Hiwatt DR103は、イギリス・Hylight Electronics社(のちのHiwatt)が製造する100Wのオール真空管ギターアンプヘッドです。1966年に創業者Dave Reeves(デイブ・リーブス)により開発され、1960年代末から70年代にかけてPink FloydのDavid GilmourやThe WhoのPete Townshendといった伝説的なギタリストがメインアンプとして採用したことで「クリーンでパンチの効いた英国ロックの象徴」としての地位を確立しました。Marshall Super Leadとは全く異なる設計哲学を持ち、Partridge(パートリッジ)製のハイファイ級出力トランスと軍用規格級のハンドワイヤングにより、100WのMarshallを上回るヘッドルームと、「薄くならない」豊かな低域を実現しています。プログレッシブロック、クラシックロック、ポストロックなど、「歪みはペダルで作り、アンプはクリーンでパンチのある土台を提供する」スタイルのプレイヤーに根強い人気があります。一言で表すなら、「David GilmourとPete Townshendが愛用した、Hi-Fi級のクリーンヘッドルームを誇る英国製100Wアンプ」です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
Hiwatt DR103の主な特徴とスペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| メーカー | Hylight Electronics / Hiwatt(イギリス) |
| 製造期間 | 1960年代末〜(現行リイシューも展開) |
| 出力 | 100W RMS(8Ω時) |
| パワー管 | EL34(6CA7)(英国製アンプに多く使われる真空管。ミッドレンジが豊かな音色が特徴)×4 |
| プリ管 | ECC83(12AX7)×3、ECC81(12AT7)×1 |
| チャンネル数 | 2(Normal:クリーン・パワフル、Brilliant:より高域が効いたチャンネル) |
| 入力 | 4入力(Normal用2、Brilliant用2。それぞれHi/Lowインピーダンス。下段がゲイン高) |
| コントロール | Bass、Middle、Treble、Presence。各チャンネルにプリゲイン。チャンネルをジャンプでリンク可能 |
| インピーダンス出力 | 4Ω / 8Ω / 16Ω 切替対応 |
| 出力トランス | Partridge製ハイファイ級ワイドバンド(3.6Hz〜112kHz)。当時の英国アンプでは稀な高品質 |
| その他 | ポイントトゥポイント(手配線)による組立、軍用規格級の品質(Harry Joyce監督) |
| 形状 | ヘッドアンプ(スピーカーキャビネット別売り) |
DR103の回路は、当時マーシャルクローンが蔓延するなか、独自の設計として開発されました。Normalチャンネルは常にクリーンで力強い特性を持ち、Brilliantチャンネルはよりゲインがあり、クランチを得る場合はこちらを使用します。Marshall Super Leadと比べて「同じ100Wでもはるかにヘッドルームがあり、クリーンで太い」と評され、Legendary Tones等では「薄くならない」「ボールジー」なトーンと形容されます。トーンコントロールのレスポンス範囲は当時のアンプより広く、Bass〜Presenceまで細かく調整可能です。
Hiwatt DR103に関するエピソード
Hiwattは1966年、Dave Reeves(デイブ・リーブス)が創設したHylight Electronicsから誕生しました。ReevesはそれまでSound Cityアンプの技術者としてFaneスピーカーに精通しており、その経験を活かしてMarshallとは一線を画した独自のアンプを開発しました。組立品質を監督したHarry Joyce(ハリー・ジョイス)は軍用規格の配線技術者で、全ての部品が修理しやすく配線が清潔であることを要求。その結果、月産わずか40台という限定的な生産となり、Marshallより稀少な存在となりました。
Pete Townshend(The Who)は、1969年から1982年頃まで、Dave Reevesがカスタム設計した「Super Who 100」(CP103ベース)をほぼ専用で使用しました。リンク入力で10dBブースト、ミドルとプレゼンスコントロールを撤去した特注モデルで、The Whoの爆音ライブにおけるパワーコードの破壊力は、このHiwattアンプなしには語れません。
David Gilmour(Pink Floyd)は1969年頃からHiwatt DR103をメインアンプとして採用しました。当初は2基のDR103をWEM Super Starfinder 200キャビネット(Fane Crescendo 4×12)と組み合わせ、1974年にはギターテックのPhil Taylorが追加のDR103を購入。2000年代まで使い続けています。Gilmourの歪みは主にペダル(Electro-Harmonix Big Muff Pi等)で作り、DR103は常にクリーンでヘッドルーム豊かな土台を提供。『Animals』(1976年)、『The Wall』(1979年)の「Comfortably Numb」ソロ、そして『Division Bell』ツアー(1994年)では最大6基のDR103を使用するなど、そのサウンドはPink Floydの定義そのものと言えます。
