Electro-Harmonix Big Muff Piとは?名機サクッと解説

ファズ(信号を激しくつぶして分厚く飽和させる、最も荒々しい歪みの一種)の代名詞を一台挙げるなら、Electro-Harmonix Big Muff Pi(ビッグマフ・パイ)は絶対に外せません。1969年の登場以来、世界中のロックギタリストが「壁のような分厚い歪み」と「どこまでも伸びる長いサステイン」を求めてこのペダルにたどり着いてきました。

Big Muffの個性は、単なるファズにとどまらない「ファズとディストーションの中間にある、ぶ厚くて甘いサステイン」です。コードを鳴らせば爆発するような飽和感、単音で弾けばヴァイオリンのように伸びていくリードトーン。オルタナティブロック、シューゲイザー、ストーナー、グランジ、そしてプログレッシブロックまで、轟音と歌うようなリードの両方を支えてきました。David GilmourやBilly Corgan、J Mascisら名だたるギタリストの音の核になってきた、まさに「ファズの王様」と言える一台です。

名機サクッと解説

「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。

CONTENTS

Electro-Harmonix Big Muff Piの主な特徴とスペック

項目内容
エフェクトの種類ファズ/ディストーション/サステイナー(信号を激しく飽和させる歪みと、音を長く伸ばすサステインを兼ね備えたエフェクト)。EHX自身も「Fuzz / Distortion / Sustainer」と位置づけている
コントロールVolume(出力レベル)、Tone(低域の温かさ〜高域の鋭さを連続で調整)、Sustain(歪みの量とサステインの長さ)の3ノブ
電源9Vバッテリー(付属)またはDC 9V 外部アダプター(センターネガティブ極性)に対応
入出力端子モノラル1系統(インプット・アウトプット各1)
バイパス方式トゥルーバイパス(エフェクターをオフにしたとき、内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。音質の劣化が少ない)。現行のNYC版で採用
筐体サイズ約4.75(幅) × 5.75(奥行) × 2.5(高さ) インチ(およそ121 × 146 × 64 mm)。コンパクトペダルとしてはやや大柄
製造国 / ブランドElectro-Harmonix(EHX)。現行品はアメリカ・ニューヨークシティ製(「The NYC original」と銘打たれる)。歴史的にはロシア製(Sovtek)の時代もある
発売年初代は1969年。以来モデルチェンジを重ねつつ現行品として生産継続中の超ロングセラー

Electro-Harmonix Big Muff Piはどんな音がするのか

Big Muffのサウンドを一言で表すなら「壁のように分厚く、どこまでも伸びる甘いファズ」です。

全体的なキャラクターとして、一般的なファズ(Fuzz Faceのようなブチブチとざらつくタイプ)とは方向性が異なり、より滑らかで飽和した、ディストーションに近い質感を持っています。歪みの粒が細かく、音の塊がぎっしり詰まったような密度感があるのが最大の個性です。ファズというより「分厚い壁」と表現されることが多く、コードを鳴らすと各弦が溶け合って一枚の轟音になります。

周波数帯域の傾向はToneノブのセッティングで大きく変わります。特徴的なのは中音域がへこむ「ミッドスクープ(中域が削れてドンシャリ気味になる特性)」で、Toneを中央付近にすると低域と高域が前に出て中域が引っ込みます。この性質ゆえ、バンドの中で他の楽器と中域がぶつかりにくい反面、単体で聴くと音が引っ込んで聞こえることもあります。Toneを上げれば鋭くジャリッと、下げれば暗くウーリー(毛羽立った毛布のような)なトーンになります。

ゲイン量・歪みの質感は強烈です。Sustainを上げていくと歪みが増し、同時に音の伸びが長くなります。最大付近では単音がいつまでも減衰しないほどのサステインが得られ、ヴァイオリンのように歌うリードが作れます。一方でSustainをゼロにしてもBig Muffらしい分厚さは残り、クランチのように軽く歪ませる使い方は苦手です。良くも悪くも「常にぶ厚い」ペダルです。

ダイナミクスへの追従性は、TS系オーバードライブほど繊細ではありません。ピッキングの強弱で歪み量が大きく変わるタイプではなく、強く弾いても弱く弾いてもしっかり歪む「べったりした」反応です。ギターのボリュームを絞ると多少クリーンに近づきますが、完全なクリーンには戻りにくいのも特徴。弾いていてどう感じるかという点では、コードをジャラーンと鳴らすと壁が押し寄せてくるような迫力があり、単音リードでは「弾けばどこまでも伸びる」安心感があります。

