「ワウペダル」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのが、このJim Dunlop Cry Baby GCB95(クライベイビー・スタンダード・ワウ)です。Cry Babyはワウ(足元のペダルを前後に踏み込むことで、トーンを「ワコワコ」と変化させるフィルターエフェクト)の代名詞的存在で、1960年代の誕生以来ほとんど姿を変えずに作られ続けています。ノブは一切なく、操作は「ペダルの踏み込み量」だけ。だからこそ奏者の足さばきがそのまま音に出る、表現力の塊のようなペダルです。
ファンキーなカッティング、泣きのギターソロ、ザクザクのメタルリフまで、ジャンルを問わず使われてきた万能選手。ジミ・ヘンドリックスからスラッシュ、カーク・ハメットまで、名だたるギタリストの足元を支えてきた歴史そのものが、このペダルが今も話題に上り続ける理由です。一台あればギターの表情が一気に増える、まさに「最初に踏むべきワウ」と言える定番機です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
Jim Dunlop Cry Babyの主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エフェクトの種類 | ワウ(足元のペダルを踏み込んでフィルター(特定の周波数を強調するEQのようなもの)を上下に動かし、トーンを連続的に変化させるエフェクト) |
| コントロール | ノブは一切なし。操作はロッカーペダル(シーソー状の踏み板)の踏み込み量のみで行う。つま先を踏み込んで「カチッ」とスイッチが入り、前後に揺らすことでワウが掛かる |
| 電源 | 9Vバッテリー(006P/ペダル底面から交換)またはDunlop ECB003 ACアダプター等のDC9V電源(センターネガティブ極性)。消費電流は約900µA(0.9mA)と非常に小さい |
| 入出力端子 | モノラル。Instrument(インプット)とAmplifier(アウトプット)の2端子。入力インピーダンス約800kΩ、出力インピーダンス約10kΩ |
| バイパス方式 | バッファードバイパス(オフ時も内部回路を通る方式)。標準のGCB95はTrue Bypass非対応で、オフ時に高域がわずかに削れる「トーンサック」が起きやすい。後段に置く位置取りで気になることがあるため、True Bypass化の改造や、True Bypass仕様の上位機(後述)を選ぶユーザーもいる |
| 主要パーツ | Faselインダクター(ワウ独特の「鳴き」を生むコイル)と「Hot Potz」ポテンショメーターを採用。これがCry Babyらしいスイープの肝 |
| 筐体 | ダイキャストアルミ製の頑丈なロッカー筐体。ステージでの酷使に耐える堅牢さが信頼の理由 |
| 製造国 / ブランド | Jim Dunlop(アメリカ)。現行品はUSA製 |
| 発売年 | 原型は1960年代後半(オリジナルのワウ回路は1966年頃に誕生、「Cry Baby」名での展開は1960年代末)。GCB95は現行品として生産継続中のロングセラー |
Jim Dunlop Cry Babyはどんな音がするのか
Cry Baby GCB95のサウンドを一言で表すなら「太く、はっきり鳴く、ど真ん中のワウ」です。ワウは歪みのように音色そのものを作るというより、フィルターを足で動かして「表情」を付けるエフェクトなので、ここではワウ特有の観点(スイープ範囲・効きの鋭さ・踏み込みへの追従)で描写していきます。
スイープ範囲(ワコワコの幅)として、GCB95はかかとを踏み込んだ低い位置で350〜450Hz付近、つま先を踏み込んだ高い位置で1.5〜2.5kHz付近をなぞります。低域から高域への移動幅が広く、「ワッ」から「クワァ」まで一筆書きで描けるのが持ち味。クラシックなワウらしい、どっしりとした中低域の押し出しがあります。
効きの鋭さ(ピーク感)は、Faselインダクターによる強調が効いていて、特定の周波数がグッと持ち上がる「鳴き」がはっきり出ます。上品に薄く掛けるタイプではなく、踏めばしっかり主張する、存在感の強いワウです。歪みアンプ(Marshall系など)と組み合わせると、このピークがリードを前に押し出してくれます。
踏み込みへの追従も良好で、足を動かしたぶんだけリニアにフィルターが動きます。だからこそ、ゆっくり踏めば泣きのソロ、速く小刻みに踏めばファンキーなカッティングと、足さばき次第で表情がガラッと変わります。「弾く」というより「踊らせる」感覚に近く、ピッキングと足の動きが噛み合った瞬間の気持ちよさは格別です。
同系統との比較でいうと、ヴィンテージVox系のワウが軽やかで高域寄りの「ヒョーヒョー」とした鳴きなのに対し、GCB95はより太く中低域に芯がある現代的なバランス。荒々しいロックやメタルでも音が痩せず、バンドの中で埋もれにくいのが強みです。一方で、つま先を踏み込んだ位置ではかなり高域がキツくなるので、ブライトなアンプ(Fender系クリーン)では耳に痛くなりやすい点は覚えておくと良いでしょう。