Hiwatt DR103と共に使用される機材
Hiwatt DR103と共に使用されるキャビネット
| キャビネット名 | 搭載スピーカー | 定番とされる理由 |
|---|---|---|
| Hiwatt SE4123 4×12 | Fane 50W(パープルバック等)×4 | DR103の純正キャビネット。Dave ReevesがSound City時代からFaneと関係が深く、50W Faneは低域がタイトで迫力あるサウンドを実現。13層バルティックバーチ構造と底部のリアポートで低域レスポンスを強化。David Gilmour、Pete Townshendともこの組み合わせで知られる |
| WEM Super Starfinder 200 | Fane Crescendo×4 | David Gilmourが1969〜1973年にDR103と組み合わせて使用。Gilmourトーンの象徴的な構成。WEM(Watkins Electronic Music)製の4×12で、Fane搭載モデルがDR103のクリーンと相性が良い |
| Hiwatt SE4123(Celestion Greenback搭載) | Celestion Greenback×4 | Faneの代替としてCelestion Greenbackを搭載した構成。より温かみのある英国らしいミッドを求める場合に選択される。Kemperのファクトリーリグでもこの組み合わせが収録されている |
Hiwatt DR103と共に使用されるエフェクター
| エフェクター名 | 役割 | 定番とされる理由 |
|---|---|---|
| Electro-Harmonix Big Muff Pi(Ram’s Head等) | ファズ/ディストーション | David Gilmourの代表的なセットアップ。DR103のクリーンヘッドルーム上でBig Muffの歪みがそのまま通過し、「Comfortably Numb」をはじめとしたソロトーンを実現。1974年頃にPhil TaylorがGilmourに紹介、1975〜76年頃から定番化 |
| Tube Driver(BK Butler / Chandler等) | オーバードライブ | David Gilmourが1980年代以降、特に『Pulse』などで使用。DR103のクリーンに適度なドライブを加え、ソロ時の甘いトーンを実現 |
| Delay(Binson Echorec、TC Electronic等) | ディレイ | DR103のクリーンな特性は、ディレイやリバーブを前段で混ぜたとしても濁りにくい。Gilmourはアナログ/テープ系ディレイを多用 |
Hiwatt DR103の兄弟機・派生機
| モデル名 | 特徴・違い |
|---|---|
| Hiwatt DR504(Custom 50) | 50W版。EL34×2、12AX7×4。同じ回路設計で出力半分。小音量やスタジオでブレイクアップを得やすく、レコーディング向け |
| Hiwatt CP103(Super Who 100) | Pete Townshend特注のCP103ベース。入力リンクで10dBブースト、ミドル・プレゼンス撤去。DR103のカスタム版 |
| Hiwatt Custom 100(現行リイシュー) | 現代のHiwatt社によるDR103のリイシュー。回路はオリジナルに忠実なハンドワイヤングを維持 |
Hiwatt DR103のモデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Hiwatt DR103は、David GilmourやPete Townshendのトーンを求めるプレイヤー向けに、主要なモデリング機器に収録されています。
Hiwatt DR103のQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Watt D103 Bright | Hiwatt DR103 |
| Amp | Watt D103 Normal | Hiwatt DR103 |
| Cabinet | 412 Watt S4123 | Hiwatt SE4123 4×12 |
Hiwatt DR103のFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | HIPOWER BRILLIANT | Hiwatt DR103 |
| Amp | HIPOWER NORMAL | Hiwatt DR103 |
| Amp | HIPOWER JUMPED | Hiwatt DR103(チャンネルジャンプ) |
| Cabinet | 4×12 HI-POWER (RW) | Hiwatt SE4123 4×12(1975年製、Fane 50W purpleback×4) |
Hiwatt DR103のKemperにおけるモデリング
Kemperはアンプをプロファイリング(実機をそのまま取り込む)する機器のため、ファクトリーリグではアンプとキャビネットが1つのリグにまとめて収録されています。キャビネット単独のエントリは存在しません。
