
Mesa/Boogie Trem-O-Verbは、1994年頃にMesa Engineeringが発表した、スプリングリバーブとトレモロを内蔵する100Wのオール真空管ギターアンプです。Dual Rectifierシリーズの兄弟機にあたります。
Mesa/Boogie Trem-O-Verb(トレムオーバーブ)は、1994年頃にアメリカ・カリフォルニアのMesa Engineeringが発表した、100Wのオール真空管ギターアンプです。Dual Rectifier(デュアルレクティファイア)シリーズの兄弟機として、同じレクティファイア回路をベースにしながら、内蔵のスプリングリバーブとトレモロを搭載した「より洗練された」バージョンです。ブルースからハードロック、メタルまで幅広いジャンルに対応し、特にクリーンチャンネルの評判が高く、Dual Rectifierの「装甲板をまとったバイカー」に対して「ベルベットとレザーのような声」と形容される温かみのあるトーンが特徴です。一言で表すなら、「Dual Rectifierのパワーと柔軟性に、リバーブとトレモロを加えた、ブルース志向のレクティファイア」——1994年のGuitar Player Amp Summitで28台の100Wアンプと競い、Vibro-KingやAC-30といった多様なアンプの質感を再現しつつ、他では出せない独自のサウンドを生み出したと評価された一台です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
スペック面の要点は、100Wの出力と6L6×4のパワー部、そして2チャンネル4モードにスプリングリバーブとトレモロを備えた構成です。
| メーカー | Mesa Engineering(米カリフォルニア州ペタルーマ) |
|---|---|
| 発売年 | 1994年頃 |
| 出力 | 100W(クラスA/B) |
| パワー管 | 6L6 × 4本(EL34に切り替え可能) |
| プリ管 | 12AX7 × 6本 |
| 整流管 | 5U4 × 2本 |
| 整流方式 | 真空管/シリコンダイオードの切り替え式 |
| チャンネル数 | 2チャンネル / 4モード |
| オレンジチャンネル | Clean / Vintage High Gain |
| レッドチャンネル | Blues / Modern High Gain |
| Channel Cloning | 搭載 |
| EQ | チャンネルごとに独立 |
| リバーブ | スプリングリバーブ(チャンネル別) |
| トレモロ | Speed / Depth(チャンネル別) |
| エフェクトループ | パラレルFXループ |
| Bold/Spongyスイッチ | 「Variac」スイッチ |
| インピーダンス出力 | 16Ω × 1、8Ω × 2、4Ω × 2 |
| 製造方法 | ハンドワイヤード(手配線) |
| フォーマット | ヘッド、2×12コンボ |
| 備考 | 現在は生産終了 |
発売年の1994年頃は、同年のGuitar Player Amp Summitで評価を受けた時期にあたります。パワー管の6L6は真空管の種類のひとつで、アメリカ製アンプに多く使われ、タイトでパンチのある音色が特徴です。EL34への切り替えはバイアススイッチで行います。プリ管の12AX7はギターアンプに最も多く使われる増幅用の真空管です。
整流方式はRectifier Select Switchで、真空管整流とシリコンダイオード整流を切り替えられます。オレンジチャンネルはCleanとVintage High Gainを切り替えられ、ミッドレンジが豊かでヴィンテージ寄りのトーンです。レッドチャンネルはBluesとModern High Gainを切り替えられ、Bluesモードは温かみのある中域、Modernはミッドスクープのメタル向けトーンです。Channel Cloningは、各チャンネルの設定を複製して使い回せる機能です。
EQは各チャンネルに独立したGain、Bass、Mid、Treble、Presence、Reverb、Masterを備えます。リバーブとトレモロはチャンネルごとにアサインでき、トレモロにはSpeed(速度)とDepth(深さ)のコントロールが付いています。エフェクトループのパラレルFXループには、Send LevelとMix Levelのコントロールがあります。
Bold/Spongyスイッチは「Variac」スイッチで、Boldは通常の電圧、Spongyは低めの電圧でよりサグ(電源の揺らぎによるコンプレッション)を効かせます。製造はペタルーマ工場でのハンドワイヤードです。コンボはCelestion Vintage 30を搭載した2×12です。
エピソード
1994年、Mesa/BoogieはDual Rectifier Solo Headの回路をベースに、スプリングリバーブとトレモロを内蔵したTrem-O-Verbを発表しました。Mesaの公式表現では、Trem-O-Verbは「装甲板をまとったバイカー兄弟」であるRecto Headの「洗練された兄弟」として位置づけられ、「ベルベットとレザーのような声」「煙のように漂う豊かな真空管リバーブ」「雨上がりの都会の夜明けに遠くで脈打つサイレンのような優しいトレモロ」といった詩的な表現でそのトーンが描写されています。
