
Victory Amps Krakenは、Marshall JCM900とPeavey 5150の2つのキャラクターを1台に収めた、2チャンネルのハイゲイン・ギターアンプです。2015年に発売され、2023年にはMKIIが登場しています。
Victory Amps Krakenは、イギリス・Victory Amps社が製造するハイゲイン系のギターアンプシリーズです。2015年にユーチューバー兼ギタリストのRabea Massaad(ラベア・マサード)と共同開発で登場し、彼が愛用していたMarshall JCM900とPeavey 5150の両方のキャラクターを1台に融合した設計が特徴です。 Gain Iはヴィンテージ寄りのブリティッシュゲイン、Gain IIはタイトでカッティングなアメリカン・ハイゲインという2チャンネル構成で、メタル・ハードコア・プログレッシブロックなど、「英国と米国のハイゲインの良いとこ取り」を求めるプレイヤーに支持されています。一言で表すなら、「Rabea Massaadが4年の歳月をかけて共に開発した、JCM900と5150を統合したコンパクト・ハイゲインアンプ」です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
Victory Krakenには複数の派生モデルがあり、本項では代表的なVX The Kraken 50W(オール真空管ヘッド)のスペックを中心に記述します。
スペック面の要点は、Gain IとGain IIの2チャンネル構成と、6L6とEL34から選べるパワー管、ランチボックスサイズの小型ヘッドという点です。
| メーカー | Victory Amps(イギリス) |
|---|---|
| 発売年 | 2015年(初代)。MKIIは2023年 |
| 出力 | 50W RMS(VX Kraken 50W) |
| パワー管 | 6L6GCまたはEL34×2(標準は6L6) |
| プリ管 | 12AX7(ECC83)×4 |
| チャンネル数 | 2(Gain I/Gain II)。MKIIは実質3モード |
| コントロール | Bass、Middle、Treble、Gain、Master |
| インピーダンス出力 | 4Ω/8Ω/16Ω切替(VXモデル) |
| その他 | シリーズエフェクトループ、フットスイッチ対応 |
| 形状 | ヘッドアンプ(キャビネット別売り) |
出力は50W RMS(VX Kraken 50W)で、ローパワーモードでは約9W、シングルエンドモードでは2W未満になります。
パワー管は6L6GCまたはEL34(英国製アンプに多く使われる真空管。ミッドレンジが豊かでブリティッシュな音色が特徴)のいずれか×2で、標準は6L6、EL34はオプションです。プリ管は12AX7(ECC83。プリアンプ用真空管)×4です。
チャンネルは2つで、Gain Iがブリティッシュ寄りのヴィンテージゲイン、Gain IIがタイトなアメリカン・ハイゲインです。MKIIではGain Iにクリーンモードが追加され、実質3モードになります。
コントロールはBass、Middle、Treble、Gain、Masterです。MKIIではPresence、Presence Shiftスイッチ、デュアルマスター(割り当て可能)、Bass Focusスイッチが加わります。
MKIIは外部バイアステストポイントとリアのPresence Shiftスイッチも備えます。ヘッドアンプ(スピーカーキャビネット別売り)で、コンパクト・ランチボックスサイズのため機内持ち込みも可能です。発売年は2015年(初代Kraken)で、VX Kraken MKIIは2023年です。
Krakenの設計コンセプトは、Rabea Massaadがライブでステレオセットアップとして使用していた「Marshall JCM900+Peavey 5150」の両方のトーンを1台に集約することでした。 Gain Iはややルーズでヴィンテージ感のあるブリティッシュ系のクランチ〜リード、Gain IIは低域が締まりミッドがカッティングなアメリカン・ハイゲインです。 6L6とEL34の切り替えにより、よりタイト(6L6)か、よりミッドが艶やか(EL34)かを選択できます。
エピソード
Rabea Massaadは、FrogLeap、Toska、Dorjeなどのバンドでギタリストとして活動し、YouTubeで機材レビューや演奏動画を多数公開しているプレイヤーです。彼は従来、Marshall JCM900とPeavey 5150をステレオで組み合わせて使用していました。Victory Amps社は、この2台のアンプのキャラクターを1台に統合するアンプの開発をRabeaと共に約4年かけて進め、2015年に初代Krakenをリリースしました。 MusicRadarなどの取材では、Rabeaが「MKIが最も評価されていた汎用性とフィールを保ちつつ、トーンを強化する」ことをMKIIの目標として語っており、2023年のMKIIではクリーンモードの追加やPresenceコントロールの導入が実現しています。
