Electro-Harmonix Russian Big Muffとは?名機サクッと解説

「同じBig Muffなのに、なぜかロシア製だけ音が違う」――ファズ好きの間で語り継がれてきたのが、Electro-Harmonixのロシア製Big Muff、通称Russian Big Muff(ロシアン・ビッグマフ)です。1991年から2009年にかけてロシア・サンクトペテルブルクのSovtek(ソブテック)工場で製造されたこのシリーズは、アメリカ製のオリジナルBig Muff Pi(トライアングル・ラムズヘッド・ピラミッド等)とは異なる、より低ゲインで低域が太く中域が明るいキャラクターを持ち、オルタナティブロック・ストーナーロック・ブルースロックはもちろん、ベーシストからも支持を集めてきました。「Civil War(シビル・ウォー)」「Green Russian(グリーン・ロシアン)」「Black Russian(ブラック・ロシアン)」と呼ばれる複数のバージョンが存在し、それぞれ微妙に異なる個性を持つ点も語り草になっている理由です。

名機サクッと解説

「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。

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Electro-Harmonix Russian Big Muffの主な特徴とスペック

項目内容
エフェクトの種類ファズ/ディストーション(歪み系エフェクトの中でも、粒立ちの粗い倍音を多く含むタイプ)。Bob Myer氏が設計したオリジナルBig Muff回路をベースに、ロシアの工場で生産
コントロールVolume(出力音量)、Sustain(歪み量。ロシア版ではしばしば「Sustain」または「Distortion」と表記)、Tone(トーン。高域寄り〜低域寄りまで幅広く音色を変化させる)の3ノブ
電源オリジナルのロシア製版は9V電池のみに対応(外部アダプター非対応)。現行のGreen Russian Big Muff(リイシュー)では9V電池に加え、EHX製9.6VDC-200mAアダプターにも対応。消費電流は約2.2mA(リイシュー版)
入出力端子モノラル1系統(インプット・アウトプット各1)
バイパス方式トゥルーバイパス(エフェクターをオフにしたとき、内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。オフ時の音質劣化が少ない)
筐体サイズ現行のGreen Russian Big Muff(リイシュー)で約70(幅) × 115(奥行) × 51(高さ) mm(約2.75 × 4.5 × 2インチ)
重量現行のGreen Russian Big Muff(リイシュー)で出荷重量約0.65ポンド(約295g)
製造国 / ブランドElectro-Harmonix(アメリカ)。オリジナルのロシア製版はロシア・サンクトペテルブルクのSovtek工場で生産。現行のリイシュー版はアメリカ・ニューヨークで組み立て
発売年1991年に最初期版「Civil War」が登場し、以後「Green Russian(Tall Font/Bubble Font)」「Black Russian」と続きながら2009年までロシアでの生産が続いた。現行品としてはGreen Russian Big Muffがリイシューされ販売中

Electro-Harmonix Russian Big Muffはどんな音がするのか

Russian Big Muffのサウンドを一言で表すなら「アメリカ製オリジナルより低ゲインで、低域が太く、中域が明るいファズ/ディストーション」です。1970年代のトライアングルやラムズヘッドといったアメリカ製オリジナルが荒々しく暴れるタイプだとすれば、ロシア製は同じBig Muffでも一段落ち着いた、より扱いやすいキャラクターだとイメージすると分かりやすいです。

全体的なキャラクターとしては、アメリカ製オリジナルに比べてゲインは控えめながら、低域の量感と中域の明るさが際立ちます。特に初期の「Civil War」や「Green Russian」は、滑らかで温かみのあるサステインが持ち味で、後期の「Black Russian」に近づくにつれてやや粒立ちの粗い、グリッティーな質感に変化していきます。

周波数帯域は、低域がしっかり太く出るのに対してブーミー(低域が膨らみすぎて輪郭を失う状態)にはなりにくく、中域も明るく前に出るため、ミックスの中で埋もれにくいのが特徴です。この「太いのに抜ける」バランスの良さから、ギターだけでなくベースにも愛用者が多いのがロシア製ならではのポイントです。

ゲイン量・歪みの質感は、Sustainを上げ切ってもアメリカ製オリジナルほど暴れすぎず、粘り気のあるサステインを伴った太いファズ〜ディストーションが得られます。Toneを絞ると温かく丸いフズ、上げると明るくジャリっとしたエッジが立つため、1台でかなり幅広い音作りが可能です。