同年開催されたGuitar Player誌のAmp Summitでは、28台の100Wアンプが競い合う中、Trem-O-VerbはFender Vibro-KingやVox AC-30といった多様なアンプの質感を再現しつつ、他では出せない独自のサウンドを生み出したと評価されました。価格が4倍するアンプを含む競合機と比較しても遜色ないとされ、当時のトップレビュアーたちに感銘を与えました。
Kim Thayil(Soundgarden)は、2012年のPremier Guitarのインタビューで、Trem-O-Verbとの出会いを語っています。「そこに着いたとき、MattがMesa/Boogie Tremoverbコンボを持っていて、Neilも持っていた。そのサウンドが本当に気に入った」と述べ、スタジオセッションでTrem-O-Verbを採用した経緯を説明しています。2011年のSoundgarden再結成ツアーでは、Trem-O-VerbコンボとElectradyne(90W)を組み合わせ、2台のMesa Stiletto 4×12スラントキャビネットに送るセットアップを構築しました。グランジの歪んだリフから、クリーンなアルペジオまで幅広いトーンをカバーする構成です。
Mike Einziger(Incubus)は、Trem-O-Verbをメインアンプとして長年使用してきた代表的なユーザーです。「Science」「Make Yourself」「Morning View」といったIncubusのアルバムで聴ける、温かみのあるクリーンから中程度のゲインまでをカバーするトーンは、Trem-O-Verbのオレンジチャンネル(Vintage Hi-Gain)やBluesモードを中心に構築されています。EinzigerはFender JazzmasterやPRS Hollowbodyと組み合わせ、Line 6 DL4やBoss PH-3、Holy Grail Reverbなどのペダルでアンビエントな空間を演出するスタイルで知られています。
Boogie ForumやRig-Talkなどのフォーラムでは、「売ったことを後悔した唯一のアンプ」「本当に叫ぶ」といった評価が繰り返し寄せられ、特にクリーンチャンネルは「素晴らしい」と高く評価されています。一方で、歪みチャンネルにはブースト機能がないため、ライブでソロを際立たせるには外部のブースターが必要との声もあります。
共に使用される機材
共に使用されるキャビネット
- Mesa/Boogie Trem-O-Verb 2×12コンボ(純正):Celestion Vintage 30を2基搭載する純正コンボです。MesaがCelestionと特別に選定したVintage 30で、Trem-O-Verbの「大きなノート」と豊かなリバーブ・トレモロを最大限に活かす設計です。コンボとして一体型で提供されます。
- Mesa/Boogie Rectifier 2×12:Celestion Vintage 30を搭載した、ヘッドユーザーの定番ペアリングです。Trem-O-Verbコンボと同じV30を搭載するため、クリーンからハイゲインまで一貫したトーンが得られます。コンパクトで扱いやすい点も利点です。
- Mesa/Boogie Rectifier 4×12(Traditional / Standard):Celestion Vintage 30を搭載し、より大きなステージやメタル寄りのサウンドを求める場合の選択肢です。Trem-O-Verbの低域の「ブルーム」を4×12のキャビネットでさらに拡張できます。
共に使用されるエフェクター
- Ibanez Tube Screamer(TS808 / TS9):オーバードライブです。Trem-O-Verbの歪みチャンネルにブーストをかける定番で、ソロ用ブーストが内蔵されていないため、ライブでリードを際立たせる際に使われます。低域をカットしてミッドを前に出し、締まったトーンに仕上げます。
- Line 6 DL4 Delay Modeler:ディレイです。Mike Einzigerが使用しており、Trem-O-Verbのクリーンやクランチに空間感を加え、Incubusらしいアンビエントなトーンを構築します。
- Electro-Harmonix Holy Grail Reverb:リバーブです。内蔵リバーブに加えて、より長いテールや特殊なリバーブを重ねる際に使われます。Einzigerのセットアップで確認できます。
- Boss PH-3 Phase Shifter:フェイザーです。Incubusのサウンドに欠かせないモジュレーションで、Trem-O-Verbのクリーンチャンネルと相性が良いとされています。
兄弟機・派生機
Dual Rectifier Solo Head
Trem-O-Verbのベースとなった「装甲板のバイカー」兄弟機です。リバーブとトレモロはなく、よりアグレッシブでメタル寄りの定位です。Trem-O-Verbと回路はほぼ同一ですが、エフェクトが省かれています。
Recto-Verb(Rectoverb)
Single Rectifier系の2チャンネルモデルで、リバーブを搭載しています。Trem-O-Verbより「明るくタイト」なボイシングで、シリコンダイオード整流のみのため低域の締まりが強い点が特徴です。トレモロはありません。
