
「ハイゲイン系のディストーションペダルを一台探しているけど、定番のRATやBoss系はもう試した」という方に知っておいてほしいのが、アメリカ・ポートランドのブティックブランドMr. Blackが送り出したMr. Black Thunderclawです。Thunderclawはディストーション(歪みの度合いが強く、輪郭のはっきりしたエフェクト)に分類されるペダルで、名前の通り「雷の爪」を思わせる図太い低域と刺さるような高域を武器にしています。オルタナ・ストーナーロック・ドゥームといった、重心の低いギターリフを弾くジャンルと特に相性が良く、「なぜかコンパクトなのにアンプを丸ごと飲み込むような迫力が出る」という点が話題を呼んできました。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
Mr. Black Thunderclawの主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エフェクトの種類 | ハイゲイン・ディストーション(真空管アンプの限界を超えたような、強く粒立った歪みを付加するエフェクト) |
| コントロール | Output(マスター出力音量)、Distort(歪み量)、Bass(アクティブ方式の低域ブースト/カット)、Treble(アクティブ方式の高域ブースト/カット)の4ノブ。Bass・Trebleはノブがセンター(12時)でフラット、右に回すとブースト、左に回すとカットになるアクティブEQ方式 |
| 電源 | DC9V外部アダプター(2.1mm センターマイナス)または内蔵9V電池に対応。内部は+/-9Vのスプリットレール(正負両電源)方式を採用 |
| 消費電流 | 約27mA未満 |
| 入出力端子 | モノラル1系統(インプット・アウトプットとも標準フォーン)。入力インピーダンス約470kΩ、出力インピーダンス約1kΩ |
| バイパス方式 | True Bypass(エフェクターをオフにしたとき、内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。音質の劣化が少ない反面、長いケーブルをつなぐと高域がロスしやすい) |
| 筐体サイズ | 67.5mm(幅)× 112mm(奥行)× 48mm(高さ) |
| 重量 | 約340g |
| 製造国 / ブランド | アメリカ合衆国オレゴン州ポートランドにてハンドメイド。ブランドはMr. Black(Jack Deville氏が興したJack Deville LTD傘下) |
| 発売年 / 現行品かどうか | 2014年発売。現在はメーカーの現行ラインナップからは外れ、Limited & Discontinued(生産終了)扱いとなっている。中古市場では今も人気が高く、入手難度が高い一台 |
Mr. Black Thunderclawはどんな音がするのか
Thunderclawのサウンドキャラクターを一言で表すなら「図太い低域を土台にした、荒々しくも音の輪郭がはっきりしたハイゲイン・ディストーション」です。
周波数帯域の傾向としては、まず低域の量感がとにかく豊かです。メーカー自身も「クリアで力強いグロウル(唸るような低音)」と表現するほどで、名前の「Thunder(雷鳴)」はこの低域の存在感からきています。一方でTreble側はアクティブ回路により「密度の高いミックスの中でも切り込んでくる」ほどの抜けを持たせられるため、低域の太さと高域の刺さりを両立できるのが特徴です。ただしBass・Trebleを両方とも上げていくと、ゲイン感がさらに増して「RATに近いファズっぽいエッジ」が出てくるとMusicRadarのレビューで指摘されています。
ゲイン量・歪みの質感は、Distortノブを絞ればまだ扱いやすいクランチ寄りの歪みですが、上げていくとシリコンクリッピング特有の「ファズに近いパームミュートの潰れ方」が出てきます。MusicRadarのレビューでは、この特性のために「クラシックなメタルのタイトなパームミュートには向かない」一方、Mastodon(ブリッジ・ハムバッカー使用時)やKyuss(ネック・ハムバッカー使用時)のようなオルタナ・ストーナー・ドゥーム系のリフには理想的だと評されています。
ダイナミクスへの追従性も高く評価されているポイントで、メーカーは「信号チェーンのどこに置いても、入力ボリュームを絞るだけでクリーンアップできる」と説明しています。ギターのボリュームノブを絞ると歪みが素直に減り、上げると分厚い歪みに戻るという反応の良さがあり、ピッキングの強弱がそのままサウンドに出るタイプのペダルです。