Bill Kelliher(Mastodon)は、VX100 Super Krakenをライブとスタジオの両方でメインアンプとして使用しています。 Victory公式アーティストページで使用が明記されており、「スーパータイトで明瞭、豊富なゲイン、クリーンも優秀」と評されています。 インタビューでは、自宅用のFriedmanアンプとSuper Krakenの組み合わせについて「この2つを合わせた音に匹敵するものはない」と語っており、Mastodonの重厚なリフとプログレッシブなアレンジに対応するハイゲインサウンドの核となっています。
Laurent Barnard(Gallows / Gold Key)は、Victory公式でV30 JackとVX Krakenをライブおよびスタジオで使用していることが確認されています。 Gallowsのハードコア・パンク、Gold Keyのダークなロックサウンドにおいて、Krakenの2チャンネル構成がリズムとリードの切り替えに活用されていると考えられます。
共に使用される機材
共に使用されるキャビネット
- Victory Kraken 112:搭載スピーカーはCelestion Vintage 30(V30)×1です。Victory純正のKraken用1×12キャビネットで、V30を搭載したクローズドバック広ボディがKrakenのハイゲインと相性が良いとされています。
- Victory V212-VV(2×12縦型):搭載スピーカーはCelestion Vintage 30×2です。Victory純正のV30搭載2×12で、Krakenとペアで使うことを想定したコンパクト縦型です。4×12から乗り換えたユーザーもいます。
- Mesa/Boogie Rectifier 4×12(スタンダードOS等):搭載スピーカーはCelestion Vintage 30×4です。V30のタイトな低域と明瞭なミッドがKrakenのアメリカン寄りハイゲインと相乗します。Peavey 6505と同様に、ハイゲインアンプの定番ペアリングとして推奨されます。
- Marshall 1960(V30搭載モデル等):搭載スピーカーはCelestion Vintage 30×4です。Gain Iのブリティッシュ寄りトーンに適した組み合わせで、Marshallの温かみとKrakenのゲインの相性が良いとされています。
共に使用されるエフェクター
- Victory V1 Kraken(オーバードライブペダル):Krakenアンプのプリアンプをペダル化したオーバードライブです。While She SleepsのSean LongがV4 KrakenとV1 Krakenオーバードライブの組み合わせを「最高の相性」と評価しており、アンプとトーンを統一したい場合の選択肢になります。
- Ibanez Tube Screamer(TS808 / TS9)や同系OD:Driveをゼロに近く、Levelでプリアンプを押し込むブースターとして使います。Gain IIにTS系を前段でブーストすると低域が締まりアタックがシャープになります。ハイゲインアンプ全般の定番手法で、Krakenでも同様の使い方が有効です。
- その他OD/ブースター(Maxon OD808、Boss SD-1等):クリーンブーストとして使います。ミッドブースト系ペダルでミックスで抜けやすくなり、フォーラムなどで推奨される組み合わせです。
兄弟機・派生機
VX The Kraken 50W(MKI)
初代のオール真空管50Wヘッドです。Gain IとGain IIの2チャンネルで、6L6またはEL34を選択できます。
VX The Kraken MKII 50W
MKIの改良版です。Gain Iにフットスイッチ可能なクリーンモードを追加して実質3モードになり、Presenceコントロール、Presence Shiftスイッチ、デュアルマスター、外部バイアスポートも加わりました。トーンを拡張しつつMKIの特性は維持しています。
VX100 The Super Kraken
100W版です。6L6×4、30Wローパワーモードを備え、クリーンチャンネルと2段階ゲインモード、Preamp Focus、Power Amp Bass Focus、MIDI切替に対応します。Bill Kelliher(Mastodon)が使用しています。
V4 The Kraken
超軽量(1.7kg)のコンパクトヘッドです。V4真空管プリアンプと180W Class Dパワーアンプを搭載し、Two Notes DynIR内蔵、Cab Sim XLR、ヘッドホン出力、リバーブも備えます。持ち運び重視の方向けです。
V4 The Kraken Preamp
スタンドアロンのプリアンプペダルです。4本の真空管を搭載し、他のアンプや録音用にKrakenトーンを利用できます。
モデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。 Victory Amps Krakenは、Neural DSP QUAD CORTEXに収録されていますが、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIXの現行モデルにはKraken専用のアンプモデルは収録されていません。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Victor Squid Ch1 | Victory Amps Kraken |
| Amp | Victor Squid Ch2 | Victory Amps Kraken |
| Amp | Victor Mega Squid | Victory Super Kraken |
| Cabinet | 412 CA Stand OS A V30 ’01 | Mesa Oversize Angled with Celestion Vintage 30 |
Kraken専用キャビネットは収録されていないため、相性の良いMesa Rectifier系V30キャビネットを掲載しています。
Fractal Audio Systems における収録
現行ラインナップ(Axe-Fx III / FM3 / FM9)にはVictory Krakenのアンプモデルは収録されていません。 Fractal Audioフォーラムではユーザーからの要望が複数投稿されており、類似トーンとして Soldano SLO 100 Leadや5150系モデルの組み合わせで近似できるとされています。
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | 現行ラインナップには収録されていません | — |
| Cabinet | 4×12 Recto1 / 4×12 Recto2 | Mesa/Boogie 4×12 Rectifier |
Kraken専用キャビネットは収録されていないため、相性の良いMesa Rectifier系キャビネットを掲載しています。
Kemper における収録
Kemperはアンプをプロファイリング(実機をそのまま取り込む)する機器のため、ファクトリーリグではアンプとキャビネットが1つのリグにまとめて収録されています。 キャビネット単独のエントリは存在しません。 ファクトリーリグのRIG NAME列を確認したところ、Victory Krakenに該当するリグは見つかりませんでした。現行のファクトリーリグには収録されていません。
LINE6 HELIX における収録
LINE6 HELIX公式モデルリスト(line6.jp/helix-models/)の「ベース」列を確認したところ、Victory Krakenに該当するアンプモデルは見つかりませんでした。 現行ラインナップには収録されていません。
使用アーティスト
海外のアーティスト
- Rabea Massaad/プログレッシブ・インストゥルメンタルロック:FrogLeap、Toska、DorjeのギタリストでYouTube機材レビュアーです。Krakenの共同開発者で、2015年の初代リリース以降、メインアンプの一つとして使用しています。
- Bill Kelliher(Mastodon)/プログレッシブメタル:Victory公式でVX100 Super Krakenをライブ・スタジオで使用していると明記されています。近年はフライリグ運用もありますが、Super Krakenはスタジオ・自宅用として継続して使用しています。
- Laurent Barnard(Gallows / Gold Key)/ハードコア・パンク、ダークロック:Victory公式でV30 JackとVX Krakenをライブ・スタジオで使用していると確認されています。
- Joseph Rowley(Insurgent)/メタルコア:Victory公式でVX Krakenランチボックスヘッドを使用しています。「ライブでよくカットし、必要な低域を維持する」と評価しています。
- Sean Long(While She Sleeps)/メタルコア:V4 KrakenとV1 Krakenオーバードライブの組み合わせを愛用しているVictory公式アーティストです。
- Scotti Hill(Skid Row)/ハードロック:Victory公式アーティストとして、V4 Kraken等の使用が掲載されています。
日本のアーティスト
Victory Amps Krakenをメインアンプとして使用していることが信頼できる情報源で確認できる著名な邦楽アーティストについては、現時点で裏付けが取れていないため、ここでは記載を省略します。
よくある疑問
Krakenの初代MKIとMKIIは何が違いますか?