アンプとの組み合わせでは、Fenderなどクリーンなアンプ(クリーンチャンネル)に単体でつなぐのが王道です。Big Muff自体が完成された歪みを持つため、クリーンアンプを土台にBig Muffで歪みを作る使い方が最もキャラクターを活かせます。すでに歪んでいるアンプに重ねると飽和しすぎて潰れがちなので、基本はクリーン〜軽いクランチのアンプと合わせるのが定番です。

Electro-Harmonix Big Muff Piのエピソード

Big Muffは1969年、Electro-Harmonixの創業者Mike Matthewsが、Bell Labs出身のエンジニアBob Myerと組んで「歪みながらも音が長く伸びるサステイナー」を目指して開発したのが始まりです。最初期のモデルはVolume・Sustain・Toneの3ノブが三角形に配置されていたことから、後に「Triangle(トライアングル)」と呼ばれるようになりました。以来、回路の細部を変えながら数多くのバージョンが生まれ、それぞれに熱心なファンがついています。

このペダルを語るうえで欠かせないのがDavid Gilmour(Pink Floyd)です。彼は特に第2世代の「Ram’s Head(ラムズヘッド)」版を愛用し、『Animals』や『The Wall』期の、空間を切り裂くように歌う伸びやかなリードトーンの核にしました。Big Muffの「歌うサステイン」という魅力を世界に知らしめた立役者と言えます。

1990年代に入ると、Billy Corgan(The Smashing Pumpkins)がBig Muffを再評価しました。彼は『Siamese Dream』で、ファズとディストーションの中間にある爆発的な歪みを大量に重ね、分厚い音の壁を作り上げました。同じくJ Mascis(Dinosaur Jr.)はRam’s Headを土台に、リフを地震のように轟かせるぶ厚いファズで知られ、オルタナ/轟音ギターの象徴的存在になっています。さらにJack White(The White Stripes)のように、ファズを「個性そのもの」として大胆に使うガレージロック勢にも愛されてきました。Big Muffは時代やジャンルを越えて、轟音を求めるギタリストの拠り所であり続けています。

Electro-Harmonix Big Muff Piの使い方と信号チェーンでの位置づけ

信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、ギターのすぐ後ろ、前段です。ワウやコンプの後、ディレイ・リバーブといった空間系の前に置くのが定番。Big Muffは歪みを作る土台になるため、ほかの歪みより前段に置くのが基本です。歪んだアンプのエフェクトループに入れる使い方は通常しません。

典型的なセッティング例:

  • 歌うリードトーン(Gilmour系): Sustain = 2〜3時(多め)、Tone = 11〜12時、Volume = 原音と同程度〜やや大きめ。クリーンアンプにつないで、伸びのある滑らかなリードを作る。
  • 分厚いリフ/壁ファズ(Corgan・Mascis系): Sustain = 1〜3時、Tone = 12〜2時、Volume = 12時前後。コードを鳴らして轟音の壁を作る。バンドで埋もれるならToneを少し上げて高域を足す。
  • 軽めのザラつき: Sustain = 9〜11時(低め)、Tone = 12時、Volume = 12時。歪みは控えめでも、Big Muffらしい分厚さは残る。

アンプとの組み合わせでは、Fender系のクリーンアンプを土台にするのが最も扱いやすい王道です。Big Muffはミッドがへこむ性質があるため、バンドアンサンブルで音が引っ込んで聞こえることがあります。その場合はToneを上げて高域の抜けを稼ぐか、後述のミッドブースターを併用すると前に出てきます。Marshall系の少し歪んだアンプに重ねると荒々しさは増しますが、潰れやすくなるので歪みは控えめにしておくのがコツです。

重ね使いでは、Big Muffの後ろ(または前)にTube Screamer系のオーバードライブを置いて中域を持ち上げると、引っ込みがちな音をぐっと前に押し出せます。これはBig Muffユーザーの定番テクニックです。また空間系(ディレイ・リバーブ)はBig Muffの後段に置くことで、伸びやかなリードに広がりを足せます。

Electro-Harmonix Big Muff Piと相性の良い機材

相性の良いギターアンプ

アンプ出力 / 特徴Big Muffとの組み合わせが人気な理由
Fender Twin Reverb / Hiwatt系クリーンでヘッドルームが広いDavid Gilmourの定番セットアップ。歪んでいないクリーンを土台にBig Muffで歪みを作ると、伸びやかなリードのキャラクターが最も活きる
Fender系クリーンアンプ全般20〜85W / クリアで素直Big Muff自体が完成された歪みを持つため、クリーンアンプを土台にするのが最も扱いやすい。アンプで色付けせずペダルのキャラをそのまま出せる
Orange / Marshall系ブリティッシュで中域が太いストーナー/ドゥーム勢に人気。少しだけ歪ませたアンプに重ねると、より荒々しく爆発的なファズになる。歪みすぎると潰れるので加減が要る

