
Jim Dunlop Fuzz Faceは、トランジスタ2石のシンプルな回路で音を激しく潰して歪ませる、VolumeとFuzzの2ノブのファズペダルです。1966年にArbiterが発売し、現在はJim Dunlopがその系譜を引き継いで製造しています。
ファズ(ギターの音を激しく潰して荒々しく歪ませるエフェクト)の元祖を一台挙げるなら、Jim Dunlop Fuzz Face(ジムダンロップ・ファズフェイス)は外せません。もとは1966年にイギリスのArbiter(アービター、のちのDallas-Arbiter)が世に出したペダルで、丸いマイク台座のような筐体に2つのノブとロゴが並び、ニッコリ笑った顔のように見えることから「Fuzz Face」と名付けられました。現在はJim Dunlopがその系譜を引き継いで製造しています。
Fuzz Faceの個性は、なんといってもジミ・ヘンドリックスが鳴らしたあの分厚く咆哮するようなファズサウンドです。ブルースロックやサイケデリックロック、ハードロックのリードに向いており、コントロールはVolumeとFuzzのたった2つだけ。それでいて「ギター側のボリュームを絞るとスッとクリーンに戻る」名高い追従性を持つ、シンプルさと奥深さが同居した伝説的な一台です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
スペック面の要点は、VolumeとFuzzの2ノブだけという操作系と、トランジスタ2石のシンプルな回路で、ゲルマニウム版とシリコン版の2系統があることです。
| エフェクトの種類 | ファズ(トランジスタ2石のシンプルな回路) |
|---|---|
| トランジスタの2系統 | ゲルマニウム版とシリコン版の2種類 |
| コントロール | Volume・Fuzzの2ノブのみ(トーン回路なし) |
| 電源 | 9Vバッテリー(ミニ版はDC 9V端子も備える) |
| 入出力端子 | モノラル1系統(入力・出力各1) |
| バイパス方式 | True Bypass(現行のDunlopモデル) |
| 筐体サイズ | オリジナルは直径約11cmの円形筐体 |
| 製造国 / ブランド | Jim Dunlop(アメリカ)/初代はArbiter(イギリス) |
| 発売年 | 初代は1966年(Arbiter) |
ファズ(音の波形を強く潰して、ザラザラと荒々しく歪ませるエフェクト)である点は表のとおりです。トランジスタの2系統の内訳は、ゲルマニウムトランジスタ版(初代1966年〜。NKT275等。温かく丸い音)と、シリコントランジスタ版(1960年代末以降。BC108等。明るく荒く高域が強い音)です。
バイパス方式のTrue Bypass(トゥルーバイパス)は、オフ時に内部回路を完全に迂回して信号を通す方式で、音質劣化が少ないのが利点です。筐体は、オリジナルが直径約11cmの大きな円形で、現行のFuzz Face Miniシリーズはボード設置に便利な小型筐体に変更されています。
電源は、ゲルマニウム版が伝統的に電池駆動を前提としています(詳しくは次の段落)。現行のミニ版はDC 9Vアダプター端子も備えますが、アイソレート(独立給電)電源の使用が推奨されます。初代はArbiter、のちのDallas-Arbiterによる製造で、現在はDunlopが各種リイシュー・派生モデルを生産継続中です。
電源について補足します。ゲルマニウム版のオリジナル回路は「ポジティブグラウンド(+極側を接地する設計)」のため、一般的なエフェクター用の電源を複数まとめて供給するデイジーチェーンとは相性が悪く、伝統的に電池駆動が基本でした。現行のミニ版はDCジャックを備えますが、アイソレート電源を使うのが無難、と覚えておくと安心です。
どんな音がするのか
Fuzz Faceのサウンドを一言で表すなら「分厚く咆哮する、原始的で生々しいファズ」です。
全体的なキャラクターは、後年のディストーション(Boss DS-1など)のような整理された歪みとは対極にあります。音の壁がゴワッと前に出てくる、荒々しくも温かみのある歪みで、サステイン(音の伸び)が長く、リードを弾くと音がどこまでも伸びていく感覚があります。
ゲルマニウム版とシリコン版で音がはっきり違うのがFuzz Faceの大きなポイントです。ゲルマニウム版は中低域が太く、丸くてクリーミー、ヴィンテージらしい温かさが持ち味。一方シリコン版はより明るく、ジリジリとした高域とアグレッシブさが前面に出ます。ジミ・ヘンドリックスも両方を使い分けていたほどで、「同じFuzz Faceでも別物」と考えてよいほどの差があります。
ダイナミクスへの追従性こそ、Fuzz Faceが今も愛される最大の理由です。ピッキングの強弱がそのまま歪み量に直結し、強く弾けば暴れ、弱く弾けば落ち着きます。そして何より有名なのがギターのボリュームノブを絞るとスッとクリーン〜クランチに戻る追従性。アンプの歪みチャンネルを切り替えなくても、手元のボリューム操作だけでクリーンとファズを行き来できるのです。「ペダルを踏みっぱなしにして、あとはギター側で曲を組み立てる」という弾き方ができる稀有なエフェクターです。