Jim Dunlop Cry Babyのエピソード
ワウペダルそのものの誕生は1966年頃にさかのぼります。アメリカのThomas Organ社のエンジニアが、Voxアンプの中域を可変させる回路を試作している最中に、偶然「ワウワウ」と鳴くあの効果を発見したのが始まりでした。当初はトランペット奏者のミュート代わりとして売り出され、ジャズトランペッターのクライド・マッコイの名を冠した「Clyde McCoy」ワウとして登場します。それがギタリストたちの手に渡り、爆発的に広まっていきました。
「Cry Baby」という名前は、この時期のオリジナルのワウに由来します。やがてイタリアのJENなどで製造されたこれらのペダルを経て、現在はJim Dunlop社がブランドを受け継ぎ、GCB95として作り続けています。半世紀以上ほぼ同じ回路で生産され続けているという事実そのものが、完成度の高さを物語っています。
このペダルの伝説を語るうえで外せないのがジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)です。「Voodoo Child (Slight Return)」の冒頭で聞こえる、ギターがしゃべるような「ワウワウ」というあのフレーズは、ワウ表現の到達点とも言われます。ただし注意したいのは、ヘンドリックスが実際に踏んでいたのは1960年代当時のオリジナルのVox/Thomas Organ系(JEN製)のワウであり、現行のDunlop GCB95そのものではない点。Dunlopは後年、彼のトーンを再現したシグネチャー機(JH-1Dなど)を別途リリースしています。
歪みアンプとの組み合わせではスラッシュ(Slash/Guns N’ Roses)が代表格です。「Sweet Child o’ Mine」のソロで、泣くように歌うワウサウンドは彼のトレードマーク。Dunlopからは彼の仕様に合わせたシグネチャーCry Baby(SW95など、18V駆動で上中域に張りを持たせた高ゲイン仕様)が発売されています。メタル方面ではカーク・ハメット(Kirk Hammett/Metallica)がハイゲインなRandallアンプ向けに調整したシグネチャー機(KH95)を持ち、ザック・ワイルド(Zakk Wylde)もMarshall JCM800 2203向けにボイシングしたシグネチャー機(ZW45)を展開しています。いずれもベースは同じCry Babyで、いかにこのペダルが各ジャンルの中核に居続けているかが分かります。
Jim Dunlop Cry Babyの使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、ギターのすぐ後・歪みの前です。チューナーやコンプの後、オーバードライブ/ディストーションの前に置くのが王道。ワウのフィルターで作った帯域を後段の歪みで持ち上げると、鳴きがより前に出ます。なお、トム・モレロのようにあえて歪みの後ろ(アンプの後段)に置くと、よりシンセ的でクセの強いワウになります。
典型的な使い方:
- 泣きのソロ: 足をゆっくり大きく動かし、フレーズの抑揚に合わせてワウを掛ける。ロングトーンで止め踏み(ハーフワウ)すると、特定の帯域が強調されて「歌う」ような響きになる。
- ファンキーなカッティング: 16分のリズムに合わせて足を小刻みに動かし、歯切れの良い「ワカワカ」を作る。歪みは浅め〜クリーンが合う。
- 固定ワウ(コック・ド・ワウ): ペダルを途中で踏み止めて固定し、フィルターの効いた中域強調トーンとして使う。リフやソロに鼻づまり感のあるアクセントを足せる。
アンプとの組み合わせでは、Marshall系の歪みと相性が良く、ロックやメタルのリードで鳴きを前に押し出す使い方が王道です。Fender系のクリーンアンプで使う場合は、つま先側(高域)が痛くなりやすいので、踏み込みを浅めにコントロールするとまとまります。
重ね使いでは、ワウの後段にオーバードライブを置くのが基本パターン。ファズと組み合わせる場合は、ワウ→ファズの順だと発振しやすいことがあるため、相性を見ながら順番を入れ替えると安定します。これはヘンドリックス系のサウンドを狙うときの定番の悩みどころでもあります。
Jim Dunlop Cry Babyと相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
| アンプ | 出力 / 特徴 | Cry Babyとの組み合わせが人気な理由 |
|---|---|---|
| Marshall JCM800 / Plexi系 | 50〜100W / 中域の効いたブリティッシュな歪み | ロック/メタルのリードでワウの鳴きを前に出す王道の相手。ザック・ワイルドやスラッシュ系のサウンドの核。歪みとワウのピークが噛み合って「泣き」が際立つ |