ダイナミクスへの追従性はBig Muff系ファズの中では比較的素直な部類で、ピッキングの強弱がサステインの伸び方に反映されます。Marshall系のブリティッシュアンプと組み合わせると、太い低域と明るい中域がアンプ本来の歪みと絡み合い、うねるようなサステインが得られます。Fender系のクリーンアンプと組み合わせれば、ロシア製ならではの温かく粘り気のあるファズトーンが際立ちます。

Electro-Harmonix Russian Big Muffのエピソード

Electro-Harmonixは1984年に一度商標を手放した後、創業者Mike Matthews氏が冷戦終結後のロシアでビジネスチャンスを見出し、Sovtekというブランドを立ち上げました。Sovtekの成功によって資金を得たMatthews氏は、その後Electro-Harmonixの商標を買い戻すことになります。ロシア製Big Muffはこの時期に生まれたシリーズで、最初期の「Civil War」(1991年発売、通称の由来は南北戦争の南軍・北軍の制服を思わせるブルーとグレーの配色とレタリング)を皮切りに、「Green Russian」「Black Russian」と生産が続きました。

Pink Floydのデヴィッド・ギルモア(David Gilmour)は、1994年のDivision Bellツアーにおいて、それまで愛用していたラムズヘッド版Big Muffに代わり、Sovtek製「Civil War」Big Muffをメインのファズ/ディストーションとして使用しました。ラムズヘッドよりも中高域が前に出た、やや飽和感の少ないサウンドが特徴で、2015〜2016年のRattle That Lockツアーでも同モデルが使われています。

The Black Keysのダン・オーバック(Dan Auerbach)は、初期のギター&ドラムのデュオ編成でベーシストがいない中、低域が太く歪みも滑らかな「Green Russian」Big Muffを愛用し、この課題を解決しました。Volumeを11時半、Sustainを4時、Toneを9時に設定して低域とミッドを強調するセッティングは、『Thickfreakness』『Rubber Factory』といった初期アルバムのヘヴィなサウンドの核となっています。

Museのベーシストクリス・ウォルステンホルム(Chris Wolstenholme)は、『Origin of Symmetry』期のツアー中に「Black Russian」Big Muffを入手して以来、これを自身のベースサウンドの中心に据えてきました。ギター信号を複数のMarshallアンプに分岐させ、1系統をBig Muffで歪ませてブレンドするという手法で、Museの重厚なベーストーンを支える定番機材の1つとなっています。

Creedence Clearwater Revivalのジョン・フォガティ(John Fogerty)も、ロシア製「Civil War」期のBig Muffの熱心なコレクター・愛用者として知られています。

日本国内では、asobiusのギタリスト髙橋真作氏が自身のペダルボードに「Green Muff」を組み込むほどのBig Muffフリークとして知られており、そのファズサウンドは楽曲「Window」などで聴くことができます。

Electro-Harmonix Russian Big Muffの使い方と信号チェーンでの位置づけ

信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)では、他のファズペダルと同様にギター側に近い前段に置くのが基本です。ワウの後、モジュレーションや空間系エフェクトの前に配置するのが定番。ベースで使う場合も同様に、コンプレッサーの後・空間系の前という位置取りが一般的です。

典型的なセッティング例:

  • 王道の太いファズ・トーン(Dan Auerbach的セッティング): Volume = 11時半、Sustain = 4時、Tone = 9時。低域とミッドを強調し、ヘヴィで粘り気のあるファズを作る。
  • ギルモア的なブリティッシュ・ディストーション: Sustainを高め、Toneを12時前後。ラムズヘッドより中高域が前に出た、やや飽和感を抑えたディストーション寄りのファズを狙う。
  • ベースでの土台作り: Sustainを低〜中程度に抑え、Toneで明るさを調整。ブレンダー(原音とのミックス機能を持つ機材)と併用し、低音の芯を保ちながらファズ感を足す。

アンプとの組み合わせでは、Marshall系のブリティッシュアンプと合わせるとアンプ自体の歪みと絡み合ってうねるようなサステインが得られ、Fender系のクリーンアンプと合わせるとロシア製ならではの温かく太いファズトーンが際立ちます。

