
Mesa/Boogie JP-2Cは、伝説的なアンプ「Mark IIC+」の忠実な復刻版として2015年に登場したチューブアンプヘッドです。オリジナルのMark IIC+は1980年代を代表する名機として知られ、その音色を求めるプレイヤーは高額なヴィンテージ市場に頼るしかありませんでした。JP-2Cの登場により、あの伝説的なトーンが現代のステージやスタジオで再び手に入るようになりました。ハイゲインサウンドの頂点とも言えるこのアンプは、メタルからプログレッシブロックまで幅広いジャンルで活躍し続けています。
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Mesa/Boogie JP-2Cの概要
Mesa/Boogie JP-2Cは Dream Theaterのギタリスト John Petrucciのシグネチャーモデルアンプヘッドです。
このアンプは 1980年代に製造され 今や伝説的な存在となったMesa/Boogie Mark IIC+アンプをベースにしています。John Petrucciが初期のキャリアで使用し 彼のトーンの核となったMark IIC+のサウンドを 現代の技術と彼の要求仕様で再構築したモデルです。JP-2Cは3つの独立したチャンネルを持っています。CH1は非常にクリーンでヘッドルームの広いサウンド CH2とCH3はMark IIC+特有のタイトでアグレッシブなハイゲインサウンドを提供します。特にCH2はクランチからハイゲインまで CH3はさらに飽和感の強いリードサウンドに最適化されています。最大の特徴は 2系統の5バンドグラフィックEQを搭載している点です。これらは各チャンネルに個別に割り当てるか フットスイッチで切り替えることが可能です。これにより 多彩な音作りが実現します。MIDIコントロールや高品質なCabClone D.I.アウトプットも内蔵し レコーディングやライブでの利便性も追求されています。主にプログレッシブメタルやハードロックなど テクニカルで表現力豊かなギターサウンドが求められるジャンルで絶大な支持を得ています。
Mesa/Boogie JP-2Cにまつわるエピソード
JP-2Cの開発は John Petrucciの長年にわたるMark IIC+への深い愛情から始まりました。彼はDream Theaterのアルバム「Images and Words」などでMark IIC+を使用し そのサウンドは多くのギタリストに影響を与えました。しかし オリジナルのMark IIC+は製造数が少なく ビンテージ市場で高騰、またツアーで使用するには安定性や機能面での課題もありました。Petrucciは あの魔法のようなIIC+のサウンドを 現代のツアー環境でも安定して使える信頼性とMIDI切り替えなどの利便性を備えたアンプとして蘇らせたいとMesa/Boogieの創設者であるRandall Smithに長年リクエストしていました。
開発は Petrucciが所有するお気に入りのMark IIC+(通称”The HOLY GRAIL”)を徹底的に分析することから始まりました。Randall Smith率いるMesa/Boogieのチームは 単なる復刻ではなく Petrucciの要求するタイトな低音 スムーズな高音 そして完璧なゲインステージを実現するために膨大な時間を費やしました。
特にトランスや真空管の選定には妥協せず、1980年代と同じ仕様を追求したと言われています。2015年のNAMM Showで発表された際には、多くのギタリストから熱狂的な歓迎を受けました。オリジナルのMark IIC+は中古市場で数百万円の価格がつくこともあり、入手困難な状況が続いていたため、この復刻版は多くのプレイヤーにとって待望のニュースとなりました。JP-2Cは限定生産モデルとしてリリースされましたが その人気の高さから後にレギュラーモデルとしても生産されるようになりました。
Mesa/Boogie JP-2Cと一緒に使われる機材
JP-2Cのポテンシャルを最大限に引き出すために定番とされる機材を紹介します。
| カテゴリ | 機材名 | 特徴 |
| キャビネット | Mesa/Boogie Rectifier 4×12 / 2×12 | Celestion Vintage 30スピーカーを搭載。JP-2Cのタイトな低音とアグレッシブな中高域を再生する王道の組み合わせです。 |
| オーバードライブ | Ibanez TS9 / TS808 | アンプのゲインブースターとして使用。中域をプッシュし ピッキングニュアンスを強調します。 |
| モジュレーション | TC Electronic Dreamscape | John Petrucciのシグネチャーペダル。コーラスやフランジャーをエフェクトループに接続し 空間的な広がりを加えます。 |
| ディレイ | Fractal Audio Axe-Fx / TC 2290系 | クリアなデジタルディレイが好まれます。エフェクトループで使用し リードトーンに深みを加えます。 |
| ワウペダル | Dunlop JP95 John Petrucci Cry Baby | 彼のシグネチャーワウ。アンプの前に接続し 表現力豊かなワウサウンドを得るために使用されます。 |
シリーズ
Mesa/Boogie JP-2CはMark IIC+をベースにしたシグネチャーモデルですが Mesa/BoogieのMarkシリーズには他にも歴史的なモデルや現行モデルが存在します。
| モデル名 | 出力 | 特徴 |
|---|---|---|
| Mark IIC+ (オリジナル) | 60W/100W | 1980年代製造の伝説的オリジナルモデル |
| Mark III | 60W/85W/105W | IIC+の後継機として1985年登場 |
| Mark IV | 85W | 1990年発表のより多機能なモデル |
| Mark V | 10W/45W/90W | 2009年発表。複数のMark系統の音色を内包 |
| Mark VII | 25W/45W/90W | 2022年発表の最新モデル。現代的な機能を搭載 |
| JP-2C | 60W/100W | 2015年発表。IIC+の忠実な復刻版 |
Mesa/Boogie JP-2Cのモデリング
Quad Cortex