アンプとの組み合わせでは、Fender系やMarshall系のクリーン〜軽くクランチさせたアンプにつなぐのが定番です。アンプをクリーンにしておけばFuzz Faceの生々しい歪みがそのまま出てきますし、アンプを軽く歪ませた上に重ねるとさらに咆哮感が増します。なお2ノブでトーンを持たないぶん、最終的な音の明るさはギターとアンプ側のセッティングで決まる点は意識しておきたいところです。
開発と使用のエピソード
Fuzz Faceは1966年、イギリスのIvor Arbiter(アイヴァー・アービター)によって生み出されました。トランジスタ2石、コンデンサ3個、ポット2個という極限までシンプルな回路で、丸い筐体に2つのノブとロゴが並んだ姿が笑顔に見えることから名付けられた、というデザインの逸話も有名です。当初はゲルマニウムトランジスタ(NKT275など)が使われていましたが、ゲルマニウムは個体差が大きく入手も不安定だったため、間もなくより安価で安定したシリコントランジスタ(BC108など)へと切り替わっていきました。
このペダルを世界に知らしめたのがジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)です。「Purple Haze」や「Foxy Lady」をはじめとする数々の名演で、咆哮するようなファズサウンドの中心にFuzz Faceがありました。彼はゲルマニウム版とシリコン版の両方を使い分け、複数の個体を確保していたと伝えられています。Dunlopが「Jimi Hendrix Fuzz Face(JHF1)」というシグネチャーモデルを出しているのも、両者の結びつきの深さを物語っています。
ヘンドリックス以外にも名手は多く、デヴィッド・ギルモア(David Gilmour/Pink Floyd)はあの伸びやかで歌うようなリードトーンにFuzz Faceの歪みを取り入れ、エリック・ジョンソン(Eric Johnson)は名インスト曲「Cliffs of Dover」で、とろけるようにクリーミーなファズトーンを聴かせました。またスティーヴィー・レイ・ヴォーン(Stevie Ray Vaughan)は、ヘンドリックスの楽曲を演奏する際に自身のNKT275搭載Fuzz Faceを使い、彼が「ジミ・ヘンドリックスのKing Tone」と呼んだ太いリードトーンを追い求めたことで知られています。
使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーン(シグナルチェーン:ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、ギターのすぐ後ろ、つまり一番前段です。これは音の追従性だけでなく回路の特性上の理由も大きく、Fuzz Faceは「ギターから直接、十分な信号を受け取ること」を前提に設計されています。前段にバッファ(信号を整える回路)を持つペダルやワウを置くと、本来の追従性が損なわれたり音が痩せたりすることがあるため、できるだけギター直後に置くのがセオリーです。
典型的なセッティング例:
- 王道のヘンドリックス系リード: Fuzz = 3時〜フル、Volume = アンプと同等以上。アンプはクリーン気味にしておき、ファズを全開にして咆哮させます。歪みすぎたらギター側のボリュームを少し絞って整えます。
- クランチ〜軽いファズ: Fuzz = 11〜1時、Volume = 12時前後。ギターのボリュームと組み合わせて、ザラっとしたロックンロールのバッキングを作ります。
- ギター側ボリュームを活用: ペダルはFuzz高めで固定し、ギターのボリュームを7〜8あたりにしておくと、フルアップでファズ、絞ってクリーンという「手元スイッチ」運用ができます。
アンプとの組み合わせでは、Fender系のクリーンや、Marshall系を軽くクランチさせたセッティングが定番です。トーン回路を持たないFuzz Faceは、明るさのコントロールをアンプとギターに委ねる設計なので、まずアンプ側でおおまかな音色を決め、そこにファズを乗せる感覚でセットすると扱いやすくなります。
重ね使いでは、ワウペダルとの組み合わせがヘンドリックス直系の定番です。ただし前述のとおりFuzz Faceは前段の回路に敏感なため、ワウとファズの順番を入れ替えて音の変化を確かめるのがおすすめです。空間系(ディレイ・リバーブ)はファズの後段に置くと音像が濁りません。
相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
- Fender系クリーンアンプ(Twin Reverb等):クリーンで素直でヘッドルームが広く、ファズの生々しい歪みをそのまま受け止める土台になります。クリーンの上にファズを乗せるヘンドリックス系の王道セッティングです。
- Marshall系(Plexi / Super Lead等):ブリティッシュな中域と軽いクランチが得意で、軽く歪ませたMarshallにFuzz Faceを重ねると咆哮感が増します。60〜70年代ロックの分厚いリードトーンの定番です。
- Hiwatt系:クリーンヘッドルームが広く力強く、デヴィッド・ギルモアの系譜です。広いヘッドルームでファズのサステインと伸びを最大限に活かせます。
相性の良いエフェクター
- ワウペダル(Dunlop Cry Baby等):周波数を強調して鳴きを作る定番の組み合わせで、ヘンドリックス直系です。順番で音が大きく変わるため、ワウ→ファズ/ファズ→ワウを試して好みを探るのが面白いところです。
