
Fender High Power Tweed Twin 5F8-A(フェンダー・ハイパワー・ツイード・ツイン 5F8-A)は、1958年から1959年にかけて製造された、当時Fender社最高出力のツイード期コンボアンプです。
80W RMSという大出力を、4本の5881(6L6相当)パワー管とGZ34整流管で実現し、2×12インチのJensen P12Nスピーカーを内蔵した大型コンボとして登場しました。Bassman 5F6-Aと同様のロングテールペア位相反増幅回路(位相を反転してパワー管へ信号を分岐する回路)を採用し、歪みの少ない広いヘッドルームと、押し込んだ時の力強いオーバードライブが特徴です。カントリー、ブルースロック、クラシックロックなど、「大音量でもクリーンが保てるツイードサウンド」を求めるプロフェッショナル向けのアンプとして、Eric Clapton、Keith Richards、David Gilmour、Joe Bonamassaらが愛用しました。一言で表すなら、「ツイード期Fenderの頂点——80Wの圧倒的ヘッドルームと2×12の迫力で、大舞台をドライブする至高のツイードツイン」です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
5F8-Aは、80W出力・5881×4のパワー管・2×12スピーカーを備えた大型のツイードコンボです。
| メーカー | Fender(アメリカ) |
|---|---|
| 製造期間 | 1958年〜1959年(オリジナル) |
| 出力 | 80W RMS |
| パワー管 | 5881(6L6GC相当)×4 |
| プリ管 | 12AY7×1、12AX7×2 |
| 整流管 | GZ34(5AR4) |
| チャンネル数 | 2(Normal・Bright) |
| コントロール | Volume(各ch)、Treble、Bass、Middle、Presence |
| スピーカー | Jensen P12N×2(12インチアルニコ型) |
| 回路 | 固定バイアス、ロングテールペア位相反増幅回路 |
| その他 | エフェクトループなし、リバーブなし |
| 形状 | 2×12コンボ(スピーカー内蔵) |
補足です。オリジナルの製造は1958年〜1959年で、Joe Bonamassaシグネチャーの’59 Twin-Amp JB Editionが2018年頃にリイシューされました。5881は6L6GC相当の、アメリカ製アンプに多く使われる真空管で、締まった低音とクリアな高音が特徴です。12AX7はECC83とも呼ばれるプリアンプ用真空管です。整流管のGZ34は5AR4相当で、真空管整流のためサギーやコンプレッションがかかりやすく、柔らかいレスポンスを実現します。2つのチャンネルはジャンプ接続が可能です。Jensen P12Nは、当時の代表的なFenderスピーカーです。回路はBassman 5F6-Aと同系統の設計です。
5F8-Aは1956年〜1957年の5E8-A Twin(40W、5881×2)の後継として、パワー管を4本に増やし、Bassman 5F6-Aと同様のロングテールペア位相反増幅回路を採用して歪みを抑えた設計です。Middleコントロールの追加、GZ34整流管、強化された電源フィルタ(20μF電解コンデンサ)により、より堅牢な性能を実現しました。Vintage Guitar誌の記事によれば、ダイヤル6〜7付近で約60Wのクリーン出力が得られ、それを超えると力強いオーバードライブが発生します。当時のMarshall JTM100スタックと同等のパワーを、26×20×10.5インチのパイン材ツイードキャビネットに収めた「グラブ・アンド・ゴー」な大出力アンプです。
エピソード
Fender Twinは1952年のワイドパネルツイード(25W)に始まり、1956年〜1957年の5E8-A(40W)を経て、1958年の5F8(のち5F8-A)で80Wという当時最大級の出力を達成しました。Dave Hunter(Vintage Guitar誌)は、5F8-Aの誕生を「5E8-Aのパワー管を2本追加しただけではなく、Bassman 5F6-Aに近いロングテールペア位相反増幅回路を採用した、実質的に新しいアンプ」と評しています。ロックンロールとエレクトリックカントリーが商業ジャンルとして拡大する中、より大きなステージでカットする音量を求めるプレイヤーの需要に応えた設計でした。
Keith Richardsは、1958年製5F8-A Twinを愛用しており、Celestion G12 Alnicoスピーカーに換装したカスタム仕様を使用していたことが、TDPRIのスレッド等で言及されています。The Rolling Stonesのツアーやレコーディングで、このアンプの広いヘッドルームと、押し込んだ時の力強いクランチが、ストーンズのリフサウンドの基盤のひとつとなりました。