Quad CortexにはMesa/Boogie JP-2Cの3つのチャンネルすべてがモデリングされており、「CA John’s 2C Ch1」「CA John’s 2C Ch2」「CA John’s 2C Ch3」という名称で利用可能です。
これらのモデルは「California Dream 2C+」シリーズとして提供され、LeadチャンネルとCleanチャンネルが用意されています。
主にセットで使用されるキャビネットモデルとしては、「412 California Oversize」(Mesa/Boogie Oversize with UK made Celestion V30)や「412 California Vintage」(Mesa/Boogie traditional straight with UK Celestion V30)が推奨されます。
FRACTAL AUDIO SYSTEMS
Fractal AudioのAxe-Fx IIIシリーズには、JP-2C専用モデルとして「USA JP IIC+ GREEN」「USA JP IIC+ RED」「USA JP IIC+ RED SHRED」「USA JP IIC+ YELLOW」「USA JP IIC+ YELLOW SHRED」が収録されています。また、オリジナルのMark IIC+モデルとして「USA MK IIC+」「USA MK IIC+ BRIGHT」「USA MK IIC+ DEEP」「USA MK IIC+ DEEP BRIGHT」「USA MK IIC++」(カスタムモデル)も利用可能です。
キャビネットモデルには、Mesa Boogie関連として「2×12 TX Star」シリーズ(Lone Star 2×12 combo with Celestion C90 speakers)や「2×12 USA」シリーズ(Mesa Boogie 2×12 horizontal Rectifier cabinet with 70w V30 speakers)などが推奨されます。
KEMPER PROFILER
KEMPER PROFILERでは、複数のユーザーがJP-2Cのプロファイルを公式のRig Exchangeで公開しています。特に注目すべきプロファイルとして、Liam ThompsonによるMesa Boogie JP-2Cの3チャンネル全てをプロファイルした「Mesa JP-2C (Green)」「Mesa JP-2C (Yellow)」「Mesa JP-2C (Red)」があり、Mesa Boogie Standard OS Slant 4×12キャビネット(Celestion V30搭載)とShure SM57及びNeumann KM185マイクで録音されています。
その他、Bjorn GottfridssonによるMesa Rectifier 4×12 Slantキャビネット(Celestion V30)を使用したプロファイルパックも人気があり、DIプロファイルと複数のスタジオプロファイルが含まれています。
LINE6 HELIX series
Line6 Helixシリーズには、JP-2C専用のモデルは収録されていません。しかし、HelixにはMesa/Boogieのアンプモデルとして「Cali IV Rhythm 1」「Cali IV Rhythm 2」「Cali IV Lead」(Mesa/Boogie Mark IV)、および「MESA/Boogie Dual Rectifier」などが含まれています。
Mark IVはJP-2CのベースとなったMark IIC+の系譜に連なるモデルであり、同様のハイゲインサウンドを得ることができます。キャビネットモデルとしては、Helixに収録されている各種Mesa関連キャビネットIRを組み合わせることで、JP-2Cに近いトーンを作ることが可能です。
Mesa/Boogie JP-2Cを使用する著名なアーティスト
海外の著名なアーティスト
- John Petrucci (Dream Theater)
- 使用時期:2015年頃〜現在
- 該当アルバム:「The Astonishing」(2016) 「Distance Over Time」(2019) 「A View from the Top of the World」(2021)
- コメント:彼のメインアンプとしてレコーディングとライブの両方で一貫して使用されています。
John Petrucci(Dream Theater)は、JP-2Cの開発に直接関わった人物であり、このアンプの名前にもなっています。彼は1980年代からMesa/Boogieのアンプを使用し続けており、Mark IIC+を長年愛用してきました。DreamTheaterでの使用期間は1990年代初頭から現在まで続いており、特にアルバム「The Astonishing」(2016年)ではJP-2Cで全てのギタートラックをレコーディングしました。
日本の著名なアーティスト
Mesa/Boogie Mark IIC+及びJP-2Cを使用する日本の著名なアーティストについては、公開情報が限定的です。ただし、Mesa/BoogieのMarkシリーズ全般は日本のプログレッシブメタルやテクニカル系ギタリストの間で高い人気を誇っており、多くのプロフェッショナルギタリストがライブやレコーディングで使用しています。JP-2Cは2015年の発売以降、徐々に日本国内でも導入が進んでいる状況です。
まとめ
Mesa/Boogie JP-2Cは、伝説的なMark IIC+の音色を現代に蘇らせた傑作アンプです。John Petrucci とMesa/Boogieの30年以上にわたるパートナーシップから生まれたこのモデルは、オリジナルの回路設計を忠実に再現しながら、デュアルグラフィックEQやMIDI機能、CabClone D.I.といった現代的な機能を追加しています。メタル、ハードロック、プログレッシブロックを中心に幅広いジャンルで活躍し、タイトで明瞭なハイゲインサウンドから豊かなクリーントーンまで対応できる汎用性の高さが魅力です。Neural DSP Quad CortexやFractal Audioなどの主要なモデリング機器にも収録されており、実機を持たないギタリストでもその伝説的なトーンを体験できるようになっています。JP-2Cは単なる復刻版ではなく、Mark IIC+の遺産を受け継ぎながら新たな可能性を切り開いた次世代のハイゲインアンプと言えるでしょう。
