ギターアンプの歴史において、歪みの概念を根底から覆した伝説的な名機が存在します。それが、1992年に登場した「Peavey 5150」です。
稀代のギターヒーロー、エディ・ヴァン・ヘイレン(Eddie Van Halen)のシグネチャーモデルとして開発されたこのアンプは、単なるアーティストモデルの枠には収まりきらない怪物でした。その圧倒的な音圧と、どこまでも深く歪むドライブサウンドは、ハードロック界のみならず、デスメタルやメタルコアといったエクストリーム・ミュージックの現場に革命をもたらしました。
生産完了から年月が経った今なお、「このアンプでしか出せない音がある」と世界中のギタリストから神格化され、現代のデジタルモデリングにおいても必ず収録されるスタンダード・モデルとなっています。
なぜPeavey 5150はこれほどまでに愛され続けるのか?今回は、モダンヘヴィネスの礎を築いたこの名機の特徴や魅力を、実際のスペックや使用アーティストの例を交えて徹底的に解説します。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
Peavey 5150の主な特徴とスペック
Peavey 5150は、1992年にハードロック・ヘヴィメタルの象徴的ギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレン(Eddie Van Halen)とPeavey社の共同開発によって誕生した真空管ギターアンプヘッドです。
「ブラウンサウンド」と呼ばれるエディの理想とするトーンを追求しつつ、当時の音楽シーンが求めていた強烈なディストーションサウンドを実現。その圧倒的なゲインと中低域の粘りは、後のメタルコアやモダンヘヴィネスのサウンドの基礎を作り上げました。
| 出力 | 120 Watts RMS |
|---|---|
| プリ管 | 12AX7 × 5本 |
| パワー管 | 6L6GC × 4本 |
| チャンネル数 | 2チャンネル(Rhythm / Lead) |
| コントロール | 共通: Low, Mid, High, Resonance, Presence 各ch: Pre Gain, Post Gain その他: Bright Switch, Crunch Switch (Rhythm ch) |
| 重量 | 約22kg |
| 製造期間 | 1992年 ~ 2004年 |
Peavey 5150に関するエピソード
「改造マーシャルの終着点」としての開発 エディ・ヴァン・ヘイレンは長年、電圧を下げた改造マーシャル(Variac使用)による「ブラウンサウンド」を愛用していましたが、ツアーでの安定性やさらなるゲインを求め、Peavey社と提携しました。開発にあたりエディは「とにかく歪むこと」「ハウリング寸前のフィードバックが得られること」を要求し、その結果、類を見ないほどのハイゲインアンプが完成しました。
「ブロックロゴ」と「スクリプトロゴ」の伝説 初期生産分(1992年頃)はフロントパネルの「EVH」の文字がブロック体で表記されており、通称「ブロックロゴ(Block Letter)」と呼ばれています。後にElectro-Voice社(EV)との商標の問題等から、エディのサイン(筆記体)が入った「シグネチャーロゴ(Signature)」に変更されました。 市場では「初期のブロックロゴの方が音が良い(使用されている真空管が異なる等の説あり)」と神格化され、現在でも高値で取引されていますが、基本的な回路構成に大きな違いはないと言われています。
「6505」への継承 2004年にエディとPeaveyの契約が終了した後、Peaveyはこの名機を絶やすことなく「Peavey 6505」という型番に変更して販売を継続しました。「5150」という名前は使えなくなりましたが、中身は5150と全く同じ回路・仕様であり、そのサウンドは現在も世界中のステージで轟いています。
現在、楽器店で新品として売られている「5150」と書かれたアンプ(EVH 5150 IIIなど)は、エディがPeaveyを去った後にFender社と設立した新ブランド「EVH」の製品です。これはPeavey 5150とは全く別の新しいアンプです。Peavey時代よりも現代的でハイファイな歪みになっており、これもまた素晴らしいアンプですが、「あの頃の荒々しい音」とは別物とされています。
Peavey 5150と共に使用される機材
5150はその暴れるような高域と豊富な低域を持つため、それを引き締めるための機材とセットで運用されることが一般的です。
| 機材カテゴリ | モデル名・特徴 | 役割 |
|---|---|---|
| キャビネット | Peavey 5150 412 Cabinet (Sheffield 1200 Speakers) | 純正キャビネット。搭載されるSheffield 1200スピーカーはCelestion G12-65等を意識した重心の低いサウンドが特徴。 |
| オーバードライブ | Ibanez TS9 / TS808 Maxon OD808 | アンプの前段でブースターとして使用。低域をカットし中域を持ち上げることで、5150のルーズな低音をタイトにし、モダンなジェント/メタルコアサウンドを作ります。 |
| ノイズゲート | ISP Technologies DECIMATOR | 5150は「ホワイトノイズ発生機」と揶揄されるほどノイズが大きいため、高性能なノイズゲートは必須アイテムです。 |
Peavey 5150の兄弟機・派生機
5150には、ユーザーの要望に合わせて改良された兄弟機が存在します。
| 機材名 | 概要 |
|---|---|
| Peavey 5150 II | オリジナル5150のRhythm/LeadチャンネルでEQが共通だった点を解消し、独立EQを搭載したモデル。プリアンプ真空管が1本増え(計6本)、クリーントーンのヘッドルームが改善されています。後に「6505+」へと改名されました。 |
| Peavey 5150 Combo | 2×12インチスピーカーを搭載したコンボタイプ。出力は60Wに抑えられていますが、トップエンドの響きがヘッド版と若干異なり、このモデルを好む愛好家も存在します。後に「6505 212 Combo」へと継承されました。 |
