VOX AC30とは?名機サクッと解説

VOX AC30は、1959年にイギリス・JMI(Jennings Musical Industries)から発売された、30WのクラスA真空管コンボアンプです。当時大人気だったアンプ「AC15」が、Cliff Richardのコンサートで観客の歓声にかき消されてしまったことから、Hank Marvin(The Shadows)の要望を受けて「より大きなアンプ」として開発されました。NormalチャンネルとTop Boostチャンネルを持ち、EL84を4本使ったシャイミー(高域の透き通った輝き)と、ネガティブフィードバックのないパワーアンプによる独特の倍音が特徴です。ビートルズ、クイーン、U2など数え切れぬ伝説的アーティストが使用し、ブリティッシュロックの象徴的なアンプとして60年以上愛され続けています。一言で表すなら、「ブリティッシュロックの生き証人。シャイミーなクリーンから甘いオーバードライブまで、世界中のギタリストが「無人島に1台持っていくなら」と答える伝説のコンボ」——The Edge、Brian May、Rory Gallagherらが「デザート・アイランド・アンプ」と呼ぶ、時代を超えた名器です。

名機サクッと解説

「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。

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VOX AC30の主な特徴とスペック

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項目仕様
メーカーVOX(イギリス。旧Jennings Musical Industries / JMI)
発売年1959年(AC30 Twinとして。以降、Top Boost搭載版・複数バージョンが継続生産)
出力約30W RMS(クラスA動作)
パワー管EL84(英国製アンプに多く使われる小型五極管。シャイミーで艶やかな音色が特徴)×4
プリ管ECC83(12AX7。プリアンプ用真空管)×3〜4(時代により変遷。初期のAC30/4ではEF86をNormalチャンネルに使用し、のちにECC83に変更)
整流管GZ34(真空管整流。サギーなレスポンスとクラスAらしい圧縮感を生む)
チャンネル構成Normalチャンネル(トーンスタックなし)/Brilliantチャンネル(Top Boost。Bass・Treble独立制御)。2チャンネルをジャンプしてミックス可能
主なコントロールVolume、Cut(位相反転段の高域カット。Presenceとは異なる)、Top Boost時はBass・Treble
スピーカー2×12インチ。初期はGoodmans、のちにCelestion Alnico Blue、Silver Bell、Greenbackなど(モデル・年式により異なる)
その他ネガティブフィードバックなし(低域のゆるみと倍音の豊かさに寄与)。Faun Rexine(フェイクレザー)と茶色ダイヤモンドグリルが定番の外観。重量は約30kg前後
形状2×12コンボアンプ(スピーカー内蔵)

AC30の最大の特徴は、パワーアンプにネガティブフィードバックをかけていないことです。このためスピーカーのインピーダンスに合わせて出力が変化し、ボリュームを上げると低域がゆるみつつ倍音が増え、絞るとフルでシャイミーになるという、他のアンプでは得がたいダイナミクスを持ちます。Top Boost回路は1961〜62年頃に追加され、独立したBass・Trebleコントロールでミッドをカットし、より明るく切れの良いトーンを得られるようになりました。「クラスA」と称されるEL84の動作は、カソード・スクイッシュ(一種の圧縮)を生み、ドライブ時に独特の「開いた」感じと、タッチに敏感なレスポンスをもたらします。

VOX AC30に関するエピソード

1958年、The ShadowsのHank MarvinはVOXのオーナーDick Dennyに「会場で聴こえる大きなアンプが欲しい」と依頼しました。当時のAC15は15Wで、Cliff Richardの大規模コンサートでは観客の歓声に完全に掻き消されていました。DennyらはAC15の設計をベースにパワーを倍増し、1959年にAC30を完成させました。初期は単体12インチのTVフロントキャビネットでしたが、すぐにAC30 Twin(2×12インチ)が投入され、Goodmans Audiom 60、やがてCelestion Alnicoスピーカーへと進化しました。1960年には、マイクロフォニック(振動に敏感)で問題の多かったEF86をECC83に置き換え、AC30/6として3チャンネル・6入力のモデルが登場。その後、Top Boostがオプションとして、さらにコントロールパネル統合型として発売され、今日知られる「シャイミーなAC30」のトーンが確立されました。