| ハイゲインアンプ(Randall系など) | 100W級 / モダンなハイゲイン | カーク・ハメットがシグネチャー機を合わせる相手。深く歪んだリフ/ソロでワウを掛けると、強烈に主張するメタルらしいトーンになる |
| Fender Twin Reverb / Deluxe Reverb | 22〜85W / クリーンで抜けの良いトーン | ファンキーなカッティングでワウを使う相手として定番。クリーンだとワウのフィルター変化がくっきり聞こえる。ただし高域が痛くなりやすいので踏み込みは浅めが無難 |
相性の良いエフェクター
| エフェクター | 役割 | この組み合わせが定番な理由 |
|---|---|---|
| オーバードライブ/ディストーション(TS系・SD-1等) | ワウの後段で歪みを足す | ワウ→歪みの順が基本。ワウで強調した帯域を歪みで押し上げると鳴きが前に出る。リードで定番の組み合わせ |
| ファズ(Fuzz Face系等) | ヘンドリックス系の荒々しいワウトーン | ワウ+ファズはロックの古典的サウンド。ただし発振しやすいため、順番や個体の相性で調整が必要なことも |
| コンプレッサー | ワウ前段でダイナミクスを整える | カッティングでワウを使う際、コンプで粒を揃えるとワカワカがより安定して気持ちよく決まる |
Jim Dunlop Cry Babyの兄弟機・派生機
| モデル | GCB95との違い |
|---|---|
| GCB95F Cry Baby Classic | レッドFaselインダクターを搭載した上位版。より太くヴィンテージライクな鳴きになる。基本構造はGCB95と同系 |
| 535Q Cry Baby Multi-Wah | ワウの効き具合やブースト量、スイープ範囲を切り替えられる多機能版。True Bypass仕様で、1台で複数のワウを使い分けたい人向け |
| CM95 Clyde McCoy Cry Baby | オリジナルのClyde McCoyワウの鳴きを再現した復刻系。より高域寄りでヴィンテージなボーカル感がある |
| SW95 / KH95 / ZW45(シグネチャー) | それぞれスラッシュ/カーク・ハメット/ザック・ワイルド仕様。各人のアンプ・トーンに合わせて帯域やゲインを最適化。SW95は歪み回路内蔵・18V駆動など独自仕様も |
Jim Dunlop Cry Babyのモデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Cry Babyはワウのスタンダードなので各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターに高い確率で収録されています。以下、主要4機種での収録状況を確認します。
Jim Dunlop Cry BabyのQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Crying Wah | Dunlop Cry Baby GCB-95 |
QUAD CORTEX(Neural DSP)のGuitar effectsセクションには、GCB95を再現したモデルが「Crying Wah」として収録されています。同社のワウ群にはこのほか、Clyde McCoy系の「Crying Clyde Wah」やDimebag Darrellの「Crybaby From Hell」を再現した「Crying Wah From Hell」もあり、Cry Babyファミリーが手厚くカバーされています。GCB95そのものを狙うなら「Crying Wah」が直系のモデルです。
Jim Dunlop Cry BabyのFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Cry Babe | Dunlop Cry Baby |
Fractal Audio機器(Axe-FX、FM9、FM3等)のWahブロックには、Dunlop Cry Babyをモデリングした「Cry Babe」が収録されています(公式WikiのWah blockページで「Based on Dunlop Cry Baby」と明記)。同ブロックにはVox系の「VX846」やClyde McCoy系の「Clyde」など複数のワウタイプがあり、その中でCry Baby直系がこの「Cry Babe」です。
Jim Dunlop Cry BabyのLINE6 HELIXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Fassel | Dunlop Cry Baby Super(GCB95系のFaselインダクター搭載ワウ) |
| Effect | Teardrop 310 | Dunlop Cry Baby Fasel model 310 |
