
ファズの歴史をたどっていくと、必ず「Tone Bender」という名前にぶつかります。1960年代のイギリスで生まれ、Jimmy PageやJeff Beck、Mick Ronsonといった面々が鳴らしてきた回路です。ただしオリジナルはゲルマニウムトランジスタ(気温で特性が変わりやすい古い素子)を使っており、ヴィンテージ個体は高価なうえ、機嫌を損ねると本来の音が出ないという厄介な代物でもあります。
その「気難しさ」だけを取り除いて、音はそのまま持ってきたのが JHS Pedals Bender(サブタイトル「1973 London」) です。1973年製の Sola Sound Tone-Bender MkIII を、現代のシリコントランジスタで再構築したファズペダルになります。
向いているのは1960〜70年代寄りのクラシックロック、ガレージロック、グラムロック、そしてブルースロック。分厚くうなるファズの芯に、カミソリのような鋭さが混ざった音が持ち味です。このペダルが評価される理由をひと言でまとめると、「ヴィンテージMkIIIの音を、毎回同じように出せること」。ファズにおいてこれは、想像以上に大きな価値です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
JHS Bender 1973 Londonの主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エフェクトの種類 | ファズ(元の信号の波形を大きく潰して、ざらついた分厚い歪みを作るエフェクト)。3石トランジスタのTone Bender MkIII回路がベース |
| コントロール | Attack(ファズの深さ)、Tone(明るさ〜暗さの調整)、Volume(出力レベル)の3ノブ |
| 追加スイッチ | 筐体側面の赤いプッシュボタンで JHSモード を起動。ゲインが増し、中音域がブーストされます |
| トランジスタ | シリコン(オリジナルのゲルマニウム3石を、慎重に選定した現代のシリコン素子に置き換え) |
| 電源 | 9Vバッテリー、または DC 9V アダプター(2.1×5.5mm・センターネガティブ極性) |
| 消費電流 | 5mA |
| 入出力端子 | モノラル1系統 |
| バイパス方式 | True Bypass(エフェクターをオフにしたとき、内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。音質の劣化が少ない)。LEDインジケーター付き |
| 筐体サイズ | 流通業者の記載では 144×92×51mm(外箱の寸法を含む可能性があります。JHS公式に本体寸法の記載はありません) |
| 製造国 / ブランド | アメリカ(USAで組み立て)/ JHS Pedals(カンザスシティ) |
| 発売年・現行品か | 2020年、「Legends of Fuzz」シリーズの1機種として発売。現行品。実売179ドル前後 |
スペック表で見落としてほしくないのは電源まわりです。オリジナルのTone Bender MkIIIには9V DCジャックがなく、電池駆動のみでした。JHS Benderは9Vアダプターに対応し、True BypassとLEDも備えています。「ヴィンテージファズをペダルボードに組み込むときの面倒ごと」がすべて解消されているのが、この機材の実務的な価値です。
JHS Bender 1973 Londonはどんな音がするのか
以下はMarshall系のクランチアンプ、およびFender系のクリーンアンプの前段に置いた場合の話です。ファズはアンプとの相互作用が特に大きいエフェクトなので、この前提は重要です。
全体のキャラクター
ひと言でいうと「分厚くうなる芯に、カミソリの刃が混ざっている」音です。Big Muff系のような壁のような飽和感とは違い、MkIII系のファズには荒れた粒立ちとエッジがあります。GuitarPlayer誌のレビューは、この特性を「濃厚でうなるようなコアのトーンに、鋭いバイトとわずかにかすれたエッジが切り込む力を与えている」と表現しています。
時代感としては1970年代前半のクラシックロックそのもの。Led Zeppelin、Jeff Beck Group、Ziggy Stardust期のDavid Bowieあたりのギターサウンドを思い浮かべると近いはずです。
周波数帯域の傾向
- 低域:しっかり出ます。単音リフを弾いたときに腰砕けにならない太さがあります
- 中域:MkIII系の要。ここが詰まっているおかげで、バンドの中でファズが埋もれません。JHSモードを入れるとさらに持ち上がります
- 高域:Toneノブの効きが素直で、明るくカッティングな方向から、温かくまろやかな方向まで実用的に振れます。MkIIIがTone Benderシリーズで初めて手に入れたのがこのトーンコントロール(当時はトレブル/ベースと表記)でした
ゲイン量と歪みの質感
