
VOX AC15は、EL84×2本のクラスA回路を持つ15Wの真空管ギターアンプです。1958年にJMIから発表され、現在も現行モデルが販売されています。
VOX AC15は、1958年にイギリス・JMI(Jennings Musical Industries)によって発表された、世界初の本格的ブリティッシュ真空管ギターアンプ「AC1/15」の直系であり、後にAC30へと発展する歴史的モデルの原型となる15WクラスAコンボアンプです。設計者ディック・デニーが「ライブで長いサステインを得られるアンプ」を目指して開発し、明るいシャイマー(きらめくような高域の艶)と自然なオーバードライブが特徴です。ビートルズやザ・シャドウズに代表されるブリティッシュ・インヴェイジョン期のジャンギーなギターサウンドを支え、インディーロック、ポップス、カントリーなど、クリーンから軽いクランチまで幅広く対応します。一言で表すなら、「AC30の兄貴分であり、15Wのコンパクトさでブリティッシュ・クラスAの艶と温かみを手軽に得られる、歴史と実用性を兼ね備えた名機」——60年代の黄金期を切り開いたアンプであり、今なおスタジオやホームスタジオで愛用され続けています。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
スペック面の要点は、EL84×2本によるクラスA回路と、NORMALとTOP BOOSTの2チャンネル構成を持つ1×12コンボであることです。
| メーカー | VOX / JMI(イギリス。現行モデルは中国製) |
|---|---|
| 初出・製造期間 | 1958年(AC1/15として発表)〜現在 |
| 出力 | 15W RMS |
| パワー管 | EL84×2 |
| プリ管 | ECC83(12AX7)×2〜3 |
| 整流管 | EZ81またはダイオード |
| チャンネル数 | 2(NORMAL/TOP BOOST) |
| 主なコントロール | Volume、Bass、Treble、Tone Cut ほか |
| スピーカー | 1×12インチ(Celestion製) |
| その他 | クラスA回路、オープンバックキャビネット |
| 形状 | 1×12コンボアンプ(スピーカー内蔵) |
現行モデルはAC15C1、AC15C1X、AC15HW等です。パワー管のEL84は、英国製アンプに多く使われる小型五極管で、クラスAらしい艶やかなミッドとシャイマーが特徴です。
プリ管のECC83(12AX7)はプリアンプ用の真空管です。ヴィンテージ仕様ではEF86(五極管。NORMALチャンネル用)を採用するモデルもあります。整流管は、ヴィンテージ回路ではEZ81、現行モデルではダイオードです。
TOP BOOSTチャンネルは、高域を強調したVOXらしいシャイマーを得る回路です。コントロールは、Volume、Bass、Treble(Top Boostチャンネル)、Tone Cut(高域調整)、マスターボリューム(現行モデル)、リバーブ、トレモロです。
スピーカーは、現行のAC15C1がCelestion Greenback、AC15C1XがCelestion Alnico Blueです。ヴィンテージはCelestion Blue等が使われています。クラスA回路は片端回路のため圧縮感が強く、小音量でも歪みやすい特徴があります。
AC15はAC30と同系のプリアンプ回路を持ちますが、パワー管がEL84×2本(AC30は×4本)であるため、クリーンヘッドルームが少なく、AC30より低い音量で自然なオーバードライブに達します。Top Boostチャンネルは高音と低音のコントロールが連動する独特の挙動を持ち、12時位置から調整するのが推奨されることが多いです。クラスA回路ならではの滑らかな圧縮と、EL84の艶やかな倍音が、60年代ブリティッシュロックの「ジャンギーでツイングのある」サウンドの土台となっています。
エピソード
1958年、楽器店経営者のトム・ジェニングスとアンプ設計者のディック・デニーによって設立されたJMI Corporationは、当時勃興していたエレクトリックギターのニーズに応えるため、ライブで長いサステインを得られるアンプの開発に着手しました。ディック・デニーが1956年頃から進めていたプロトタイプを発展させ、1958年に「AC1/15」(通称AC15)が発表されます。AC15はロンドンのギタリストたちの間で一躍人気を博し、1960年にはセカンドサーキット、1960年4月以降にはサードサーキット(OA/031)と進化を重ね、トレモロ(位相シフト式バイブラト)やCelestion Blueスピーカーの採用により、ブリティッシュ・インヴェイジョンの代表的トーンを形づくっていきました。
The Beatles(ビートルズ)は、初期のハンブルクやリバプール時代にVOX AC15を使用していたことが知られています。ジョン・レノンは1961年製のVOX AC15 Twin(2スピーカー版。Goodman 12インチ搭載)を初期のレコーディングで使用したとされ、ビートルズが正式にVOXのエンドースメントを受けた後も、AC15からAC30へと機材を拡張していく過程で、ジャンギーで明るいリズムギターのサウンドを確立しました。「Please Please Me」や「She Loves You」など、初期ビートルズの特徴的なギタートーン——澄んだクリーンと、やや押しつぶれたような中域のクランチ——は、AC15やAC30とGretschやリッケンバッカーを組み合わせた結果といわれています。
Jerry Donahue(Fotheringay、Fairport Convention、Robert Plant、Joan Armatrading、George Harrison、Roy Orbisonらと共演したテレマスターの名手)は、VOXのオフィシャルアーティストとしてAC15を使用しています。「Bendmaster of the Telecaster」の異名を持つDonahueは、カントリー的なベンドとフォークロックの艶やかなクリーンを、AC15のシャイマーと相性良く組み合わせています。