なお、公式のレビュー記事や製品説明では組み合わせるアンプの具体的なブランド名までは明言されていません。ただし「信号チェーンのどこに置いても歪みが完結する」という設計思想や、海外のペダルレビューブログで「Marshallのプレキシ系アンプにブーストとして重ねると、さらに図太さとサステインが増す」と言及されている点から、クリーン〜クランチ基調のチューブアンプの前段に置き、アンプ自体をあまり歪ませずペダル側で歪みを作り切る使い方が前提になっていると考えられます。
Mr. Black Thunderclawのエピソード
Mr. Blackは、自動車の電装整備からエンジニアへ転身したJack Deville氏が2008年に立ち上げたJack Deville LTDのペダル部門として、2012年にスタートしたブランドです。ポートランドの工房で回路設計からアッセンブリまで一貫して手掛ける、いわゆるブティックペダルメーカーで、当初はSuperMoon Modulated Reverberatorのようなリバーブ・モジュレーション系のペダルで名を上げました。Thunderclawはそんなブランドの中でも珍しく「歪み」に全振りした一台で、2014年に発表されています。
回路設計を分析したAion FXのトレーシング記事によれば、Thunderclawは特定の実機の直接的なクローンではなく、「RATに似た、クリーンなオペアンプブーストと背中合わせのダイオードによるクリッピング段」と「Tube Screamerのトーン回路にも通じるBaxandall型(低域・高域を独立して持ち上げ下げできる)のアクティブトーン」を組み合わせたオリジナル設計だとされています。さらにチャージポンプ回路による+/-9Vのスプリットレール電源は、本来プロ用のプリアンプなどに使われる方式で、コンパクトエフェクターとしては当時珍しい贅沢な作りでした。この「実機のクローンではなく、複数の設計思想を独自に統合した歪みペダル」という成り立ちが、QUAD CORTEXをはじめとするモデラーメーカーにとっても「唯一無二のキャラクターを持つ再現しがいのある素材」として注目される理由になっています。
使用アーティストとして名前が挙がるのが、Dorje・Toskaなどで活動するイギリスのギタリストRabea Massaadです。彼の機材解説動画「Pedal Board Gear Tour」では、Thunderclawについて「最近買ったんだけど、これは本当にすごい」と語っており、ペダルボードの定番として繰り返し登場することがGuitarPedalXのプロ機材紹介記事でも紹介されています。同記事ではThunderclawについて「電気を帯びたようなディストーションで、しっかりしたクランチとグラインド感がある」とコメントされており、プログメタル〜アンビエントまで幅広くこなす彼のプレイスタイルの中で、リフを支える歪みとして機能している様子がうかがえます。
Mr. Black Thunderclawの使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、他の多くのディストーションペダルと同じくギターの直後です。コンプレッサーやワウペダルの後、モジュレーション系・空間系エフェクトの前に置くのが一般的な使い方になります。アンプのクリーンチャンネルに直結し、Thunderclaw側で歪みを作り切るスタイルが向いています。
典型的なセッティング例:
- ストーナー・ドゥーム系のリフ用途: Distort = 2〜3時、Bass = 1〜2時(ブースト寄り)、Treble = 12時(フラット)、Output = 好みの音量。低域の量感を活かして、Mastodonのようなブリッジ・ハムバッカーの太いリフを作る設定。
- 抜けを重視したリード用途: Distort = 12〜1時、Bass = 12時(フラット)、Treble = 1〜2時(ブースト寄り)。密なバンドサウンドの中でも埋もれない、切り込むようなリードトーンを狙う設定。
- ブースト用途: Distort = 9時前後(低め)、Output = 高め。クランチ済みのアンプの前段に置き、Marshallのプレキシ系アンプなどをさらに押し込んでサステインと図太さを足す使い方。
アンプとの組み合わせ方としては、公式レビューや製品説明で特定のブランドが明言されているわけではありませんが、「信号チェーンのどこに置いてもボリュームを絞ればクリーンアップできる」という設計上、クリーン〜クランチ基調のチューブアンプの前段に置き、Thunderclaw自体にメインの歪みを任せるスタイルが前提になっています。既にハイゲインなアンプに重ねると歪みが飽和しやすいため、その場合はDistortを控えめにしてBass/Trebleでの音作りを中心にするとまとまりやすくなります。