The BeatlesのJohn LennonとGeorge Harrisonは、1960年代前半からAC30を使用しました。Lennonは1962年7月にAC15 Twinを購入し、のちに黒/茶色パネルのAC30へとグレードアップ。HarrisonもAC30で「A Hard Day’s Night」や「Ticket to Ride」など、切れの良いリフと透き通ったアルペジオを録音しました。Paul McCartneyは一部の公演でSuper Twinヘッド版を使用した記録があります。ビートルズの「明るく歌うようなギターサウンド」——Marshallの歪みとは異なる、シャイミーで甘いクランチ——は、AC30とレスポール/リッケンバッカーの組み合わせで生まれました。

Brian May(Queen)は、AC30を「唯一使うアンプ」として公言し、Queenの全盛期から現在まで一貫してAC30を使用しています。彼が自作したRed Specialに最適なトーンを探す中でAC30に出会い、以降一切変えていません。複数台のAC30をスタックし、トレブル・ブースターでゲインを押し込んで得られる、歌うようなリードトーンと厚いハーモニー——「Bohemian Rhapsody」や「Killer Queen」のギター——は、AC30のTop Boostとブースターの相性の良さを象徴するサウンドです。Mayは「AC30がなければQueenのサウンドはなかった」と語っています。

The Edge(U2)は、AC30を「デザート・アイランド・アンプ(無人島に1台だけ持っていくならこれ)」と呼び、長年メインアンプとして使用しています。ディレイとリバーブを駆使した、空間的なアルペジオとリフ——「With or Without You」「Where the Streets Have No Name」など——は、AC30のクリーンから軽いブレイクアップまでの透明度と、エフェクトを載せても濁らない明瞭さが基盤になっています。

Rory GallagherKeith Richards(The Rolling Stones)Dave Davies(The Kinks)Hank Marvin(The Shadows)Tom PettyらもAC30の愛用者として知られ、ブリティッシュロックとアメリカンロックの両方で、AC30のシャイミーなトーンが重要な役割を果たしてきました。

VOX AC30と共に使用される機材

VOX AC30と共に使用されるキャビネット

VOX AC30は2×12スピーカーを内蔵したコンボアンプのため、別途キャビネットを組み合わせる用法は一般的ではありません。ヘッド版(AC30HW等)を使用する場合は、VOX純正2×12キャビネットや、Celestion Alnico Blue搭載の2×12が定番の組み合わせとして知られます。

VOX AC30と共に使用されるエフェクター

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エフェクター名役割定番とされる理由
Vox V846 / V847(Cry Baby系)ワウペダルBrian MayがAC30とトレブル・ブースターに加えて使用。AC30の明るいトーンとワウの相性が良く、クイーンらしい表現力豊かなリードが得られる
トレブル・ブースター(Dallas Arbiter Range Master系など)ブースター(高域を強調して信号を押し上げる)Brian Mayの代表的なセットアップ。AC30のインプットをブースターで押し込むことで、ゲインとハーモニクスが増し、歌うようなリードトーンになる。AC30はブースターとの相性が特に良いとされる
アナログ/ディジタルディレイ(Memory Man、DM-2、TC Electronicなど)ディレイThe EdgeがAC30のクリーントーンにディレイを重ねて空間的なアルペジオを構築。AC30の透明感がエフェクトを濁らせず、U2サウンドの基盤となっている
オーバードライブ(TS808、Klon系など)軽いオーバードライブ・ブースターAC30のクランチをさらに厚くする用途。ゲインを控えめにするとクリアリティを保ちながら押し込みが可能で、インディーやオルタナティブ系で好まれる

VOX AC30の兄弟機・派生機

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モデル名特徴・違い
VOX AC1515W、EL84×2、1×12コンボ。AC30の「弟」にあたり、AC30より先に存在。小〜中規模の会場やスタジオ向け。AC30よりコンパクトで扱いやすく、シャイミーなトーンは共通
VOX AC1010W、EL84×2、1×12コンボ。AC30/AC15よりさらに小出力。ホームスタジオや小音量での練習向け。60年代のAC10はブリティッシュロックの名機として知られる
VOX AC30HW(Hand Wired)AC30のハンドワイヤード版。ポイント・ツー・ポイント配線で信頼性と音質を向上。Fractal AudioのAC30モデルの参照機としても知られる
VOX AC30 Custom Classic(AC30CC)現行のAC30シリーズ。Celestion BlueまたはGreenback搭載オプションあり。クラシックなAC30のトーンを現代的に再現
VOX AC30VR(Valve Reactor)真空管とトランジスタのハイブリッド型。ヴァリュームに応じて真空管の動作を切り替え、小音量でも満足感のあるトーンを目指した設計