- オクターブファズ / オクターバー:1オクターブ上下の音を足し、ファズと重ねるとヘンドリックス的なサイケデリックな質感が増します。リードの存在感を強調できます。
- ディレイ・リバーブ:空間的な広がりを足します。ファズ→空間系の順が基本で、歪みを作った後段で広げることで、伸びるサステインに奥行きが出ます。
兄弟機・派生機
Fuzz Face Mini Germanium(FFM2)
66〜68年のゲルマニウム期を再現した小型版です。温かく丸いヴィンテージファズが得られます。LEDとDCジャック、電池ドア付きで、現代のボードに置きやすい仕様です。
Fuzz Face Mini Silicon(FFM1)
シリコントランジスタ版の小型機です。ゲルマニウム版より明るくアグレッシブで高域が強く、よりタイトでパンチのある歪みになります。
Jimi Hendrix Fuzz Face(JHF1)
1969〜70年頃にヘンドリックスが使ったDallas Arbiter期を再現したシグネチャーモデルです。BC108シリコントランジスタを採用し、True Bypass、電池駆動となっています。
Joe Bonamassa Fuzz Face Mini 等のシグネチャー版
著名プレイヤー監修で、特定のトランジスタや音色傾向に振った限定・派生モデルです。
モデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Fuzz Faceのような歴史的名機は、各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターに広く収録されています。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Facial Fuzz | Dunlop(Arbiter)Fuzz Face |
QUAD CORTEX(Neural DSP)のGuitar effectsセクションには、Fuzz Faceを再現したモデルが「Facial Fuzz」として収録されています。名称が実機の「Fuzz Face」をもじったものになっており、原始的で分厚いファズサウンドが得られます。
Fractal Audio Systems における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Face Fuzz | Dallas-Arbiter Fuzz Face |
Fractal Audio機器(Axe-FX、FM9、FM3等)のDriveブロックには、Fuzz Faceをモデリングした「Face Fuzz」が収録されています。Fractal Audio公式フォーラムでは、これがDallas-Arbiter Fuzz Faceをベースにしたゲルマニウム系のモデルであることが明示されており、Clip Type(クリップタイプ)パラメーターを切り替えることでシリコン的な音にも寄せられると説明されています。
LINE6 HELIX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Arbitrator Fuzz | Arbiter Fuzz Face |
LINE6 HELIXのDistortionカテゴリには、Fuzz Faceをベースにした「Arbitrator Fuzz」が収録されています。LINE6は商標上の理由から独自の名称を使っており、「Arbitrator(アービトレーター)」という名前が、メーカー名「Arbiter(アービター)」に由来していることが分かります。
Kemper における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Fuzz | Dunlop Fuzz Face |
Kemperのストンプエフェクトには、Fuzz Faceをモデリングした「Fuzz」が収録されています。Kemper公式フォーラムの「実機対応リスト」で、このストンプがDunlop Fuzz Faceを元にしていることが確認できます。なお、Fuzz Face特有の「ギターのボリュームを絞ったときの素早いクリーンアップ」は実機ならではの挙動であり、モデリングでは完全には再現しきれないという声もユーザー間で見られます。
使用アーティスト
海外のアーティスト
- Jimi Hendrix/サイケデリックロック、ブルースロック:Fuzz Faceを世界に広めた最大の立役者です。「Purple Haze」「Foxy Lady」等でゲルマニウム・シリコン両方を使い分けました。
- David Gilmour(Pink Floyd)/プログレッシブロック:伸びやかで歌うようなリードトーンにFuzz Faceの歪みを取り入れました。
- Eric Johnson/インストゥルメンタルロック、フュージョン:名曲「Cliffs of Dover」で、とろけるようにクリーミーなファズトーンを聴かせました。
- Stevie Ray Vaughan/テキサスブルース:ヘンドリックス曲の演奏時にNKT275搭載Fuzz Faceを使用し、「King Tone」と呼んだ太いリードを追求しました。
よくある疑問
ゲルマニウム版とシリコン版はどちらを選ぶべきですか?