Electro-Harmonix Russian Big Muffと相性の良い機材

相性の良いギターアンプ

アンプ出力 / 特徴Russian Big Muffとの組み合わせが人気な理由
Marshall系(ブリティッシュ・スタック)50〜100W級 / ブリティッシュな中域と歪みChris Wolstenholmeが複数のMarshallアンプにブレンドする手法で使用。アンプ自体の歪みとBig Muffの太さが絡み合い、重厚なサウンドになる
Fender系クリーンアンプ出力はモデルにより様々 / 抜けの良いクリーン基調ロシア製ならではの温かく粘り気のあるファズトーンが際立つ組み合わせ。クリーンな土台の上にファズの個性がそのまま乗る

相性の良いエフェクター

エフェクター役割この組み合わせが定番な理由
オクターブ・ペダル(EHX Micro POG等)ファズにオクターブ感を重ねるストーナー・ドゥーム系のプレイヤーの間で、Big Muffのファズにオクターブを重ねて音の厚みを足す使い方が定番となっている
ブレンダー・ペダル原音とファズ音をミックスするベースでBig Muffを使う際、低音の芯を残しながらファズ感を足すために原音とブレンドする使い方が広く知られている

Electro-Harmonix Russian Big Muffの兄弟機・派生機

モデル位置づけ違い
Civil War(V7、1991〜1994年)最初期のロシア製版ブルーとグレーの配色が特徴。滑らかで温かみのあるサステインを持つ、ロシア製Big Muffの原点
Green Russian(Tall Font/Bubble Font、V7C、1994〜2000年頃)army green(アーミーグリーン)の外観で知られる版Civil Warと近いDNAを持つ温かなサステインが特徴。後期のBubble Font版はコンデンサ値の変更により、初期版よりやや粒立ちの粗い音になった
Black Russian(Large Box→Small Box、V7D/V8、1998〜2009年)後期のロシア製版黒い筐体に黄色のグラフィックへ変更。Small Box版は改造ベースとして人気が高く、グリーン版よりグリッティーな質感を持つ
Green Russian Big Muff(現行リイシュー)現行の再生産版1990年代半ばのGreen Russianを忠実に再現した現行モデル。army greenの筐体、Volume・Sustain・Toneの3ノブ構成、トゥルーバイパスを踏襲
アメリカ製Big Muff Pi(トライアングル・ラムズヘッド・ピラミッド等)ロシア製とは別系統のオリジナル版アメリカ製オリジナルはロシア製よりもゲインが高く荒々しい傾向。ロシア製は低ゲインで低域が太く、中域が明るいという逆の個性を持つ

Electro-Harmonix Russian Big Muffのモデリング・シミュレーション

エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Russian Big Muffは定番ファズとして、各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターに個別モデルとして収録されていることがあります。

Electro-Harmonix Russian Big MuffのQUAD CORTEXにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectSoviet FuzzElectro-Harmonix Russian Big Muff

Neural DSPの公式デバイスリスト(neuraldsp.com/device-list)のGuitar effectsセクションには、Russian Big Muffを再現したモデルが「Soviet Fuzz」として収録されており、元となった実機がElectro-Harmonix Russian Big Muffであることが明記されています。なお、アメリカ製オリジナルのBig Muff Piは別モデル「Fuzz Pi」として収録されており、QUAD CORTEXでは両者が区別されています。

Electro-Harmonix Russian Big MuffのFractal Audio Systemsにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectPI Fuzz – RussianSovtek製「Civil War」Big Muff Pi

Fractal Audio機器のDriveブロックには、Sovtek製「Civil War」Big Muff Piをベースにした「PI Fuzz – Russian」モデルが収録されています。これはアメリカ製オリジナルをベースにした「PI Fuzz – Triangle」(1971年製トライアングル版)や「PI Fuzz – Ram’s Head」(1970年代半ばのラムズヘッド版)とは別に用意された、ロシア製版専用のモデルです。

Electro-Harmonix Russian Big MuffのLINE6 HELIXにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectDark Dove FuzzElectro-Harmonix Russian Big Muff

LINE6 HELIXの公式エフェクトモデルリストには「Dark Dove Fuzz」というモデルが収録されており、「ベース」列にはElectro-Harmonix Russian Big Muffが明記されています。アメリカ製オリジナルのトライアングル版をベースにした「Triangle Fuzz」とは別に、ロシア製版専用のモデルとして用意されている点がポイントです。

Electro-Harmonix Russian Big MuffのKemperにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectMuffin(参考程度)Electro-Harmonix Big Muff(バージョン不特定)