VOX AC30のモデリング

モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。VOX AC30は、主要なモデリング機器のほぼすべてに収録されている代表的なアンプのひとつです。

VOX AC30のQUAD CORTEXにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpUK C30 NormalVox AC30
AmpUK C30 TopBoostVox AC30
Cabinet212 UK C30 ’65VOX AC30 Top Boost with Celestion Alnico Silver Bell
Cabinet212 UK C30 GB ’69VOX AC30 with Celestion Pre-Rola Greenback Pulsonic

VOX AC30のFractal Audio Systemsにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpAC-30Vox AC30(Normalチャンネル)
AmpAC-30 TBVox AC30(Top Boostチャンネル)
AmpAC-30 HotVox AC30(Top Boost Hotモード)
AmpAC-30 BrilliantVox AC30(Brilliantチャンネル)
AmpAC-30 BrightVox AC30
Cabinet2×12 Class-A 30WVox AC30 2×12(Alnico Silver Bell)
Cabinet2×12 TOP BOOST BLUEVox AC30 with Celestion Alnico Blue
Cabinet2×12 TOP BOOST SILVERVox AC30 with Alnico Silver

VOX AC30のKemperにおけるモデリング

Kemperはアンプをプロファイリング(実機をそのまま取り込む)する機器のため、ファクトリーリグではアンプとキャビネットが1つのリグにまとめて収録されています。キャビネット単独のエントリは存在しません。

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種別モデル名(RIG NAME)元となった実機
AmpVox AC30 1964Vox AC30
AmpVox AC30 Copper TopVox AC30
AmpVox AC30 channel 50thVox AC30
AmpVox AC30 channel 60thVox AC30
AmpVox AC30 TBVox AC30 Top Boost

VOX AC30のLINE6 HELIXにおけるモデリング

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種別モデル名元となった実機
AmpEssex A30Vox AC-30 with top boost
AmpA30 Fawn NrmVox AC-30 Fawn(normal channel)
AmpA30 Fawn BrtVox AC-30 Fawn(bright channel)
Cabinet2×12 Blue BellVox AC-30 Fawn Blue
Cabinet2×12 Silver BellVox AC-30TB Silver Alnico

VOX AC30の使用アーティスト

海外のアーティスト

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アーティスト名音楽スタイル使用時期・関連アルバム
John Lennon、George Harrison(The Beatles)ブリティッシュロック。ポップス、サイケデリックロック1962年頃〜。LennonはAC15 TwinからAC30へ。Harrisonの「A Hard Day’s Night」「Ticket to Ride」等のリフとアルペジオにAC30を使用
Brian May(Queen)ハードロック、スタジアムロック。オペラ的構成と歌うようなリードギターQueen結成時から一貫してAC30をメインアンプとして使用。「Bohemian Rhapsody」「Killer Queen」等のレコーディング・ツアーで使用
The Edge(U2)ロック、ポストパンク。ディレイとリバーブを駆使した空間的なギター長年AC30を「デザート・アイランド・アンプ」としてメイン使用。「With or Without You」「Where the Streets Have No Name」等
Rory Gallagherブルースロック。フィンガーピッキングとスライドを駆使AC30を愛用。「デザート・アイランド・アンプ」として挙げたギタリストのひとり
Keith Richards、Brian Jones(The Rolling Stones)ロックンロール、ブルースロック60年代のレコーディング・公演でAC30を使用
Dave Davies(The Kinks)ブリティッシュロック。パンク的なリフと攻撃的なトーン60年代のレコーディング・公演でAC30を使用
Hank Marvin(The Shadows)インストゥルメンタルロック。クリーンでメロディックなリードAC30開発のきっかけを作ったアーティスト。発売後も一貫してAC30を使用
Tom Pettyアメリカンロック、ハートランドロックAC30をレコーディング・ツアーで使用