好みの音色で選んでください。ゲルマニウム版は中低域が太く、丸くてクリーミーな温かい音です。シリコン版は明るく、ジリジリとした高域とアグレッシブさが前面に出ます。ゲルマニウム版は個体差が大きく、電池駆動が前提で温度で音が変わりやすいという声もあるため、扱いやすさを重視するならシリコン版が候補になります。
QUAD CORTEXがあれば実機は不要ですか?
用途によります。QUAD CORTEXには「Facial Fuzz」として収録されており、原始的で分厚いファズサウンドが得られます。一方で、ギターのボリュームを絞ったときの素早いクリーンアップは実機ならではの挙動で、モデリングでは完全には再現しきれないという声もユーザー間で見られます。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- ギターのボリュームを絞るとクリーンに戻る抜群の追従性:手元のボリューム操作だけでファズとクリーンを行き来できます。「ペダルは踏みっぱなしで曲を組み立てられる」と多くのプレイヤーが評価する、Fuzz Face最大の魅力です。
- 2ノブだけの潔いシンプルさ:VolumeとFuzzしかなく、迷いようがありません。トーン回路がないぶん原音の素直さが残り、ギターとアンプの個性がそのまま出ます。
- ゲルマニウムとシリコンで明確にキャラが分かれる:温かく丸いゲルマニウムか、明るくアグレッシブなシリコンか、自分の好みで選べます。同じFuzz Faceでも別物として語られます。
- 分厚く伸びる咆哮系サウンド:サステインが長く、リードを弾くと音がどこまでも伸びます。ヘンドリックス的なサイケ〜ブルースロックの核になる歪みです。
注意点
- 前段の回路に敏感で、置く位置を選ぶ:ギター直後に置かないと追従性が損なわれたり音が痩せたりします。バッファ付きペダルやワウとの順番に気を使う必要があります。
- ゲルマニウム版は電源・温度にシビア:ポジティブグラウンド設計のため一般的なデイジーチェーン電源と相性が悪く、伝統的に電池駆動が前提です。ゲルマニウム素子は温度で音が変わりやすいという声もあります。
- 個体差が大きい(特にゲルマニウム):トランジスタの当たり外れで音色が変わるのはゲルマニウム版の宿命です。「同じモデルでも一台ごとに違う」と言われるほどです。
- トーンノブがないぶん音作りはギター・アンプ任せ:明るさを直接調整できないため、アンプやギター側で詰める前提です。手軽に音色を変えたい人には不便に感じられることもあります。
まとめ
Jim Dunlop Fuzz Faceは、「ギターのボリュームで自在に表情が変わる追従性」「VolumeとFuzzだけの潔いシンプルさ」「ゲルマニウム/シリコンで選べる2系統の音」がそろった、ファズの原点にして到達点のひとつです。整理された現代的な歪みとは違う、生々しく分厚い咆哮こそがこのペダルの真骨頂です。
こんな演奏をしたい方に特におすすめです。
- ジミ・ヘンドリックスのような咆哮するファズリードを鳴らしたい方
- ペダルを踏みっぱなしにして、ギターのボリュームで曲を組み立てたい方
- 温かいヴィンテージファズ(ゲルマニウム)か、アグレッシブなファズ(シリコン)か、好みで選びたい方
- ノブの多いデジタル機材に疲れて、シンプルで生々しい一台に立ち返りたい方
扱いに少しクセはありますが、そのクセこそが「弾き手と対話するペダル」たるゆえんです。ファズの歴史そのものと言える音を、ぜひ自分の手元のボリュームで確かめてみてください。