Attackノブを上げていくと、ファズらしい飽和した歪みが得られます。ただしBig Muff系のように「壁になる」のではなく、粒が粗く残るのがMkIII系の特徴です。この粗さが、コードを弾いたときの倍音の複雑さにつながります。
JHSモードを入れると、ゲインと中域がまとめて持ち上がります。オリジナルのMkIIIにはない機能ですが、現代のバンドアンサンブルで前に出したいときには実用的です。オリジナル志向で使いたいならオフのままで問題ありません。
ダイナミクスへの追従性
ここがJHS Benderの評価が高い部分です。ギター本体のボリュームを絞ると、オーバードライブのようなクランチまでクリーンアップします。ペダルを踏み替えずに、右手とボリュームノブだけでファズとクランチを行き来できるわけです。ファズは「踏んだら全開」になりがちですが、MkIII系はこのグラデーションが使えます。
また、いわゆる「ウーマントーン」(トーンを絞りきったときの、丸くこもった甘いリードトーン)を作るのにも向いていると評価されています。
他の定番ファズとの比較
| ペダル | キャラクターの違い |
|---|---|
| Dunlop Fuzz Face | Fuzz Faceは2石構成で、より丸くうねる。JHS Benderは3石構成でゲインが高く、エッジが立っている |
| Electro-Harmonix Big Muff Pi | Big Muffは中域が凹んだ「壁」のようなサステイン。JHS Benderは中域が張っていて、粒が粗い。バンドで抜けるのはBender寄り |
| ゲルマニウム版のヴィンテージMkIII | ヴィンテージは気温や個体差で挙動が変わる。JHS Benderはシリコン化によりいつでも同じ音が出る。その代わり、ゲルマニウム特有の「機嫌が良いときの奇跡的な音」は狙って出せません |
JHS Bender 1973 Londonのエピソード
Josh Scottの個人コレクションから生まれたシリーズ
JHS Benderは、2020年に発表された 「Legends of Fuzz」シリーズ の1機種です。このシリーズは、JHS Pedals創業者 Josh Scott の個人コレクションにある名機ファズを再現するという企画で、以下の4機種で構成されています。
| モデル名 | サブタイトル | 元ネタ |
|---|---|---|
| Bender | 1973 London | 1973年製 Sola Sound Tone-Bender MkIII |
| Smiley | 1969 London | シリコン版 Dallas-Arbiter Fuzz Face(Hendrixが好んだ仕様) |
| Crimson | ― | 1992年 Mike Matthews Red Army Overdrive(最初期のロシア製Big Muff) |
| Supreme | ― | 1972年 Univox Super-Fuzz |
Scottはこのシリーズについて、ブティックペダル全盛の反動として「シンプルさへの回帰」が来ているという見立てを語っています。多機能・高価格の流れが一巡し、また素朴な機材が求められる時期に入った——という周期的な読みです。実売179ドルという価格設定も、その考え方の表れといえます。
なぜゲルマニウムをやめてシリコンにしたのか
オリジナルのTone Bender MkIIIは、ゲルマニウムトランジスタを3石使った回路でした。ゲルマニウムは調子が良いときには素晴らしい音を出しますが、気難しく、気温に左右されやすい素子でもあります。ステージが暑いだけで音が変わる、個体ごとのバラつきが大きい、といった問題がつきまといます。
JHSはこの回路を現代のプリント基板に移し、慎重に選定したシリコントランジスタに置き換えました。JHS自身の言葉を借りれば、狙いは「ヴィンテージのゲルマニウムMkIIIのタッチ・フィール・反応を、現代のシリコン素子による正確さと一貫性で再現すること」です。あわせてTrue Bypassスイッチ、LED、9V DCジャックを追加しています。
Tone Bender MkIIIという回路の位置づけ
Tone Benderは、Gibson Maestro Fuzz-Tone の3石回路をベースに、1965年にイギリスのGary Stewart Hurstが設計したのが始まりです。この回路はイギリスのロックシーンの土台になり、Jimmy Page、Jeff Beck、Mick Ronson といったプレイヤーの音を形づくりました。
MkIIIは、シリーズで初めてトーンコントロールを獲得した世代です。それまでのTone Benderは「深さ」と「音量」しか調整できませんでしたが、ここで音色を作り込む余地が生まれました。以降も回路の改変は続き、1970年代のいわゆるMkVIまで発展していきます。JHS Benderが再現しているのは、その系譜の中の1973年製個体です。
Jimmy PageとMkIII