Eric Claptonは、Bluesbreakers期のJTM45(Bluesbreaker)コンボから、Cream期にはJTM45/100や大型アンプへと移行しましたが、Guitar Player誌の記事によれば、ClaptonもFender Twin-Ampを「worthy weapon of choice」として使用したことがあります。5F8-Aの80W出力と2×12の迫力は、大規模なライブ会場でも十分な音量とクリーンヘッドルームを提供しました。
Joe Bonamassaは、5F8-Aを愛好するコレクターとして知られ、2018年にFenderと共同で「’59 Twin-Amp JB Edition」をリリースしました。5F8-A回路をベースにしたハンドワイヤー・アイレットボード設計で、Celestion JB85スピーカーを搭載し、オリジナルの音キャラクターを現代的な可用性で再現しています。
共に使用される機材
共に使用されるキャビネット
5F8-Aは2×12スピーカーを内蔵したコンボアンプのため、別途キャビネットを組み合わせて使用する構成は一般的ではありません。該当なしとします。
共に使用されるエフェクター
- Ibanez Tube Screamer(TS808 / TS9):ブースターとして、Driveをゼロに近く、Levelでプリアンプを押し込みます。5F8-Aはヘッドルームが広いため、小音量で歪みを得るにはこの手法が有効です。ミッドブーストがツイードの温かみと相乗し、カントリーやブルースロックのクランチトーンを得やすくなります
- オーバードライブ・ブースター(Klon、BB Preamp等):クリーンに軽いゲインを足す用途です。5F8-Aの広いクリーンヘッドルームをベースに、ブースターで適度に押し込むと、ビンテージ感のある甘いクランチが得られます。カントリーやロックのリードトーンに定番です
- アッテネーター(Fryette Power Station、Ultimate Attenuator等):アンプの出力を減衰させて音量を下げます。80Wは非常に大音量のため、パワー管の飽和を維持したまま音量のみ下げる用途で使用が推奨されることがあります。Vintage Guitar誌も「大きなステージでは素晴らしいが、小さい会場では過剰」と指摘しています
兄弟機・派生機
Fender Twin 5E8-A(1956年〜1957年)
Low-Powered Twinとも呼ばれる、5F8-Aの前身です。5881×2で約40W、パラフェーズ位相反増幅を採用しています。5F8-Aより出力が半分で、小〜中規模向けです。コピーメーカーに多くエミュレートされています。
Fender Twin 5C8(1952年)
オリジナルWide-Panel Twinと呼ばれる、最初のTwinです。6L6×2で約25W、カソードバイアスです。5F8-Aの遠い祖先で、出力・回路ともに大きく異なります。
Fender ’59 Twin-Amp JB Edition(2018年頃)
Joe Bonamassa シグネチャーの公式リイシューです。5F8-A回路をベースにしたハンドワイヤー仕様で、Celestion JB85スピーカーを搭載しています。
Fender Twin Reverb(1960年代以降)
Blackface / Silverfaceの後継で、リバーブ付き、AB763回路です。5F8-Aよりクリーン寄りで、ツイードの温かみとは異なるブラックフェース系のトーンです。
モデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Fender High Power Tweed Twin 5F8-Aは、ヴィンテージギター誌の「最も価値のあるアンプ25選」の3位にランクされるなど、コレクター垂涎のアンプとして、主要なモデリング機器の一部に収録されています。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | US HP Tweed TWN Bright | Fender High Power Tweed Twin 5F8-A |
| Amp | US HP Tweed TWN Normal | Fender High Power Tweed Twin 5F8-A |
| Cabinet | 212 US TWN Web Classic 08 | Tweed Twin+Weber Classic Alnico |