最大の違いはクリーンモードとPresenceコントロールの有無です。MKIはGain IとGain IIの2チャンネルのみでクリーンがなく、Presenceコントロールもありません。MKIIはGain Iにクリーンモードが加わって実質3モードになり、Presence、Presence Shiftスイッチ、デュアルマスター、外部バイアスポートも追加されています。
QUAD CORTEXがあればKrakenの実機は不要ですか?
Krakenの音を試す目的なら、まずモデリングで十分に体験できます。QUAD CORTEXにはVictor Squid(Kraken)とVictor Mega Squid(Super Kraken)が収録されています。一方、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIXの現行モデルにはKraken専用のアンプモデルがありません。実機のランチボックスサイズや6L6/EL34の選択といった要素まで求めるなら、実機が必要です。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- 英国と米国ハイゲインの融合:Gain IがMarshall JCM900風、Gain IIがPeavey 5150風という設計で、1台で両方のキャラクターを切り替え可能です。 ステレオセットを1台にまとめた実用性が高く、Rabea Massaadの実戦ニーズに基づいた設計だからです
- コンパクトで持ち運びやすい:VX Kraken 50Wはランチボックスサイズで機内持ち込み可能な重量です。 100WのSuper Krakenでも比較的コンパクトで、ツアーでの運用がしやすいと評されます
- 6L6/EL34の選択が可能:パワー管を6L6またはEL34で選択でき、6L6はよりタイトでアメリカン、EL34はよりミッドが艶やかでブリティッシュ寄りのトーンになります。 好みに応じたチューニングが可能です
- Bass Focusスイッチ(VXモデル):パワーアンプセクションの低域を「タイト」か「レゾナント」で切り替えられ、メタルリフ用の締まった低域と、やや太いヴィンテージ寄りの低域を使い分けられます
注意点
- 初代MKIにはクリーンチャンネルがない:Gain IとGain IIのみの構成のため、本格的なクリーンが欲しい場合はMKIIやSuper Krakenを検討する必要があります。 MKIIではGain Iにクリーンモードが追加され、この点は解消されています
- 初代MKIにはPresenceコントロールがない:高域の微調整が限られ、「Presenceが欲しい」という声がMKII開発の一因となりました。 細かいトーニングにはMKIIが向いています
- V4 Krakenプリペダルの4ケーブル法使用時:他アンプのエフェクトループ経由で使用すると、高域が落ちこんだマフな音になりやすいという報告があります(MyLesPaulフォーラム等)。 4ケーブル法で使う場合は、アンプとの相性確認が推奨されます
まとめ
Victory Amps Krakenは、Rabea Massaadが約4年かけてVictory社と共同開発した、Marshall JCM900とPeavey 5150の両方のキャラクターを1台に統合したハイゲインアンプです。 Gain Iでブリティッシュ寄りのクランチ〜リード、Gain IIでタイトなアメリカン・ハイゲインを得られ、6L6/EL34の選択でトーンを細かく調整できます。 コンパクトでツアーに適したサイズも魅力です。
「JCM900と5150の両方のトーンが欲しい」「1台で幅広いハイゲインをカバーしたい」「コンパクトな真空管ハイゲインアンプを探している」という方には特におすすめです。 QUAD CORTEXにVictor Squid(Kraken)およびVictor Mega Squid(Super Kraken)が収録されているため、まずはモデリングでKrakenの世界観を体験してみてください。