Jimmy Pageは、フランスのテレビ番組『Tous En Scène』の収録で Rotosound MkIII(Sola Sound MkIII をRotosoundブランドで販売したもの)を使っている姿が確認されています。またLed Zeppelinの2枚組『BBC Sessions』の一部楽曲でも、このRotosound MkIIIが使われたと考えられています。
注意点:Mick Ronsonについては、彼が主に使っていたのはMkIだとされています。『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』収録の「Moonage Daydream」で聴ける、あの成層圏まで突き抜けるようなファズはMkIによるものです。ワウを特定の位置で固定して組み合わせるのが彼の常套手段でした。MkIIIと同じ「Tone Bender」の名を持ちますが、世代が違う点は区別しておいてください。
JHS Bender 1973 Londonの使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーンでの位置
ファズはチェーンのできるだけ前、ギターの直後に置くのが原則です。JHS Benderも例外ではありません。
- 基本形:ギター →(チューナー)→ JHS Bender → ワウ → オーバードライブ → 空間系 → アンプ
- ワウとの前後:ファズの前にワウを置くと発振しやすくなる組み合わせがありますが、JHS BenderはシリコンかつTrue Bypassのため、ゲルマニウム機ほど神経質ではありません。ただしMick Ronson風にワウを固定位置で前段に置くのは、あえて狙う定番テクニックです
- バッファの後ろは避ける:ファズ全般に言えることですが、バッファードバイパスのペダル(Ibanez TS808/TS9など)より手前に置くほうが本来の反応が得られます
- エフェクトループには入れません
セッティング例
| 使い方 | Attack | Tone | Volume | JHSモード | ねらい |
|---|---|---|---|---|---|
| クラシックロックの定番(まずここから) | 1〜2時 | 12時 | ユニティゲイン(オンオフで音量が変わらない位置) | オフ | 70年代前半のリフとリードの標準的な音 |
| ボリューム奏法用(クリーンアップ前提) | 全開 | 1時 | 12〜1時 | オフ | ギター側のボリュームでファズ⇔クランチを操作する |
| ウーマントーン | 2〜3時 | 8〜9時 | 1時 | オフ | 高域を大きく削った、丸く甘いリード |
| バンドで前に出す | 2時 | 1〜2時 | 1時 | オン | ゲインと中域を持ち上げてアンサンブルを切り裂く |
最初に試してほしいのは2番目の「ボリューム奏法用」です。Attackを全開にして、ギター側のボリュームを5〜6まで絞ってみてください。ファズが軽いクランチに変わります。そこから徐々にボリュームを上げていくと、このペダルの守備範囲の広さが体感できます。
重ね使いで効果的なパターン
- JHS Bender → オーバードライブ:ファズの後段にTS系などを置くと、荒れた出力がまとまり、リードで抜けやすくなります
- ワウ → JHS Bender:ワウを固定位置にして特定の帯域を強調する古典的な手法。Mick Ronsonのアプローチです
- JHS Bender → トレモロ/ロータリー:粒の粗いファズと揺れ物の組み合わせは、サイケデリック〜グラム寄りの質感を作ります
JHS Bender 1973 Londonと相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
| アンプ | 出力 | サウンドの特徴 | なぜこの組み合わせが人気か |
|---|---|---|---|
| Marshall Super Lead 1959 / JTM45 | 45〜100W | 中域の張ったブリティッシュクランチ | MkIIIが実際に鳴らされていた時代の組み合わせ。ファズの粗さとアンプの飽和が地続きになる |
| Vox AC30 | 30W | 中高域に艶のあるジャングリーなクランチ | 60年代イギリスの定番。Toneノブを絞ってもアンプ側の高域が残るため、こもりすぎない |
| Fender Deluxe Reverb / Twin Reverb | 22W / 85W | ヘッドルームの広いクリーン | ファズの質感をそのまま出したいときの選択。ボリューム奏法でのクリーンアップが最もきれいに決まる |
| Orange OR系 | 50W前後 | 低域の厚いブリティッシュサウンド | MkIII系の太い低域とかみ合い、ヘヴィなリフでも腰砕けにならない |
相性の良いエフェクター
| エフェクター | 役割 | なぜこの組み合わせか |
|---|---|---|
| Jim Dunlop Cry Baby(ワウ) | ワウ(Benderの前段) | 固定位置で使ってフィルターとして機能させるのが古典的な手法。Mick Ronsonの実例 |
