと相性問題が起きることがあります。True Bypassを望むなら改造か、TS808HWのような上位機が必要です
- 中域の癖が強く、曲を選ぶ:ミッドハンプは抜けの良さと引き換えに「TSの音」という強い個性を持ち込みます。ニュートラルな透明感が欲しい場面では、Klon系やRC Booster系のほうが合います
- TS9との価格差ほどの音の差はない:TS808とTS9の違いは出力段の抵抗数個です。「808のほうが高いから良い音」という単純な話ではなく、単に方向性が違うだけだと理解しておくと後悔しません
まとめ
Ibanez TS808は、「アンプの音をもう一段良くしたい」人のためのペダルです。歪みを追加する道具というより、アンプとギターの間に挟んで音の輪郭と押し出しを整える調味料に近い存在と考えてください。
こんな方に特におすすめです。
- クリーンアンプで、艶のある伸びやかなリードを弾きたい方
- ハイゲインアンプの低域がぼやけて、リフの粒立ちに悩んでいる方
- ペダルを何度も踏み替えず、右手とボリュームで音色をコントロールしたい方
- 「TS系」という言葉の意味を、クローンではなく本家で確かめたい方
そして何より、TS808はいつも同じ機材ばかり使ってしまう状態を壊してくれるペダルでもあります。手持ちのアンプの前にこれを1台挟むだけで、慣れきったはずの音が違って聞こえる。40年以上生き残ってきた理由は、たぶんそこにあります。まずは「Overdriveを絞ってLevelを上げる」——この設定だけ試してみてください。TS808が何をするペダルなのか、1分で分かります。