Kemperのストンプエフェクト「Muffin」は、Kemper公式フォーラムの資料で「Electro Harmonix BigMuffをモデルにしたもの」と説明されていますが、Civil War・Green Russian・Black Russianといったロシア製版を名指しでモデルにしたという公式な記載は確認できませんでした。QUAD CORTEX・Fractal・HELIXのように「ロシア製版専用」と明言されたモデルではないため、Russian Big Muff固有のモデルとしては「収録されているとは言い切れない」という点にご注意ください。OS 8.0以降の統合型オーバードライブ「Kemper Drive」の参照元リストにもRussian Big Muffは含まれていません。

Electro-Harmonix Russian Big Muffの使用アーティスト

海外のアーティスト

アーティスト音楽スタイル使用・補足
David Gilmourプログレッシブロック(Pink Floyd)1994年のDivision Bellツアー、および2015〜2016年のRattle That LockツアーでSovtek製「Civil War」Big Muffをメインのファズ/ディストーションとして使用
Dan Auerbachガレージロック/ブルースロック(The Black Keys)『Thickfreakness』『Rubber Factory』等の初期アルバムで「Green Russian」Big Muffを愛用。ベーシスト不在のデュオ編成における低域の太さを補う役割を果たした
Chris Wolstenholmeオルタナティブロック/プログレッシブロック(Muse、ベース)『Origin of Symmetry』期以降「Black Russian」Big Muffを自身のベースサウンドの中心に据えている
John Fogertyルーツロック(Creedence Clearwater Revival)ロシア製「Civil War」期のBig Muffの熱心なコレクター・愛用者として知られる

日本のアーティスト

アーティスト音楽スタイル使用・補足
髙橋真作(asobius)オルタナティブロック自身のペダルボードに「Green Muff」を組み込むほどのBig Muffフリークとして知られ、そのファズサウンドは楽曲「Window」等で聴くことができる

Electro-Harmonix Russian Big Muffの特徴と注意点

特徴

  • アメリカ製オリジナルより低ゲインで太い低域:ブーミーになりすぎず、しっかり前に出る中域と合わさることで、ギターだけでなくベースにも使いやすいバランスを持つ。ミックスの中で埋もれにくい太さが評価されている。
  • バージョンごとに異なる個性を楽しめる:Civil War・Green Russian・Black Russianとそれぞれ微妙にサウンドが異なり、同じ「ロシア製Big Muff」というくくりの中でも選ぶ楽しみがある。
  • Marshall系アンプとの相性の良さ:ブリティッシュアンプの歪みと絡み合ったときのうねるようなサステインが、多くのプレイヤーに支持されている。

注意点

  • オリジナルのロシア製版は電池駆動のみ:外部アダプター非対応のため、電池切れのリスク管理が必要。この不便さが後の生産終了の一因になったとも言われている。
  • バージョンごとの個体差・情報の複雑さ:Tall Font/Bubble Font/Large Box/Small Boxなど細かなバリエーションが多く、中古市場で「本当に狙ったサウンドのバージョンか」を見極めるのが難しい。

まとめ

Electro-Harmonix Russian Big Muffは、「アメリカ製オリジナルより低ゲインで太い低域」「バージョンごとに異なる個性」「Marshall系アンプとの好相性」がそろった、通常のBig Muff Piとは一味違うファズを求めるプレイヤーのための1台です。デヴィッド・ギルモアやダン・オーバック、クリス・ウォルステンホルムといった名だたるアーティストが、それぞれ異なるバージョンを自身のサウンドの核に据えてきた歴史も、このペダルの奥深さを物語っています。

こんな演奏をしたい方に特におすすめです。

  • オルタナティブロックやガレージロックで、太く粘り気のあるファズトーンを求める方
  • アメリカ製オリジナルのBig Muffとは違う、低ゲインで中域の明るいファズを試してみたい方
  • ギターだけでなくベースでも、埋もれない太さのあるファズを探しているベーシスト

同じ「Big Muff」という名前でも、ロシア製ならではの個性は一度弾けばはっきりと分かります。気になった方はぜひ、Civil War・Green Russian・Black Russianそれぞれの音の違いを聴き比べてみてください。

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この記事を書いた人

趣味はギター、カメラ、料理。
好きなものはメタルコア、ビール、CAPCOM、FROMSOFTWARE。

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