| Peavey 6505 / 6505+ | エディとの契約終了後にリネームされたモデル。実質的に5150 / 5150 IIと同じアンプです。 |
Peavey 5150のモデリング
5150のサウンドは「ハイゲインアンプの基準」として、ほぼ全てのデジタルアンプシミュレーターに搭載されています。
Peavey 5150のQUADCORTEXにおけるモデリング
以下のモデルがNeural DSPのデバイスリストに記載されています。
| モデル名 | モデリング対象 |
|---|---|
| PV 505Sig | Peavey® 5150® Signature |
| PV 505 | Peavey® 6505® |
| 412 PV 505 Sheffield | Peavey® 6505® Straight with Sheffield® 1200 drivers |
Peavey 5150のFractal Audio Systemsにおけるモデリング
Fractal Audioでは、初期のブロックロゴ期と後期のシグネチャー期、さらにはIIまで細かく網羅されています。
| モデル名 | モデリング対象 |
|---|---|
| PVH 6160 Block | Peavey “Block Letter” EVH 5150 |
| PVH 6160 Fast | Peavey EVH 5150 with “fast” dynamic response |
| 4×12 5153 | Based on EVH 5150 III 4×12 |
| 4×12 6160 | Typically based on Peavey 5150/6505 cabinets with Sheffield speakers |
Peavey 5150のKemperにおけるモデリング
Kemperのファクトリーリグには、エディの名を冠したモデルやリネーム後の6505が多数収録されています。
| モデル名 | モデリング対象 |
|---|---|
| EVH 5150 III | Many profiles available, e.g., “EVH 5150 III – Red Ch.” |
| Peavey 6505 | Often labeled as “LEGENDS | Peavey 6505” |
| EVH 5150 III 4×12 | Celestion G12EVH |
Peavey 5150のLINE6 HELIXにおけるモデリング
Helixでは、Van Halenの楽曲名にちなんだ名称で収録されています。
| モデル名 | モデリング対象 |
|---|---|
| PV Panama | Based on Peavey® 5150® |
| 4×12 Panama | Based on Peavey® 5150® 4×12 with Sheffield® 1200 |
Peavey 5150の使用アーティスト
5150サウンドは、90年代以降のメタルサウンドそのものと言っても過言ではありません。
海外のアーティスト
| アーティスト名 | バンド名 | 使用時期 / 代表作 |
|---|---|---|
| Eddie Van Halen | Van Halen | アルバム『For Unlawful Carnal Knowledge』(1991) 以降 |
| Robb Flynn | Machine Head | アルバム『Burn My Eyes』(1994) 等、初期の轟音サウンドの核 |
| Matt Tuck | Bullet For My Valentine | アルバム『The Poison』(2005) 等 |
| James Hetfield | Metallica | アルバム『Load』『Reload』時期のレコーディングで使用 |
| Jesper Strömblad | In Flames | アルバム『Clayman』(2000) 等、メロディックデスメタルの金字塔サウンド |
日本のアーティスト
| アーティスト名 | バンド名 | 使用時期 / 備考 |
|---|---|---|
| Kazuki | Crossfaith | 初期~中期にかけてPeavey 6505+(5150 IIの後継)をメインで使用 |
| SHOW-HATE | SiM | Peavey 6505+を使用。レゲエパンクにおける重厚な歪みを担当 |
| 薫 / Die | Dir en grey | 初期のレコーディングやライブにおいて、Mesa/Boogie等と併用して使用された実績あり |
Peavey 5150のメリット・デメリット
メリット
圧倒的なハイゲイン: ブースターなしでもデスメタルまで対応できるほどの深い歪み。
唯一無二の「唸り」: 中低域に独特の粘り(Growl)があり、バンドアンサンブル内で強烈な存在感を放つ。
頑丈さ: ツアーでの酷使に耐える戦車のような耐久性。
コストパフォーマンス: プロ仕様のチューブアンプとしては比較的入手しやすい価格帯(特にUSED市場)。
デメリット
クリーンチャンネルが歪む: Rhythmチャンネルをクリーンに設定しても、完全なクリーントーンを作るのは難しく、少し歪んだクランチ気味になる(これが味でもある)。
ノイズが多い: ハイゲインゆえに「サーッ」というヒスノイズが大きく、ノイズゲートが必須。
重量: 非常に重く(約22kg)、運搬には体力が必要。
まとめ
Peavey 5150は、単なる「エディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデル」という枠を超え、モダンヘヴィネス、メタルコア、ラウドロックの「標準語」となった歴史的名機です。
美しく透き通ったクリーントーンよりも、地を這うようなリフや、突き刺さるようなリードトーンを求めるギタリストには、これ以上ない相棒となるでしょう。特に90年代〜00年代のラウドロックサウンドを再現したい方や、デジタル機材ではなく「本物の真空管の爆音」を体感したい方におすすめです。