Single Rectifier
50Wのシングルチャンネル版です。Recto-Verbとほぼ同一の2チャンネル構成ですが、リバーブはありません。よりコンパクトで、クラシック・ロック向けです。
モデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。以下に主要なデジタル機器でのMesa/Boogie Trem-O-Verbのモデリング情報をまとめます。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | CA Tremo Orange | Mesa/Boogie Trem-O-Verb |
| Amp | CA Tremo Red | Mesa/Boogie Trem-O-Verb |
| Amp | CA Tremo Blues | Mesa Boogie Trem-O-Verb Red Blues |
| Amp | CA Tremo Clean | Mesa Boogie Trem-O-Verb Orange Clean |
| Amp | CA Tremo Modern | Mesa Boogie Trem-O-Verb Red Modern |
| Amp | CA Tremo Vintage | Mesa Boogie Trem-O-Verb Orange Vintage |
| Cabinet | 212 CA Recto V30 ’98 | Mesa Rectifier 2×12 |
Mesa/Boogie Trem-O-Verb専用キャビネットは収録されていないため、相性の良いキャビネットを掲載しています。「212 CA Recto V30 ’98」の元となった実機は、Celestion Vintage 30を搭載したMesa Rectifier 2×12です。Trem-O-Verb 2×12コンボもCelestion Vintage 30を搭載するため、Mesa Rectifier 2×12 V30が近いトーンを再現できます。
Fractal Audio Systems における収録
Fractal Audio(Axe-Fx III / FM9 / FM3)の現行ラインナップには、Mesa/Boogie Trem-O-Verb専用のアンプモデルは収録されていません。フォーラムでは、Recto1(オリジナル2チャンネルRectifier)のモデルでネガティブフィードバックを最大にすることでTrem-O-Verbに近づけるというアプローチが報告されています。Trem-O-Verbは「他のRectoとは違う」キャラクターを持つため完全な再現は難しいものの、Recto Orange VintageやRecto Red Modernなどのモデルをベースにパラメータを調整することで、近いトーンを得ることは可能です。
Kemper における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Mesa Boogie Trem-O-Verb | Mesa/Boogie Trem-O-Verb |
Kemperはアンプとキャビネットを1つのリグ(RIG)にまとめた形式で収録しているため、キャビネット単独のエントリは存在しません。ファクトリーリグに「Mesa Boogie Trem-O-Verb」が含まれており、Mesa Boogie 2×12(Celestion Vintage 30)と組み合わせたプロファイルとして提供されています。
LINE6 HELIX における収録
LINE6 HELIXの現行ラインナップには、Mesa/Boogie Trem-O-Verbに該当するアンプモデルは収録されていません。Cali RectifireはMesa/Boogie Dual Rectifierをベースとしており、Trem-O-Verbとは別機種です。Trem-O-Verbのリバーブやトレモロ、Bluesモードを含むトーンを再現したい場合は、Cali Rectifireにヘリックスのリバーブやトレモロエフェクトを組み合わせるなどの代替アプローチを検討することになります。
使用アーティスト
海外のアーティスト
- Kim Thayil(Soundgarden)/グランジ・オルタナティブロック:歪んだリフとメロディックなリードで知られるギタリストです。2011年の再結成ツアーでTrem-O-VerbコンボとElectradyneを併用し、2012年のPremier Guitarインタビューで採用の経緯を語っています。Mesa Stiletto 4×12キャビネットと組み合わせています。
- Mike Einziger(Incubus)/アンビエントなロック:メロディックなギタートーンに、ジャズやファンクの要素を取り入れたスタイルです。メインアンプとして長年使用し、「Science」「Make Yourself」「Morning View」など複数のアルバムでTrem-O-Verbのトーンを活用しています。Vintage Hi-GainやBluesモードを中心にセッティングしています。
よくある疑問
Dual Rectifierとはどう違いますか?