キャビネットの元はFender Tweed Twin with Weber Classic Alnico Speakersです。5F8-A専用キャビネットは収録されていないため、相性の良いFender Tweed Twin系キャビネットを掲載しています。
Fractal Audio Systems における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | 5F8 Tweed Bright | 5F8-A(Keith Urban所有の1959年製) |
| Amp | 5F8 Tweed Normal | 5F8-A(Keith Urban所有の1959年製) |
| Amp | 5F8 Tweed Jumped | 5F8-A(ジャンプ接続時) |
| Cabinet | 2×12 Double Verb | Fender P12N 2×12 / Twin Reverb 2×12 |
Fractal Audio Systemsの5F8系3モデルは、いずれもFender High Power Tweed Twin 5F8-Aが元です。BrightとNormalはKeith Urban所有の1959年製がベースで、Jumpedはジャンプ接続時を再現しています。キャビネットの2×12 Double Verbは、Fender 2×12(P12N)とFender Twin Reverb 2×12が元になっています。
Kemper における収録
Kemperはアンプをプロファイリング(実機をそのまま取り込む)する機器のため、ファクトリーリグではアンプとキャビネットが1つのリグにまとめて収録されています。キャビネット単独のエントリは存在しません。
| 種別 | モデル名(RIG NAME) | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Fender Twin 1959 | Fender High Power Tweed Twin 5F8-A |
LINE6 HELIX における収録
LINE6 HELIXの現行ラインナップには、Fender High Power Tweed Twin 5F8-Aに相当するアンプモデルは収録されていません。Tweed系ではFender Bassman(Tweed Blues Nrm / Brt)、5C3 Tweed Deluxe(Fullerton)、Champ(US Small Tweed)が収録されており、5F8-Aの大出力クリーンやクランチを近づけたい場合は、Tweed Blues(Bassman)やUS Double(Twin Reverb)をベースに調整する替代アプローチが考えられます。
使用アーティスト
海外のアーティスト
- Keith Richards(The Rolling Stones)/ロック・ブルースロック:ストーンズのリズムギター。1958年製5F8-A Twinを愛用し、Celestion G12 Alnicoに換装したカスタム仕様で、TDPRI等で使用が確認されています
- Eric Clapton/ブルースロック:Bluesbreakers〜Cream期を経てソロへ。Guitar Player誌の記事で、Fender Twin-Ampを「worthy weapon of choice」として使用したことが言及されています
- David Gilmour(Pink Floyd)/プログレッシブロック:広大なサウンドスケープと歌うようなリードが持ち味。Guitar Player誌によれば、1958年製Fender Twin-Ampを長年使用しており、5F8-Aが該当する時期のTwinです
- Joe Bonamassa/ブルースロック:ヴィンテージ機材のコレクターとしても知られます。5F8-Aを愛好し、2018年にFenderと共同で’59 Twin-Amp JB Editionをリリースしました。ツアーやレコーディングで使用しています
日本のアーティスト
Fender High Power Tweed Twin 5F8-Aは、国内のスタジオやヴィンテージアンプ愛好家の間で認知度の高いアンプです。ただし、5F8-Aをメインアンプとして使用していることが信頼できる情報源で確認できる著名な邦楽アーティストについては、現時点で裏付けが取れていないため、ここでは記載を省略します。
よくある疑問
5E8-A Twinとは何が違いますか?
出力とパワー管の本数が違います。5E8-Aは5881×2で約40Wでしたが、5F8-Aは4本に増やして80Wとなりました。回路もBassman 5F6-Aと同様のロングテールペア位相反増幅に変わり、歪みを抑えた広いヘッドルームを得ています。Middleコントロールの追加、GZ34整流管、強化された電源フィルタも5F8-Aでの変更点です。
自宅や小規模ライブハウスで使えますか?