| Ibanez TS808 / TS9 | オーバードライブ(Benderの後段) | ファズの荒れた出力をTS系がまとめ、リードの抜けを作る。ただし必ずBenderより後ろに置くこと |
| JHS Smiley | もう1台のファズ | 同シリーズのFuzz Face系。2石の丸いファズと3石の鋭いファズを踏み分けられる |
| アナログディレイ | 空間系(Benderの後段) | 粒の粗いファズに、暗く滲むアナログディレイを足すと70年代の質感に近づく |
JHS Bender 1973 Londonの兄弟機・派生機
同じ「Legends of Fuzz」シリーズに、以下の3機種があります。いずれも実売価格帯と筐体は共通で、再現している元ネタが異なります。
| モデル | Benderとの違い |
|---|---|
| JHS Smiley(1969 London) | シリコン版Fuzz Faceの再現。2石構成でゲインが低く、より丸くうねる方向。Benderより素直で、ボリューム奏法向き |
| JHS Crimson | 最初期のロシア製Big Muff(1992年 Mike Matthews Red Army Overdrive)の再現。中域が凹んだ壁のようなサステインで、Benderとは真逆のキャラクター |
| JHS Supreme | 1972年 Univox Super-Fuzz の再現。オクターブ成分を含む独特の荒れ方で、4機種の中では最も攻撃的 |
JHS Bender 1973 Londonのモデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。
JHS Benderに関して押さえておきたいのは、各社が「Tone Bender」をモデリングしている場合、それがオリジナルのSola Sound製なのか、JHSによる現代の再現機なのかで意味が変わるという点です。以下では両者を区別して記載します。
JHS Bender 1973 LondonのQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | MK3 Silicon Fuzz | JHS Bender 1973 London |
QUAD CORTEXに CorOS 2.1.0 で追加されたモデルです。モデル名の「MK3 Silicon」は、まさに「MkIII回路をシリコンで作ったもの」=JHS Benderの成り立ちをそのまま表しています。元ネタがヴィンテージのSola Sound製ではなくJHSの現代機である点が、このモデルの特徴です。
なお、モデル名に「Fuzz」と付いているためFuzz pedalsカテゴリと混同されがちですが、Neural DSP公式のデバイスリストでは「Guitar overdrive」タブに分類されています。同じくFuzzを名乗る Facial Fuzz(Dunlop Fuzz Face)・Fuzz Pi(Big Muff Pi)も同様の扱いです。
JHS Bender 1973 LondonのFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Bender Fuzz | Sola Sound / Vox Tone Bender(オリジナル。JHS Benderではありません) |
Fractal Audio機器(Axe-Fx、FM9、FM3等)のDriveブロックに「Bender Fuzz」が収録されています。ただしこれは 1965年にGary Stewart Hurstが設計したオリジナルのSola Sound / Vox Tone Bender をモデリングしたもので、JHS Benderを元にしたモデルは収録されていません。
系譜としては同じ回路の一族なので方向性は近いものの、「JHSのシリコン再現機」そのものではない点は区別してください。
JHS Bender 1973 LondonのLINE6 HELIXにおけるモデリング
LINE6公式のモデルリストを確認したところ、Tone Bender系および JHS Bender に該当するモデルは現行ラインナップには収録されていません。
JHS Bender 1973 LondonのKemperにおけるモデリング
Kemperのストンプエフェクトには、JHS Bender を元にしたモデルは収録されていません。
OS 8.0以降の統合型オーバードライブ「Kemper Drive」も、TS-808・TS9・Klon Centaur・Boss OD-1/SD-1・Timmy 等のオーバードライブ系を参照元としており、Tone Bender系ファズは含まれていません。
JHS Bender 1973 Londonの使用アーティスト
元ネタ(Sola Sound Tone Bender MkIII / Tone Bender系)のアーティスト
| アーティスト | 音楽スタイル | 使用機材・関連作品 |
|---|---|---|