重ね使いのパターンとしては、低域の量感がやや過剰に感じられる場面でEarthQuaker Devices Plumesのようなクリアなオーバードライブと組み合わせ、ボトムエンドを引き締めてから使う方法が紹介されています。また、Thunderclaw単体のハードクリッピング感が硬すぎると感じる場合には、Tube Screamer系のペダルを前段や後段に足して角を丸める、という使い方も海外のペダルレビューで言及されています。
Mr. Black Thunderclawと相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
| アンプ | 出力 / 特徴 | Thunderclawとの組み合わせが人気な理由 |
|---|---|---|
| Marshallプレキシ系アンプ(Plexi系ヘッド) | ブリティッシュな中域と、粒立ちの良いナチュラルな歪みが特徴 | ペダルレビューブログにて「Thunderclawをブーストとして重ねると、さらに図太さとサステインが増す」と紹介されている組み合わせ。アンプ自体の歪みにペダルの低域とゲインを上乗せするスタイル |
Thunderclawとアンプの組み合わせについては、公式資料や大手レビューサイトで詳細な検証記事が多くはなく、確認できた組み合わせは上記の1件にとどまります。無理に他の組み合わせを断定的に記載することは避け、確認が取れ次第追記します。
相性の良いエフェクター
| エフェクター | 役割 | この組み合わせが定番な理由 |
|---|---|---|
| EarthQuaker Devices Plumes | クリアでタイトなオーバードライブによる低域の引き締め | Thunderclaw単体だと低域が出すぎると感じるユーザーが、Plumesと組み合わせてボトムエンドをタイトにし、歪みの輪郭をはっきりさせる使い方が紹介されている |
| Tube Screamer系オーバードライブ | ミッドを持ち上げて歪みの角を丸めるブースター | Thunderclaw単体のハードクリッピングは硬さが強いため、Tube Screamerと組み合わせて滑らかさを足す、というペダルレビューでの使用例がある |
Mr. Black Thunderclawのモデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Thunderclawのように生産終了して入手が難しくなったペダルほど、モデラー内での再現価値が高まる傾向があります。
Mr. Black ThunderclawのQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Thunderpaw | Mr. Black Thunderclaw |
QUAD CORTEXの「Guitar overdrive」セクションには「Thunderpaw」としてThunderclawのモデリングが収録されています。公式デバイスリストにも参照元がMr. Black Thunderclawであると明記されており、他のブティック系オーバードライブと並んで一次収録モデルの一つとなっています。
Mr. Black ThunderclawのFractal Audio Systemsにおけるモデリング
Fractal AudioのDriveブロックのモデルリストおよびフォーラムを確認しましたが、Thunderclawをベースにしたモデルは見当たりませんでした。実際にFractal Audio公式フォーラムには「Wish – Mr. Black – ThunderClaw」という、ユーザーがThunderclawモデルの実装を要望するスレッドが立っており、これは裏を返せば現時点で未収録であることの証拠にもなっています。現行ラインナップには収録されていません。
Mr. Black ThunderclawのLINE6 HELIXにおけるモデリング
LINE6公式のHELIXモデル一覧ページのエフェクトセクションを確認しましたが、「ベース」列にMr. Black Thunderclawを参照するモデルは見当たりませんでした。現行ラインナップには収録されていません。
Mr. Black ThunderclawのKemperにおけるモデリング
Kemperの旧来のストンプエフェクトである「Green Scream」はIbanez TS-808(Maxon OD808)を直接モデリングしたものであり、Thunderclawとは無関係です。またOS 8.0以降の統合型ドライブ「Kemper Drive」も、公式リリースノートで参照元としてTS-808・TS9・Klon Centaur・Horizon Precision Drive・Boss OD-1/SD-1・Analogman King Of Tone・Timmy・Marshall Bluesbreaker Mk1が明記されていますが、Mr. Black Thunderclawへの言及はありません。Kemper公式フォーラムのストンプ一覧スレッドでもThunderclawへの言及は確認できませんでした。Kemperのストンプエフェクトには収録されていません。