| 種別 | モデル名(RIG NAME) | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Hiwatt Custom 100 | Hiwatt DR103(Custom 100) |
| Amp | David Gilmour’s Hiwatt 100 | David Gilmour使用のHiwatt DR103 |
Hiwatt DR103のLINE6 HELIXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | WhoWatt 100 | Hiwatt DR-103(Brilliant channel) |
| Cabinet | 4×12 WhoWatt 100 | Hiwatt AP 4×12(Fane) |
Hiwatt DR103の使用アーティスト
海外のアーティスト
| アーティスト名 | 音楽スタイル | 使用時期・関連アルバム |
|---|---|---|
| David Gilmour(Pink Floyd) | プログレッシブロック。クリーンと Big Muff によるソロトーンの象徴 | 1969年頃〜。『Animals』『The Wall』『The Division Bell』ツアー等。WEM Super Starfinder / Hiwatt SE4123とDR103の組み合わせで一貫して使用 |
| Pete Townshend(The Who) | ロック。爆音パワーコードの創始者的存在 | 1969〜1982年頃。CP103ベースの「Super Who 100」を特注使用。SE4123キャビネットと組み合わせ |
| Alex Lifeson(Rush) | プログレッシブロック | The Hiwatt Story(hiwattstory.com)等でRushのHiwatt使用が言及されている |
| The Edge(U2) | ロック。エフェクトを駆使したアルペジオサウンド | ツアーでHiwatt使用が確認されている(Legendary Tones等) |
日本のアーティスト
Hiwatt DR103は、国内では高価で稀少なヴィンテージアンプとして認知されています。DR103をメインアンプとして使用していることが信頼できる情報源で確認できる著名な邦楽アーティストについては、現時点で裏付けが取れていないため、ここでは記載を省略します。
Hiwatt DR103の特徴と注意点
特徴
- 圧倒的なヘッドルームとクリーン:100WのMarshall Super Leadより大きなヘッドルームを持ち、大音量でもクリーンを維持。「normalチャンネルは常にクリーンで力強い」とLegendary Tones等で評され、歪みはペダルで作るスタイルに最適です
- 太く薄くならないトーン:Partridge製トランスと回路設計により、高域がスパッと抜けつつ低域が豊か。「Marshallが薄く感じる」と実際のユーザーが比較で述べており、バンドミックスで埋もれにくい「パンチ」を持ちます
- レスポンシブなEQ:Bass、Middle、Treble、Presenceの各ノブの効き方が広く、当時の他社アンプより細かくトーニング可能です
- 軍用規格級の品質:Harry Joyce監督のハンドワイヤングは配線が清潔で修理しやすく、長寿命で知られます。ヴィンテージの優良品は「closet find」として高価で取引されます
注意点
- エフェクトループがない:オリジナルDR103にはエフェクトループが搭載されていません。リバーブやディレイをアンプループに入れたい場合には不向きです。ただしヘッドルームが高いため、前段のエフェクトをそのまま通しても濁りにくいという利点もあります
- 家庭での使用には過剰:100Wは家庭や小規模スタジオでは「ridiculous」と評されるほど過剰で、小音量では本来の良さを引き出しにくい面があります
- バイアス調整不可(ヴィンテージ):当時の設計ではバイアスが固定で、現代の新品真空管ではアンダーバイアスになりやすく、管の寿命が短くなる可能性があります。可変バイアス抵抗の追加改造が推奨される場合があります
- ヴィンテージはメンテナンスが必要:古い機種ではメインズハム、ポットのノイズ、マイクロフォニックな真空管、接地不良などが報告されています。専門業者による点検・整備が望ましいです
まとめ
Hiwatt DR103は、David GilmourとPete Townshendが愛用した、英国製100Wの「Hi-Fi級クリーンアンプ」です。Marshallとは異なる設計哲学のもと、Partridgeトランスと軍用規格級の組立品質で、圧倒的なヘッドルームと薄くならない豊かなトーンを実現しています。
「ペダルで歪みを作り、アンプはクリーンでパンチのある土台を担いたい」「David GilmourのようなBig Muff + クリーンアンプのトーンを再現したい」「プログレやポストロックで、大音量でもクリーンを維持したい」という方には特におすすめです。実機は高価かつ稀少ですが、QUAD CORTEX、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIXのいずれにもDR103系のモデリングが収録されているため、まずはモデリングでその世界観を体験してみてください。