LINE6 HELIXのWahカテゴリには、Dunlop Cry Baby系を再現したモデルが収録されています。LINE6は商標上の理由から独自のもじり名称を使っており、「Fassel」(Faselインダクターをもじった名)がCry Baby Super相当、「Teardrop 310」がFasel model 310搭載のCry Baby相当です。GCB95系のFaselサウンドを狙うなら「Fassel」が近い選択肢になります。なお、Arbiter Cry Baby系の「Weeper」も別に用意されています。
Jim Dunlop Cry BabyのKemperにおけるモデリング
KemperにはGreen Scream(TS-808系オーバードライブ)やKemper Drive(複数のドライブを統合したアルゴリズム)といったストンプがありますが、これらはいずれもオーバードライブ系であり、ワウの実機モデルではありません。Kemperのワウ(Wah Wah)エフェクトは「Cry Babyのモデリング」として固有名を持つ形ではなく、フィルターのスイープ範囲やピークをユーザーが調整して各種ワウのキャラクターを作り込む汎用ワウとして搭載されています。したがって、GCB95を名指しで再現した個別モデルとしては、Kemperのストンプエフェクトには収録されていません。
Jim Dunlop Cry Babyの使用アーティスト
海外のアーティスト
| アーティスト | 音楽スタイル | 使用・補足 |
|---|---|---|
| Jimi Hendrix | サイケデリックロック / ブルースロック | 「Voodoo Child (Slight Return)」等で象徴的なワウ表現を確立。実際の使用機は1960年代当時のオリジナルVox/Thomas Organ系(JEN製)で、現行GCB95そのものではない。Dunlopは後にシグネチャー機JH-1D等を発売 |
| Slash(Guns N’ Roses) | ハードロック | 「Sweet Child o’ Mine」等の泣きのソロでワウを多用。Dunlopからシグネチャー機SW95(18V駆動・高ゲイン仕様)が発売されている |
| Kirk Hammett(Metallica) | スラッシュメタル | ワウを多用するメタルギタリストの代表格。ハイゲイン向けに調整したシグネチャー機KH95を持つ |
| Zakk Wylde | ヘヴィメタル / ハードロック | Marshall JCM800 2203向けにボイシングしたシグネチャー機ZW45を展開。極太のリードでワウを効かせる |
日本のアーティスト
現時点で信頼できる情報源からの裏付けが取れていないため記載を省略します。
Jim Dunlop Cry Babyの特徴と注意点
特徴
- 太く芯のあるスイープ:Faselインダクターによる中低域に芯のある鳴きで、ヴィンテージVox系より現代的で抜けが良い。バンドの中でも埋もれにくいとレビューで繰り返し言及される。
- 「ど真ん中」の定番サウンド:誰もがイメージする標準的なワウの音がそのまま手に入る。最初の一台として「迷ったらこれ」と勧められることが多い、基準点的な存在。
- 頑丈なダイキャスト筐体:足で踏み続ける機材ながら堅牢で、ステージでの酷使に耐える信頼性が支持されている。
- シグネチャー機が豊富で発展性がある:スラッシュ・カーク・ハメット・ザック・ワイルドなど、同じCry Babyベースで好みのボイシングに踏み込んで選べるのも魅力。
注意点
- True Bypass非対応によるトーンサック:標準GCB95はオフ時も回路を通るため、「オフにしても音がわずかに変わる・高域が削れる」と感じるユーザーがいる。気になる場合は改造やTrue Bypass仕様の上位機を選ぶ必要がある。
- つま先側で高域がキツくなりやすい:スイープ上端がかなりブライトなため、Fender系クリーン等では耳に痛く感じることがある。踏み込み量でのコントロールが要る。
- ノブがなく音作りの自由度は低い:効き具合やスイープ範囲を本体で調整できない。細かく追い込みたい人には535Q(多機能版)などのほうが向く。
- ファズとの相性に癖がある:ワウ+ファズの組み合わせで発振やトーンの暴れが出ることがあり、順番や個体相性の調整が必要になる場合がある。
まとめ
Jim Dunlop Cry Baby GCB95は、「太く芯のあるスイープ」「誰もが知る定番の鳴き」「頑丈で信頼できる作り」がそろった、ワウペダルの基準点とも言える一台です。ノブはなく、操作は踏み込みだけ。だからこそ奏者の足さばきがそのまま音になる、表現力の高さが最大の魅力です。
こんな演奏をしたい方に特におすすめです。
- 泣きのギターソロに、歌うような表情を足したい方(スラッシュやヘンドリックス系の表現が好きな方)
- ファンキーなカッティングで歯切れの良い「ワカワカ」を出したい方
- メタルのリフ/ソロにアグレッシブなワウのアクセントを加えたい方
- 最初のワウを、失敗の少ない王道の定番から選びたい方
細かい音作りこそできませんが、踏んだ瞬間に「これぞワウ」という音が出る安心感は唯一無二。まずはこの一台でワウの気持ちよさを足で体感してみてください。ワウは理屈より、踏んでナンボのエフェクトです。