| Jimmy Page(Led Zeppelin) | ブリティッシュハードロックの祖。リフとリードの両方で時代を作った | Rotosound MkIII(Sola Sound MkIIIのOEM)をフランスのテレビ番組『Tous En Scène』収録で使用。『BBC Sessions』の一部楽曲でも使われたとされる |
| Mick Ronson(David Bowie) | グラムロック。Ziggy Stardust期のBowieを支えたギタリスト | 主にMkIを使用。『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』の「Moonage Daydream」が代表例。ワウを固定位置で併用 |
| Jeff Beck | ブルースロック〜フュージョン。表現の幅で他を圧倒したギタリスト | Tone Bender系の主要な使い手のひとりとして挙げられている |
重要な注記:上記はいずれも1960〜70年代のオリジナルTone Benderを使ったアーティストであり、2020年発売のJHS Benderそのもののユーザーではありません。JHS Benderを愛用しているプロギタリストについては、公式インタビュー等の一次情報で裏付けが取れなかったため記載を省略します。
日本のアーティスト
JHS Bender を明確に使用していると裏付けられる日本人アーティストについて、現時点で信頼できる情報源からの確認が取れていないため記載を省略します。
JHS Bender 1973 Londonの特徴と注意点
特徴
- ヴィンテージMkIIIの音が、毎回同じように出る:ゲルマニウム機につきまとう気温依存と個体差がありません。ライブでもレコーディングでも、昨日と同じ音が出るという当たり前のことが、ファズにおいては大きな価値です
- ギターのボリュームでクランチまでクリーンアップする:ペダルを踏み替えずに、右手とボリュームノブだけでファズとオーバードライブを行き来できます。ダイナミックな演奏をしたいプレイヤーから繰り返し評価されている点です
- Toneノブが実用的に効く:明るくカッティングな方向から温かくまろやかな方向まで、極端になりすぎずに動きます。MkIIIがTone Benderシリーズで初めて手に入れた武器がこれでした
- JHSモードで現代的なアンサンブルにも対応できる:ゲインと中域を同時に持ち上げるスイッチにより、オリジナル志向とモダンな押し出しを1台で切り替えられます
- ヴィンテージ機の「面倒ごと」が全部解決している:True Bypass、LED、9V DCジャック。ヴィンテージMkIIIをボードに組み込もうとすると必ずぶつかる問題が、最初から潰してあります
注意点
- ゲルマニウムではない:これは設計上の意図的な選択ですが、「ゲルマニウムでなければ意味がない」と考える人には最初から合いません。安定性と引き換えに、ゲルマニウム特有の不安定さゆえの色気は手放しています
- Big Muff的な使い方はできない:中域が張っているため、壁のようなサステインを求めると期待外れになります。方向性が正反対です
- 前段にバッファがあると反応が変わる:ファズ全般の宿命ですが、バッファードバイパスのペダルより後ろに置くと本来の挙動が出ません。ボードの並び順に制約が生まれます
- JHSモードのスイッチが側面にある:足で踏めるフットスイッチではなく、筐体側面のプッシュボタンです。演奏中に切り替えることは想定されていません
- ジャンルを選ぶ:1970年代前半の質感が強く出るため、モダンなハイゲインやメタル系のリフには合いません。時代感のあるサウンドを狙う機材と割り切る必要があります
まとめ
JHS Bender 1973 Londonは、「ヴィンテージファズを、道具として実用的に使いたい」人のためのペダルです。1973年製Sola Sound Tone-Bender MkIIIという確かな元ネタを持ちながら、ゲルマニウムの気難しさだけをシリコンで置き換え、True BypassとLEDと9V DCジャックを足した。やっていることは地味ですが、ファズを日常的に使う人にとってはこの3点がすべてです。
こんな方に特におすすめです。
- Led ZeppelinやDavid Bowie、Jeff Beckといった70年代前半のギターサウンドに惹かれている方
- ヴィンテージファズに興味はあるが、価格と個体差のギャンブルは避けたい方
- ギターのボリュームで歪みを操る演奏をしたい方
- Big Muff系のファズを持っていて、方向性の違うもう1台を探している方
そして、いつも同じ歪みばかり使ってしまう——という自覚がある方にこそ試してほしい1台でもあります。オーバードライブとディストーションの往復に慣れた耳に、3石ファズの粗い粒立ちはかなりの衝撃をもたらします。QUAD CORTEXをお使いなら MK3 Silicon Fuzz(Guitar overdriveタブ)がまさにこのペダルのモデルなので、実機を買う前にそこで感触を確かめてみてください。Attackを全開にして、ギターのボリュームを5まで絞る——その1手で、このペダルの正体が分かります。