AC15は1959年に出力を倍にしたAC30がリリースされ、やがてVOXの代表作としてAC30が前面に立つようになりますが、AC15は「よりコンパクトで扱いやすく、小規模な会場やスタジオ向き」という位置づけで、現在に至るまで継続して生産されています。
共に使用される機材
共に使用されるキャビネット
VOX AC15は1×12スピーカーを内蔵したコンボアンプであるため、別途キャビネットを組み合わせる用法は一般的ではありません。該当なしとします。
共に使用されるエフェクター
- Dallas-Arbiter Rangemaster(及びそのクローン、Rangemaster風トレブルブースター):高域をブーストし低域をカットしてアンプを押し込むトレブルブースターです。Brian MayがAC30とRangemasterの組み合わせで確立したスタイルと同様に、VOX系アンプはトレブルブースターとの相性が極めて良いとされます。AC15のNORMALチャンネルにRangemasterを経由させると、EL84を効率的にオーバードライブさせ、明るくカットの効いたリードトーンが得られます。60〜70年代のブリティッシュロックの定番です。
- Ibanez Tube Screamer(TS808 / TS9):オーバードライブ・ブースターとして、AC15のTop Boostチャンネルに軽いゲインを足し、ミッドを厚くすることで、カットの効いたクランチやリードを引き出せます。ゲインを抑えめにしたブースター的な使い方が、シャイマーを活かしたトーン作りに適しています。
- アナログディレイ(Boss DM-2、MXR Carbon Copyなど):タイム系エフェクトで、AC15のクラスAらしい温かみと相性が良く、リードプレイの輪唱効果や空間づくりに多用されます。60年代のテープエコー風の遅れは、ブリティッシュインヴェイジョン風のアレンジに合います。
兄弟機・派生機
VOX AC30
AC15の出力を倍にした2×12コンボで、1959年に発売されました。EL84を4本搭載し、クリーンヘッドルームが多く、大音量でのクリーントーンを得意とします。AC15よりクリーン寄りで、歪みはより大音量で得られます。
VOX AC10
AC15より小さい10W版で、1×10スピーカーを搭載します。よりコンパクトでホームユース向けです。AC15よりクリーン寄りで、歪みは控えめです。
VOX AC15C1
現行のスタンダードモデルで、Celestion Greenbackを搭載します。AC15C1Xよりコストを抑えたラインナップです。
VOX AC15C1X
Celestion Alnico Blueを搭載する上位版です。よりヴィンテージに近い艶やかなトーンが特徴で、AC15の定番サウンドを追求するモデルです。
VOX AC15HW / AC15H1TVL
ハンドワイヤード(手配線)回路の高級版で、EF86を採用するモデルもあります。オリジナルAC15に近いヴィンテージサウンドを現代の品質で再現します。
モデリング
モデリングとは、実機アンプの音色や挙動をデジタル技術で忠実に再現したもので、本物のアンプを持ち歩かなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。VOX AC15は、主要なモデリング機器の多くに収録されている人気アンプのひとつです。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | UK C15 Normal | Vox AC15 |
| Amp | UK C15 TopBoost | Vox AC15 |
| Cabinet | 112 UK C15 Blue | Vox AC15 with Celestion Alnico Blue |
Fractal Audio Systems における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Class-A 15W TB | Vox AC15 Top Boost |
| Cabinet | 1×12 Class-A 15W Blue Mix | Vox AC15 with Celestion Alnico Blue |
Kemper における収録
Kemperはアンプをプロファイリング(実機をそのまま取り込む)する機器のため、ファクトリーリグではアンプとキャビネットが1つのリグにまとめて収録されています。キャビネット単独のエントリは存在しません。
| 種別 | モデル名(RIG NAME) | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | VOX 1975 AC15 | VOX AC15 |
| Amp | VOX AC15 1964 | VOX AC15 |
| Amp | VOX AC15 1971 | VOX AC15 |
LINE6 HELIX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Amp | Essex A15 | VOX AC-15 |
| Cabinet | 1×12 Blue Bell | VOX AC-15 with Celestion Alnico Blue |
使用アーティスト
海外のアーティスト
- The Beatles(ビートルズ)/ロック、ポップス:ブリティッシュ・インヴェイジョンの代表格です。初期(1960年代初頭)にVOX AC15を使用し、ジョン・レノンは1961年製AC15 Twinを初期レコーディングで使用したとされます。後にAC30へ拡張しました。
- Jerry Donahue/フォークロック、カントリー、ロック:テレキャスターのベンドの名手です。VOXオフィシャルアーティストとしてAC15を使用し、Fotheringay、Fairport Convention、ジョーン・アーマトライディングらとの共演で知られます。
日本のアーティスト
- 橋本絵莉子(Chatmonchy)/オルタナティブ・ロック、インディーポップ:ギター・ボーカルです。VOX AC15C1をRoland JC-120と併用し、JC-120で透明なクリーンの基盤を、AC15で中域の温かみと自然なチューブサチュレーションを担当するセットアップとして使用しています。
よくある疑問
AC30とはどう違いますか?