Mr. Black Thunderclawの使用アーティスト
海外のアーティスト
| アーティスト | 音楽スタイル | 使用時期・補足 |
|---|---|---|
| Rabea Massaad(Dorje / Toska) | プログレッシブメタル / アンビエント要素を含むロック | 本人の機材紹介動画「Pedal Board Gear Tour」で使用に言及。GuitarPedalXのプロ機材解説記事でもペダルボードの定番機材として紹介されている |
日本のアーティスト
現時点で信頼できる情報源からの裏付けが取れていないため記載を省略します。
Mr. Black Thunderclawの特徴と注意点
特徴
- 「Thunder」の名にふさわしい図太い低域:メーカー自身が「クリアで力強いグロウル」と表現するほどの低域の量感があり、ストーナーロックやドゥームのような重心の低いリフに理想的だとMusicRadarのレビューで評価されている。
- アクティブEQによる振れ幅の広い音作り:Bass・Trebleとも12時でフラット、左右どちらにも回せるアクティブ方式のため、低域を削ってタイトにすることも、逆に前面に出すことも自在にできる。Bass/Trebleを上げるとRATに近いファズっぽいエッジも出せるという柔軟性がレビューで言及されている。
- ボリューム操作へのダイナミックな追従性:メーカーは「信号チェーンのどこに置いてもボリュームを絞るだけでクリーンアップできる」と説明しており、ギターのボリュームノブでの音作りがしやすい設計になっている。
- +/-9Vスプリットレール電源による低ノイズ設計:Aion FXのトレーシング記事で指摘されている通り、チャージポンプ式の正負両電源はプロ用プリアンプに近い設計で、ノイズフロアを抑えつつダイナミックレンジを確保している。
注意点
- クラシックなメタルのタイトなパームミュートには不向き:MusicRadarのレビューでは、シリコンクリッピング特有の「ファズに近いパームミュートの潰れ方」があるため、タイトさが求められる正統派メタルよりもオルタナ・ストーナー・ドゥーム向きだと指摘されている。
- 低域が過剰に出やすい:低域の量感が持ち味である反面、そのまま使うとボトムエンドがもたついて感じられる場合があり、EarthQuaker Devices Plumesのようなタイトなオーバードライブと組み合わせて引き締める使用例が紹介されている。
- ハードクリッピングの硬さが強く出る場面がある:ペダルレビューブログでは「かなり凶悪なハードクリッピング・ディストーション」と評される一方、単体のオーバードライブとして常用するには硬すぎると感じるユーザーもおり、Tube Screamer系ペダルと組み合わせて角を丸める運用が紹介されている。
- 生産終了により入手性が低い:2014年発売のThunderclawはメーカーのLimited & Discontinued扱いとなっており、新品での入手はほぼ不可能。中古市場でも「レア機材」として扱われ、価格が高騰しやすい点に注意が必要。
まとめ
Mr. Black Thunderclawは、「図太い低域」「アクティブEQによる自在な音作り」「ボリューム操作への高い追従性」という3つの要素を武器にした、ブティックブランドならではのハイゲイン・ディストーションです。正統派のタイトなメタルサウンドというよりは、Mastodonのようなストーナー・ドゥーム系のリフや、密なミックスの中でも埋もれないリードトーンを作りたいプレイヤーに向いています。
こんな演奏をしたい方に特におすすめです。
- ストーナーロックやドゥームのような、重心の低いリフサウンドを作りたい方
- アクティブEQで低域・高域を大胆に作り込みたい方
- ギターのボリューム操作でクリーンから激しい歪みまでを一台でコントロールしたい方
- 定番のTube ScreamerやRAT系とは違う、ブティックブランドならではの個性的なディストーションを探している方
すでに生産終了となった一台ではありますが、QUAD CORTEXのThunderpawのようなモデリングを通じて、その「雷の爪」のようなキャラクターに触れられる機会は今も残っています。実機・モデリングどちらの形であれ、一度その図太さを体験してみる価値は十分にあるペダルです。