80Wは大きすぎるため、そのままでは使いにくいアンプです。Vintage Guitar誌も、ほとんどの小さなステージでは過剰だと指摘しています。パワー管の飽和を保ったまま音量だけ下げたい場合は、アッテネーターの使用が推奨されます。
QUAD CORTEXで代用できますか?
代用できます。QUAD CORTEXにはUS HP Tweed TWN BrightとNormalが収録されており、元は5F8-Aです。Fractal AudioとKemperにも5F8-A系のモデルがあります。一方、LINE6 HELIXには相当するモデルがありません。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- 圧倒的なヘッドルーム:80Wと4本の5881により、ダイヤル6〜7でも約60Wのクリーンが出るとされ、大音量でもクリーンが保てます。Vintage Guitar誌は「headroom」を5F8-Aの設計意図として繰り返し言及しており、ライブ会場で他楽器に埋もれない力強いクリーントーンが特徴です
- ツイード期の頂点:Bassman 5F6-Aと同系統のロングテールペア位相反増幅回路により、位相反転段での歪みを抑えつつ、パワー管へクリーンな信号を送ります。押し込んだ時の力強いオーバードライブも、ツイードの温かみを保ったまま得られます
- コレクター垂涎の希少性:ヴィンテージギター誌の「最も価値のあるアンプ25選」の3位にランクされ、Fractal Audioの5F8モデルはKeith Urban所有の1959年製をベースにするなど、最高級の参考機として扱われています
- ジャンプ接続でのブレンド:NormalとBrightの2チャンネルをジャンプケーブルでつなぐことで、低域の厚みと高域のカットを両立した定番のトーンが得られます。Marshall JTM45と同様の手法です
注意点
- 大音量すぎて小規模会場では使いにくい:80Wは非常に大きな音が出るため、Vintage Guitar誌も「Eric ClaptonやKeith Richardsなら80Wの栄光を謳歌できるが、ほとんどのコーナーステージでは土曜の夜にフルで鳴らすことは叶わない」と指摘しています。スタジオや小規模ライブハウスでは過剰になる可能性が高く、アッテネーターの使用が推奨されます
- オリジナルJensen P12Nの許容ワット数:当時のP12Nは公称30W RMS程度で、80Wアンプに2本(合計60W)ではフルクランク時にスピーカーがオーバーロードする可能性があります。Leo Fenderは「ヘッドルーム用」として設計し、フルで歪ませる前提ではなかったとされています。現代的にはWeberやCelestion等への交換が検討されます
- ヴィンテージゆえのメンテナンス:60年以上経過した楽器のため、電解コンデンサや真空管の交換、バイアス調整など、適切なメンテナンスが必要です。実機を検討する際は専門家の点検をお勧めします
まとめ
Fender High Power Tweed Twin 5F8-Aは、ツイード期Fenderの設計が到達した頂点であり、80Wの圧倒的ヘッドルームと2×12の迫力で、大舞台をドライブするプロ向けアンプでした。Bassman 5F6-Aと同系統のロングテールペア位相反増幅回路により、歪みの少ない広いクリーンと、押し込んだ時の力強いクランチを両立しています。
「大音量でもクリーンが保てるツイードサウンドが欲しい」「カントリーやブルースロックの定番トーンを大舞台で追求したい」「Eric ClaptonやKeith Richardsのようなクラシックなリフサウンドを目指している」という方には特におすすめです。実機のヴィンテージは高価かつ希少ですが、Joe Bonamassaの’59 Twin-Amp JB Editionが現行で入手可能です。QUAD CORTEX、Fractal Audio、Kemperのいずれにも5F8-A系のモデリングが収録されているため、まずはモデリングで5F8-Aの世界観を体験してみてください。80Wのヘッドルームとツイードの温かみが織りなす「大舞台の定番トーン」は、今なお多くのプレイヤーを魅了し続けています。