相性の良いエフェクター

エフェクター役割この組み合わせが定番な理由
Tube Screamer系オーバードライブ(Ibanez TS9等)中域を持ち上げて前に出すBig Muffはミッドがへこむため、TS系を重ねて中域を補うと音が前に出る。引っ込みがちなBig Muffを救う定番の組み合わせ
ディレイ・リバーブ(空間系)サステインに広がりを足すBig Muff → 空間系 の順で、歌うリードに残響と奥行きを加える。Gilmour系の浮遊感あるトーンに不可欠
ファズ/ブースター(Treble Booster等)さらにゲインと抜けを足す前段にブースターを置くとサステインと音の抜けが増す。轟音をさらに押し出したいストーナー/シューゲイザー系で使われる

Electro-Harmonix Big Muff Piの兄弟機・派生機

モデル時期 / 系統標準のBig Muffとの違い
Triangle Big Muff Pi初代(1969〜1973)/ 現行で復刻版ありノブが三角形配置の最初期型。より明るく、抜けが良く、長いサステインが特徴。個体差が大きい
Ram’s Head Big Muff Pi第2世代(1973〜1977)/ 現行で復刻版あり音の安定感と一貫性が増した世代。GilmourやMascisが愛用。やや中域寄りで滑らかなリード向き
Green Russian / Black Russian Big Muffロシア(Sovtek)製時代 / 現行で復刻版あり低域が太く、より暗くウーリーな質感。ストーナー/ドゥーム系で人気。標準のNYC版より荒々しく重い
Op-Amp Big Muff Pi1970年代後半(オペアンプ回路)/ 現行で復刻版ありトランジスタではなくオペアンプを使った異色版。Billy Corganが『Siamese Dream』で使ったとされる、爆発的でエッジの効いたサウンド
Nano / Deluxe Big Muff Pi現行ラインナップNanoは小型筐体版。Deluxeはノイズゲート・ブースト・クロスオーバー等を追加した多機能版。基本トーンはBig Muff譲り

Electro-Harmonix Big Muff Piのモデリング・シミュレーション

エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Big Muffのような歴史的名機は、各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターに高い確率で収録されています。バージョン違いが多い機種だけに、モデラーによっては複数の世代を別々に再現しているのもポイントです。

Electro-Harmonix Big Muff PiのQUAD CORTEXにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectFuzz PiElectro-Harmonix Big Muff Pi

QUAD CORTEX(Neural DSP)には、Big Muffを再現したモデルが「Fuzz Pi」として収録されています。デバイスのエフェクトリストに含まれており、実機同様の分厚いファズと長いサステインが得られます。

Electro-Harmonix Big Muff PiのFractal Audio Systemsにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectPI Fuzz – TriangleElectro-Harmonix Big Muff Pi(1971年 Triangle)
EffectPI Fuzz – Ram’s HeadElectro-Harmonix Big Muff Pi(70年代中期 Ram’s Head)
EffectPI Fuzz – RussianElectro-Harmonix Big Muff Pi(Sovtek製 Civil War)

Fractal Audio機器(Axe-FX III、FM9、FM3等)のDriveブロックには、Big Muffをモデリングした「PI Fuzz」が収録されています。Fractalらしく1本ではなく、Triangle・Ram’s Head・Russianといった世代違いを別モデルとして再現しているのが特徴で、ダイオードの種類変更やTone回路のバイパスなど細かな調整も可能です。

Electro-Harmonix Big Muff PiのLINE6 HELIXにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectTriangle FuzzElectro-Harmonix Big Muff Pi
EffectBighorn FuzzElectro-Harmonix Ram’s Head Big Muff Pi(’73)
EffectDark Dove FuzzElectro-Harmonix Russian Big Muff

LINE6 HELIXのDistortionカテゴリには、Big Muffをベースにしたモデルが複数収録されています。「Triangle Fuzz」が標準的なBig Muff、「Bighorn Fuzz」が1973年のRam’s Head、「Dark Dove Fuzz」がロシア製版に相当します。LINE6は商標上の理由から独自の名称を使うため、「Bighorn」「Dark Dove」のように実機名とは大きく異なる名前が付いています。

