Marshall JCM800とは?名機サクッと解説

Marshall JCM800は、1981年から生産が続く英国Marshall Amplification(マーシャル・アンプリフィケーション)を代表するヘッドアンプです。「JCM」はMarshallの創業者ジム・チャールズ・マーシャル(Jim Charles Marshall)のイニシャルに由来し、1980年代のハードロック・ヘヴィメタルシーンを文字どおり席巻した一台です。スラッシュ(Guns N’ Roses)やアンガス・ヤング(AC/DC)、ケリー・キング(Slayer)など、時代を代表するギタリストたちが愛用し、無数の名盤に刻み込まれてきました。クリーンチャンネルを持たないシングルチャンネル設計(主力の2203/2204モデル)のため、「音量を上げれば上げるほど自然に歪んでいく」という真空管アンプ本来の醍醐味を体験できるアンプとして、今なおギタリストにとっての「ブリティッシュトーン(英国的な音色)の原点」とも呼ばれています。

名機サクッと解説

「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。

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Marshall JCM800の主な特徴とスペック

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項目仕様
メーカーMarshall Amplification(イギリス)
発売年1981年
主なモデル2203(100W・シングルチャンネル)、2204(50W・シングルチャンネル)、2205(50W・スプリットチャンネル)、2210(100W・スプリットチャンネル)
出力100W(2203 / 2210)または50W(2204 / 2205)
パワー管EL34(英国製アンプに多く使われる真空管の種類。ミッドレンジ=中音域が豊かで「ブリティッシュトーン」の核となる)×4(100W)または×2(50W)
プリ管ECC83(12AX7)(プリアンプ用の真空管の一種。音色や歪みキャラクターの主な決め手となる)
チャンネル数1(2203 / 2204)または2(2205 / 2210)
マスターボリューム搭載(前身のJMP 2203から引き継いだ設計で、小音量でも歪みを得られるようにした機能)
エフェクトループなし(2203 / 2204)/ 搭載(2205 / 2210)
形状ヘッドアンプ(スピーカーキャビネット別売り)
コントロールPreamp(プリアンプゲイン)、Bass、Middle、Treble、Presence、Master Volume

JCM800という名称は正式なモデル名というよりも、1981年から1991年頃にかけて生産されたMarshallのシリーズ全体の通称として定着しています。主力モデルの2203(100W)と2204(50W)はシングルチャンネル設計で、クリーントーン専用のチャンネルは存在しません。その代わりに、ギター側のボリュームを絞ることでクリーンに近い音色を作り出せるという、ギターと一体となった繊細な音作りが特徴です。音量を上げた状態でのプリアンプとパワーアンプが同時に歪む感覚は、現代のハイゲインアンプにはない「生きているような」ダイナミクスとして多くのギタリストが語っています。

Marshall JCM800に関するエピソード

JCM800が登場した1981年は、ハードロック・ヘヴィメタルが商業的なピークを迎えようとしていた時代です。Marshallはそれまでの「JMP(Jim Marshall Products)」シリーズに代わる新世代アンプとしてJCM800を発表しました。前身のJMP 2203にマスターボリュームを搭載した設計を引き継ぎながら、より現代的な外観とトーンを実現したこのアンプは、瞬く間にスタジオとステージの標準装備として普及しました。

最も有名なエピソードのひとつが、Guns N’ Rosesのスラッシュ(Slash)による使用です。1987年のデビューアルバム『Appetite for Destruction』では、スラッシュが1959年製のGibson Les Paulと組み合わせてJCM800 2203を使用し、「Welcome to the Jungle」「Paradise City」「Sweet Child O’ Mine」といった楽曲でそのサウンドを世界に知らしめました。甘く歌うリードサウンドと乾いた切れ味のあるリフトーンの両立は、JCM800の真骨頂と語り継がれています。

AC/DCのアンガス・ヤング(Angus Young)もJCM800を使用していた時期があります。ステージ上での大音量と激しいステージアクションに耐えうる信頼性も、JCM800が長年支持される理由のひとつです。アンガスは複数本のJCM800を並べてスタックするセッティングでもよく知られており、そのパワー感あふれるサウンドはAC/DCの野外コンサートで圧倒的な存在感を放ちました。