出力とクリーンヘッドルームが違います。AC30はAC15の出力を倍にした2×12コンボで、EL84を4本搭載し、大音量でのクリーントーンを得意とします。AC15はEL84が2本のため、より低い音量で自然なオーバードライブに達します。
AC15C1とAC15C1Xはどう違いますか?
違いはスピーカーです。AC15C1はCelestion Greenback、AC15C1XはCelestion Alnico Blueを搭載します。AC15C1Xの方がヴィンテージに近い艶やかなトーンで、AC15C1はコストを抑えたスタンダードモデルです。
QUAD CORTEXでAC15のサウンドは使えますか?
使えます。QUAD CORTEXにはUK C15 NormalとUK C15 TopBoostのアンプモデルがあり、キャビネットは112 UK C15 Blueが収録されています。元となった実機は、いずれもVox AC15(キャビネットはCelestion Alnico Blue搭載のもの)です。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- 15Wでありながら大きな存在感:クラスA回路のため、15Wでも驚くほど大きく艶やかな音が出ます。小規模ライブやスタジオではマイキング前提で十分な音量が得られます。フォーラムでは「15 watts is surprisingly loud」「fills a small room easily」との声が多く見られ、AC30より扱いやすい出力として評価されています
- 小音量でも歪みやすい:AC30よりクリーンヘッドルームが少ないため、寝室やアパートなど小音量環境でもアンプの自然なオーバードライブを楽しみやすくなっています。AC30が「フルクランクでないと歪まない」のに対し、AC15は「Volumeを12時前後でクランチが得られる」という利点があります
- Top Boostのインタラクティブなトーン:Top BoostチャンネルのBassとTrebleは連動して働くため、高音を上げると低音が下がるという独特の挙動があります。慣れると素早くニュアンスを変えられる一方、初心者には「思ったようにいかない」と感じることもありますが、VOXらしいシャイマーを得るための設計として支持されています
- トレブルブースターとの抜群の相性:VOX系アンプはRangemaster等のトレブルブースターと相性が良く、EL84を効率的にオーバードライブさせてBrian May風の明るいリードトーンを引き出せます。フォーラムでは「VOX + treble booster = magic」との評が繰り返し見られます
注意点
- 音量を出すと低域が膨らむことがある:クラスAの特性上、大音量時に低域が暴れやすい傾向があります。AC15H1TVLなど一部モデルにはBass Shiftスイッチで対応できるものもありますが、フルボリューム時はEQやブースターの設定に注意が必要です。フォーラムでは「gets flabby when cranked」「use tone cut to tame low end」とのアドバイスが見られます
- Celestion Alnico Blueは15Wが限界に近い:AC15C1Xに搭載されるCelestion Alnico Blueは15W/16Ω仕様が多く、アンプをフルで叩くとスピーカーへの負担が心配される場合があります。Greenback搭載のAC15C1の方が耐久性を重視した選択肢となります
- AC30よりクリーンが少ない:クリーントーンを大音量で使いたい場合、AC15は早めに歪むためAC30の方が適しています。逆に小〜中音量で自然なクランチを求めたい場合にはAC15の方が向いています
まとめ
VOX AC15は、1958年の誕生以来、ブリティッシュ・インヴェイジョンのサウンドを支えてきた歴史的なアンプです。AC30の兄貴分として、15WのコンパクトさでクラスAの艶とシャイマー、自然なオーバードライブを提供し、ビートルズの初期サウンドや、現代のインディーロック・ポップスまで、幅広いジャンルで愛用されています。
「AC30が欲しいが、15Wで十分な小規模環境で使いたい」「60年代風のジャンギーで艶やかなギターサウンドを追求したい」「トレブルブースターと組み合わせてBrian May風のリードを出したい」「スタジオやホームレコーディングで自然なクランチが欲しい」という方には特におすすめです。AC15C1(Greenback)とAC15C1X(Alnico Blue)の違いはスピーカーの性格によるトーンの差であり、予算と好みに応じて選べます。QUAD CORTEX、Fractal Audio、Kemper、LINE6 HELIXいずれにもAC15系のモデリングが収録されているため、まずはモデリングでその世界観を体験してみてください。60年代の黄金期を切り開いたアンプのサウンドは、今なお多くのプレイヤーを魅了し続けています。