日本のアーティスト

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アーティスト名音楽スタイル使用時期・関連アルバム
向井秀徳(NUMBER GIRL / ZAZEN BOYS)オルタナティブロック、ポストハードコア。切れ味あるリフと凶暴なトーンNUMBER GIRL時代からVOX AC30をメインアンプとして使用。テレキャスターとの組み合わせで「歯切れが良く耳に痛すぎない、かつ凶暴な部分も秘めた」サウンドを実現
オカモトコウキ(OKAMOTO’S)ロック、60〜70年代風クラシカルサウンドVox AC30を愛用。「生々しい音が気に入っている」とコメント。Fender Super-Sonicと使い分けて録音・ライブに使用

VOX AC30の特徴と注意点

特徴

  • シャイミーなクリーンと甘いオーバードライブ:ネガティブフィードバックがない設計により、ボリュームを上げると倍音が豊かになり、絞ると透き通ったクリーンになる。Fractal AudioのCliff Chaseは「AC30はスピーカーインピーダンスで低域と高域がブーストされ、ドライブ時はミッドにフォーカスし、ディケイ時はフルでシャイミーになる」と説明しており、この独特のダイナミクスが多くのプレイヤーを惹きつける
  • トレブル・ブースターとの相性が抜群:Brian Mayのセットアップに代表されるように、AC30のインプットをブースターで押し込むとゲインとハーモニクスが増幅され、歌うようなリードトーンが得られる。フォーラムやレビューでは「AC30はブースターに非常によく反応する」との声が多い
  • エフェクトを載せても濁らない明瞭さ:The Edgeがディレイやリバーブを多用しても空間的でありながら輪郭がはっきりしたトーンを出すように、AC30の透明感はエフェクターとの相性が良い。ディレイや modulation 系との組み合わせでインディーやポストロック寄りのサウンド作りに適する
  • 時代を超えた普遍的なデザイン:Faun Rexineと茶色ダイヤモンドグリルは60年代から続くアイコンであり、スタジオやステージの見た目としても多くのプロに好まれている

注意点

  • ボリュームを上げないと本来のトーンが出にくい:クラスAの特性上、ある程度ドライブさせないとシャイミーなオーバードライブが得られない。マスターボリュームは後年のモデル(AC30VR、Custom Classic等)で導入されたが、ヴィンテージ・オリジナル系では小音量での練習には不向きな場合がある。寝室練習ではブースターやアッテネーターの使用が検討される
  • 重量が重い:2×12コンボで約30kg前後。キャスター付きでも移動が大変で、フォーラムでは「AC30は重い」という声が繰り返し挙がる。単独での持ち運びが難しい場合は、AC15やモデリングでの代替が現実的
  • メンテナンスに注意:ヴィンテージ機は経年劣化による部品の交換や調整が必要。また、初期のEF86搭載モデルはマイクロフォニック(振動に敏感)でノイズの原因になりやすい。現行リイシューやHW版であれば信頼性は向上している

まとめ

VOX AC30は、1959年の誕生以来、The Beatles、Queen、U2をはじめとする数え切れぬアーティストに愛され、「ブリティッシュロックの生き証人」として60年以上の歴史を刻んできました。Normalチャンネルの素直なトーンとTop Boostのシャイミーな輝き、トレブル・ブースターとの相性の良さ、そしてネガティブフィードバックのないパワーアンプが生む独特の倍音——これらが組み合わさり、クリーンから甘いオーバードライブまで、時代を超えた普遍的なトーンを提供します。

「Brian MayやThe Edgeのようなシャイミーなクリーン〜クランチが欲しい」「ディレイやリバーブをたくさん載せても濁らない明瞭なトーンで、インディーやポストロックをプレイしたい」「60年代ブリティッシュロックのサウンドを追求したい」という方には特におすすめです。実機は重量がありますが、QUAD CORTEX、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIXのいずれにもAC30系のモデリングが収録されているため、まずはモデリングでその世界観を体験してみてください。The EdgeやBrian Mayが「無人島に1台持っていくなら」と答えるアンプ——その魅力は、今も多くのギタリストを魅了し続けています。

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この記事を書いた人

趣味はギター、カメラ、料理。
好きなものはメタルコア、ビール、CAPCOM、FROMSOFTWARE。

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