Slayerのケリー・キング(Kerry King)とジェフ・ハネマン(Jeff Hanneman)は、1986年のアルバム『Reign in Blood』の制作において、改造を加えたJCM800を使用しました。この作品はスラッシュメタルの金字塔として知られており、JCM800ベースのサウンドが極限まで攻撃的に研ぎ澄まされた代表例として語り継がれています。

Marshall JCM800と共に使用される機材

Marshall JCM800と共に使用されるキャビネット

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キャビネット名搭載スピーカーなぜこの組み合わせが定番なのか
Marshall 1960A(4×12インチ・スラント型)Celestion G12T-75(75Wトップ向き設計のスピーカー)JCM800の発売時期と重なる80年代製のキャビネットで、当時の標準組み合わせ。G12T-75の明瞭な中高域がJCM800の明るいトーンを際立たせる
Marshall 1960B(4×12インチ・ストレート型)Celestion G12T-751960Aと同スピーカーのストレート型で、低域がより締まった印象。ドラムセットの前に置いて前向きに音を出す際に重用される
Marshall 1960AX(4×12インチ・スラント型)Celestion G12M25 Greenback(25Wヴィンテージスピーカー)70年代のGreenbakスピーカーを再搭載したヴィンテージ仕様。JCM800の明るい音色をGreenbackの温かみある中域が補い、ブルース・クラシックロック寄りのサウンドに仕上がる

Marshall JCM800と共に使用されるエフェクター

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エフェクター名役割なぜこの組み合わせが定番なのか
Ibanez Tube Screamer(TS808 / TS9)オーバードライブ(軽い歪みを加える機材)JCM800のプリアンプ入力をわずかに「押す」ことで、より引き締まった歪みと伸びのあるサステイン(音の伸び)を得るのが定番の使い方。スラッシュやゲイリー・ムーアらが好んだ組み合わせ
Boss SD-1 Super OverdriveオーバードライブTube Screamerと似た役割。JCM800をさらに「蹴り上げる」ブースターとして世界中のギタリストが愛用。価格が手ごろなため入門者にも広く普及している
Dunlop Cry Baby(ワウペダル)ワウ(音の周波数を足で動かして表情をつける機材)スラッシュやマイケル・シェンカーなど、JCM800ユーザーの多くがリードプレイにワウを組み合わせる。JCM800の豊かな中域とワウの相性が抜群
MXR 10-Band EQイコライザー(音域ごとの音量を調整する機材)JCM800はプリアンプのトレブルが強めになりやすいため、エフェクトループや直列でEQを挟んで音域バランスを整えるセッティングが定番
ISP Decimator / MXR Noise Clamp(ノイズゲート)ノイズゲート(不要なノイズを遮断する機材)JCM800は大音量・高ゲイン設定時にノイズが乗りやすい特性があるため、ノイズゲートは実用上ほぼ必須の組み合わせとして認識されている
Boss CE-2 Chorus / TC Electronic Corona Chorusコーラス(音に揺らぎを加えて広がりを出す機材)80年代ハードロックでは、クリーン〜クランチトーンにコーラスを乗せる音作りが流行。JCM800のナチュラルなトーンとコーラスの相性が良く、Enuff Z’nuffなどのグラムメタル系アーティストも多用した

Marshall JCM800の兄弟機・派生機

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モデル名特徴JCM800との違い
JCM800 2204(50W)2203の50Wバージョン。チャンネル構成は同じシングルチャンネル出力半減により、家庭やスタジオなど比較的小さい環境でもドライブ感を得やすい。音色は100W版とほぼ同じだが、わずかにコンプレッション感が異なるとも言われる
JCM800 2205 / 2210(スプリットチャンネル)50W / 100Wの2チャンネル仕様。リードとリズムを切り替え可能2チャンネル設計のためクリーン寄りのリズムトーンとリードトーンを足元のスイッチで切り替えられる。シングルチャンネル版よりも使い勝手が良い反面、あの「一体感のある歪み」とは異なる印象との声もある
Marshall Studio Classic SC20H(現行品)JCM800 2203をベースにした20W / 5W切替可能な現行品リイシュー(復刻版)小音量でも本物のJCM800サウンドを得られるよう設計された現代版。リビングやスタジオでの使用も現実的な選択肢になる。完全なオリジナル2203とは微妙に音の質感が異なるとも言われるが、入門やコスト面での優位性は高い

Marshall JCM800のモデリング

モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。JCM800は世界で最も多くモデリングされたアンプのひとつで、主要なデジタルアンプ機材のほぼすべてに収録されています。