Electro-Harmonix Big Muff PiのKemperにおけるモデリング

種別モデル名元となった実機
EffectMuffinElectro-Harmonix Big Muff

Kemperのディストーション・ストンプには、Big Muffをモデリングした「Muffin」が収録されています。Kemperフォーラムのストンプ対応リストでも「Muffin = Electro-Harmonix Big Muff」と明示されており、実機同様の分厚い歪みが得られます。なお、Big Muffはファズというより実質的にディストーション寄りの回路であるため、Kemperでは扱いやすい部類とされています。

Electro-Harmonix Big Muff Piの使用アーティスト

海外のアーティスト

アーティスト音楽スタイル使用・補足
David Gilmour(Pink Floyd)プログレッシブロックBig Muffの代名詞的存在。特にRam’s Head版を愛用し、歌うように伸びるリードトーンの核にした
Billy Corgan(The Smashing Pumpkins)オルタナティブロック『Siamese Dream』で爆発的な歪みを大量に重ね、分厚い音の壁を構築。Op-Amp版の使用で知られる
J Mascis(Dinosaur Jr.)オルタナティブ / 轟音ロックRam’s Headを土台に、リフを地震のように轟かせるぶ厚いファズで知られる
Jack White(The White Stripes)ガレージロックファズを個性そのものとして大胆に使うスタイルで、Muff系の分厚いサウンドを活用

日本のアーティスト

現時点で信頼できる情報源からの裏付けが取れていないため記載を省略します。

Electro-Harmonix Big Muff Piの特徴と注意点

特徴

  • 壁のように分厚い、密度の高い歪み:細かい歪みの粒がぎっしり詰まった「音の塊」を作れる。コードを鳴らすと轟音の壁になり、ほかのファズでは出せない迫力があると多くのレビューで言及される。
  • どこまでも伸びる長いサステイン:Sustainを上げると単音がヴァイオリンのように歌う。リードで「弾けばずっと伸びる」安心感があり、Gilmour系の浮遊するリードを支える核になる。
  • ファズとディストーションの中間という独自の立ち位置:ブチブチした古典的ファズとも、現代的ディストーションとも違う、滑らかで甘い飽和感が個性。この唯一無二のキャラクターが半世紀愛され続ける理由。
  • 豊富なバージョン違いで好みを選べる:Triangle・Ram’s Head・Russian・Op-Ampなど世代ごとに音が異なり、現行で復刻版も手に入る。「自分の好きなMuff」を探す楽しみがあるとファンの間で語られる。

注意点

  • 中域がへこみバンドで埋もれやすい:ミッドスクープ特性のため、単体では迫力があってもバンドアンサンブルで音が引っ込んで聞こえることがある。Toneを上げるかTS系オーバードライブを重ねて対処するユーザーが多い。
  • 歪んだアンプに重ねると潰れやすい:Big Muff自体が完成された歪みを持つため、すでに歪んでいるアンプに重ねると飽和しすぎてつぶれる。クリーン〜軽いクランチのアンプを土台にするのが前提。
  • 細かいゲイン調整やクランチは苦手:常に分厚く歪むため、軽くザラつかせる程度の繊細なコントロールには向かない。良くも悪くも「べったり歪む」ペダルと理解しておきたい。
  • バージョンや個体で音がかなり違う:世代ごとの差が大きく、特にヴィンテージは個体差も激しい。「Big Muff」と一括りにできず、狙った音を得るには版選びが重要という声が多い。

まとめ

Electro-Harmonix Big Muff Piは、「壁のように分厚い密度の高い歪み」「どこまでも伸びる甘いサステイン」「ファズとディストーションの中間という唯一無二のキャラクター」を兼ね備えた、ファズの歴史そのものと言える名機です。1969年から半世紀以上、轟音と歌うリードを求めるギタリストの拠り所であり続けてきました。

こんな演奏をしたい方に特におすすめです。

  • David Gilmourのような、どこまでも伸びる歌うリードトーンを出したい方
  • Smashing PumpkinsやDinosaur Jr.のような、分厚い音の壁を作りたいオルタナ/轟音ロック好きの方
  • クリーンアンプを土台に、ペダルだけで完成された歪みを作りたい方
  • 古典的なファズとは違う、滑らかで甘い飽和感を探している方

中域がへこんで埋もれやすい、細かい調整は苦手といったクセはありますが、それを補って余りある「分厚さ」と「伸び」は、ほかのどんなペダルにも代えがたいものです。Triangle、Ram’s Head、Russian……自分だけの一台を探す旅も含めて、ぜひその轟音を自分の足で体感してみてください。

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この記事を書いた人

趣味はギター、カメラ、料理。
好きなものはメタルコア、ビール、CAPCOM、FROMSOFTWARE。

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