Trem-O-Verbはスプリングリバーブとトレモロを内蔵した「洗練された」兄弟機です。ベースはDual Rectifier Solo Headの回路で、回路はほぼ同一ですが、Dual Rectifierにはリバーブとトレモロがありません。反対に、Dual Rectifier Solo HeadにあるSolo BoostはTrem-O-Verbにはありません。トーンはDual Rectifierの「装甲板をまとったバイカー」に対し、「ベルベットとレザーのような声」と形容されます。
歪みチャンネルにブースターは必要ですか?
ライブでリードを際立たせたいなら、外部のブースターが実質的に必要です。Trem-O-Verbの歪みチャンネルにはソロ用ブーストがないためです。Tube Screamer(TS808 / TS9)などのオーバードライブを前段に置くと、低域が締まりミッドが前に出ます。
QUAD CORTEXなどのモデラーで代用できますか?
はい、QUAD CORTEXなら代用できます。CA Tremo Orange / Red / Blues / Clean / Modern / Vintageの6モデルが収録されています。Kemperにも「Mesa Boogie Trem-O-Verb」のファクトリーリグがあります。一方、Fractal AudioとLINE6 HELIXには専用のアンプモデルがなく、Recto系のモデルやCali Rectifireをベースにパラメータやエフェクトで近づけることになります。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- クリーンチャンネルが高評価:Dual Rectifier系では「素晴らしいクリーン」と繰り返し評されています。歪みチャンネルにペダルをかけるベースとして最適で、Fractalフォーラムでは「他では得られない」と語るユーザーもいます(出典:Fractal Audio Forum、Boogie Forum)
- 内蔵リバーブとトレモロ:Rectifierシリーズで唯一、両エフェクトをチャンネルごとにアサインできます。ブルースやヴィンテージ志向のプレイに便利で、外部ペダルなしでも表現の幅が広がります(出典:Mesa公式、Boogie Forum)
- 4モード(Clean / Vintage / Blues / Modern)の柔軟性:オレンジチャンネルでクリーンからヴィンテージ・ハイゲイン、レッドチャンネルでBluesからModern High Gainまで、一台で幅広いトーンレンジをカバーします。IncubusのMike Einzigerのように、クリーンから中程度のゲインまでを一つのアンプで賄う使い方ができます(出典:GuitarChalk、Equipboard)
- 6L6とEL34の切り替え:バイアススイッチでパワー管を切り替えられ、よりブリティッシュ寄りのトーンに変化させられます。バリエーションを求めるプレイヤーに有利です(出典:Audiofanzine)
注意点
- 歪みチャンネルにソロ用ブーストがない:Dual Rectifier Solo HeadにはSolo Boostが搭載されていますが、Trem-O-Verbにはありません。ライブでリードを際立たせるには、Tube Screamerなどのオーバードライブでブーストする必要があります(出典:Boogie Forum、Avid DUC)
- 初期モデルのLDR(光依存性抵抗)問題:初期ロットでは、特定のLDRが経年劣化で不具合を起こす事例が報告されました。Mesaはテクニカルブリテンで47Ω・68Ω抵抗の交換や、Vactec製LDRへの交換を推奨しています。中古購入時は動作確認が望ましいです(出典:Rig-Talk)
- 生産終了のため新品入手が困難:Trem-O-Verbは現在Out of Productionです。中古市場での入手となり、タングリルクロス(ベージュ系)のヘッドは特に人気が高く希少です(出典:Rig-Talk、Boogie Forum)
まとめ
Mesa/Boogie Trem-O-Verbは、Dual Rectifierのパワーと柔軟性を活かしつつ、リバーブとトレモロを内蔵した「洗練されたレクティファイア」です。ブルースからハードロック、メタルまで幅広いジャンルに対応し、特にクリーンチャンネルの評判は高く、Kim ThayilやMike Einzigerといったプロがスタジオやツアーで採用してきました。歪みチャンネルにはソロ用ブーストがないため、Tube Screamerなどのペダルで補う使い方が定番です。生産終了後も根強い人気を誇り、中古市場では高値で取引されることもあります。QUAD CORTEXにはCA Tremoシリーズとして複数モデルが収録され、Kemperのファクトリーリグにも「Mesa Boogie Trem-O-Verb」が含まれているため、まずはモデリングでそのトーンを体験してから、中古市場で実機を探してみるというアプローチもおすすめです。ベルベットとレザーのような温かみと、雨上がりの夜明けのようなトレモロ——Trem-O-Verbの独特な世界観を、ぜひ一度体験してみてください。