Marshall JCM800のQUAD CORTEXにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpBrit 2203Marshall JCM800
AmpBrit 2203 87Marshall JCM800 1987
AmpBrit 2210Marshall JCM800 2210
Cabinet412 Brit 60A G75 80sMarshall 1960A(Celestion G12T-75 80年代仕様)
Cabinet412 Brit 60A GB75Hz ’89Marshall 1960A(Celestion G12M25ドライバー搭載)
Cabinet412 Brit 60B GB ’71Marshall 1960B(Celestion Pulsonic Greenback搭載)

Marshall JCM800のFractal Audio Systemsにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpBRIT 800 2204 HIGHMarshall JCM800 2204(50W)
AmpBRIT 800 2204 LOWMarshall JCM800 2204(50W)低ゲイン設定版
AmpBRIT 800 2203 HIGHMarshall JCM800 2203(100W)
AmpBRIT 800 2203 LOWMarshall JCM800 2203(100W)低ゲイン設定版
AmpBRIT 800 #34Marshall JCM800 2204(サンティアゴ#34モディファイ仕様)
AmpBRIT 800 MODMarshall JCM800 2204(一般的なモディファイ仕様)
AmpBRIT 800 STUDIO 20Marshall Studio Classic SC20H
Cabinet4×12 1960A G12M (RW)Marshall 1960A(Celestion G12M25 Greenback搭載)
Cabinet4×12 1960B T75 (RW)Marshall 1960B(Celestion G12T-75搭載)

Marshall JCM800のKemperにおけるモデリング

KemperはアンプをプロファイリングといってデジタルデータとしてそのままRIG(リグ)に取り込む機器です。KemperのFactory Rigsはアンプとキャビネットを1つのリグにまとめた形式で収録されており、キャビネット単独のエントリは存在しません。公式ファクトリーリグには以下のJCM800プロファイルが含まれています。

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種別モデル名(RIG NAME)元となった実機
AmpACE – 800 DIMarshall JCM800
AmpACE – 800 II DIMarshall JCM800
AmpACE – 800 LowMarshall JCM800
AmpACE – 800 MidMarshall JCM800
AmpACE – 800 OriginalMarshall JCM800
AmpACE – 800 ZillahMarshall JCM800
AmpBaldis 801Marshall JCM800
AmpBaldis 802Marshall JCM800
AmpBaldis 803Marshall JCM800
AmpBritish 800 Clean LoMarshall JCM800
AmpBritish 800 Grit LoMarshall JCM800
AmpBritish 800 Overdrive LoMarshall JCM800
AmpGB – Mars CM 800 808Marshall JCM800
AmpTAF – ManRock 800Marshall JCM800
AmpTAF – Mars 800 Bst 2Marshall JCM800
AmpTAF – Mars 800 Cr 2Marshall JCM800
AmpTAF – Mars CM 800 DriveMarshall JCM800

Marshall JCM800のLINE6 HELIXにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpBrit 2203Marshall JCM-800(100W)
AmpBrit 2204Marshall JCM-800(50W)
Cabinet4×12 1960 T75Marshall 1960 AT75(4×12インチキャビネット)

JCM800専用キャビネットは収録されていないため、相性の良いキャビネットを掲載しています。

Marshall JCM800の使用アーティスト

海外のアーティスト

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アーティスト名音楽スタイル使用時期・主な作品
Slash(Guns N’ Roses)ハードロック。甘くメロディアスなリードサウンドと力強いリフを併せ持つスタイル1987年〜。代表作:『Appetite for Destruction』(1987年)
Angus Young(AC/DC)ハードロック。シンプルな3コードを骨太に刻み続けるパワフルなスタイル1980年代。代表作:『Back in Black』(1980年)など
Dave Murray / Adrian Smith(Iron Maiden)NWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)。ツインリードとギャロッピングリフが特徴1980年代。代表作:『The Number of the Beast』(1982年)、『Piece of Mind』(1983年)
Kerry King / Jeff Hanneman(Slayer)スラッシュメタル。超高速のリフと攻撃的なリードが特徴1980年代。代表作:『Reign in Blood』(1986年)
Gary Mooreハードロック・ブルースロック。表情豊かなビブラートと圧倒的なサステインが特徴1980〜90年代。代表作:『Corridors of Power』(1982年)、『Still Got the Blues』(1990年)
Randy Rhoads(Ozzy Osbourne)ヘヴィメタル・クラシカルロック。クラシックの素養を取り入れた精緻なリードプレイ1980〜1982年。代表作:『Blizzard of Ozz』(1980年)、『Diary of a Madman』(1981年)

日本のアーティスト

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アーティスト名音楽スタイル使用時期・主な作品
布袋寅泰(BOØWY)ジャパニーズロック・ニューウェーブ。鋭いカッティングとシンプルながら印象的なリフが特徴1980年代(BOØWY活動期)。代表作:『JUST A HERO』(1986年)など
松本孝弘(B’z)ハードロック・ポップロック。厚みのある歪みとメロディアスなリードが特徴1990年代初頭など。代表作:初期B’z作品群

Marshall JCM800の特徴と注意点

特徴

  • ギターのボリュームノブへの追従性が圧倒的に高い。ボリュームを絞るとクリーンに近い音色になり、上げると自然に歪んでいく。「エフェクターに頼らずギター1本でクリーンからオーバードライブまで表現できる」という声がフォーラムやレビューで繰り返し挙がっており、ダイナミクスを重視するプレイヤーに特に支持されている。
  • 「弾き心地」としての気持ちよさがある。ピッキングの強弱に対してアンプ側が有機的に反応するため、多くのユーザーが「弾くほど上手くなった気がする」「音楽的に表現できる」と語る。これはデジタルモデリングではなかなか再現しにくいJCM800実機の大きな魅力とされている。
  • ライブ録音・スタジオ録音を問わず「抜けのいい」音が録れる。独特の中域の押し出し感(いわゆる「ブリティッシュミッドレンジ」)により、バンドアンサンブルの中でギターが存在感を発揮しやすい。「ミックスにそのまま馴染む」との声はギタリスト・エンジニア双方から多く聞かれる。
  • 「改造ベース」として息が長い。Jose Arredondoモディファイや#34モディファイなど、JCM800をベースにした改造アンプがロック史に数多く存在し、実機を入手してから自分好みにカスタムする文化が続いている。改造に耐えられるシンプルな回路設計がその背景にある。

注意点

  • 現代のヘヴィメタル・メタルコアには単体ではゲインが不足することがある。ノーマルのJCM800 2203/2204はプリアンプゲインが控えめで、1980年代的な「クランチから軽いディストーション」が中心。デスメタルやモダンメタルで求められるような超ハイゲインサウンドを出すには、Tube ScreamerなどのODペダルでフロントエンドをブーストするか、改造が必要になる場合が多い。
  • マスターボリュームをある程度上げないと本来の鳴りが出にくい。多くのユーザーが「MV(マスターボリューム)を絞りすぎると薄くて硬い音になる。ある程度上げてナンボのアンプ」と報告しており、スタジオや自宅の小音量環境ではJCM800らしいトーンを出し切ることが難しい場合がある。
  • 高音量・高ゲイン時にノイズが乗りやすい。シングルコイルピックアップのギターや古い電気配線の部屋での使用時に、ノイズが顕著になるとの声がある。ノイズゲートの使用が実質的に必須となるセッティングも多い。
  • 個体差が大きいことで知られる。同じ2203・2204でも製造年代・仕様(英国生産 / カナダ輸出仕様など)によって音色が大きく異なる場合がある。Fractal AudioのCLIFF氏が「カナダ輸出仕様の2204は特に良い音がした」とコメントしているほどで、中古市場で個体を選ぶ際には試奏が不可欠。

まとめ

Marshall JCM800は、「ロックの音とはこういうものだ」というひとつの答えを体現したアンプです。シンプルなシングルチャンネル設計ながら、ギターとプレイヤーの表現力をそのままダイレクトに音にする能力は、40年以上経った今なお色褪せていません。「80年代のハードロックやメタルのサウンドをリアルに追求したい」「ギターのボリュームで音作りする本格的な真空管アンプ体験をしてみたい」「スラッシュやGary Mooreの音に近づきたい」という方にとって、JCM800はまさに直球の答えです。現行品のStudio Classic SC20Hやデジタルモデリング機材(QUAD CORTEX、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIX)でもそのサウンドに手軽に触れることができますので、まずはどこかでそのトーンを体験してみてください。きっと「これがMarshallの音か」と感じる瞬間があるはずです。

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この記事を書いた人

趣味はギター、カメラ、料理。
好きなものはメタルコア、ビール、CAPCOM、FROMSOFTWARE。

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