
Keeley Red Dirt Overdriveは、Tube Screamer系の音を現代的に開けた感触へ仕上げた、Keeley Electronics製のオーバードライブペダルです。2012年に発売され、現行品として生産が続いています。
オーバードライブの世界で「Tube Screamer(チューブスクリーマー: Ibanezが生んだ、温かみのある中域が太いオーバードライブの大定番)」は誰もが通る道ですが、その中域の押し出しが少し強すぎる、もっと開けた音が欲しい、と感じた経験はないでしょうか。Keeley Red Dirt Overdriveは、まさにその「もう一歩」をかなえてくれる一台です。
Red Dirtは、TS系モディファイ(改造)の名手として知られるRobert Keeley(ロバート・キーリー)が、自身の長年のTube Screamerチューンの蓄積を一台に凝縮したオーバードライブです。TS系の枯れた中域の心地よさは残しつつ、JFET入力バッファによってよりオープンでレンジの広い、現代的な弾き心地に仕上げてあるのが最大の個性です。ブルースやカントリー、ルーツ系はもちろん、ジョン・ペトルーシのようなテクニカルなロック/メタル系プレイヤーまで幅広く愛用しており、「TSは好きだけど、あと一歩の抜けと反応の良さが欲しい」という人にこそ刺さる、現代TS系の決定版といえる存在です。
「よく見るけど詳しいこと知らないなぁ…」
そんな名機を端的に知って、より楽しむための試みです。
主な特徴とスペック
スペック面の要点は、Drive・Tone・Levelの3ノブにLo / Hiのモード切替を加えたシンプルな操作系と、JFET入力バッファを備えた設計です。
| エフェクトの種類 | オーバードライブ(Tube Screamer系の改良版) |
|---|---|
| コントロール | Drive・Tone・Levelの3ノブ+Lo / Hi切替スイッチ |
| 電源 | 9V電池(006P)またはDC 9Vアダプター(約14mA) |
| 入出力端子 | モノラル1系統(入力1・出力1) |
| バイパス方式 | トゥルーバイパス(オン時はJFET入力バッファ経由) |
| 筐体サイズ | 一般的なコンパクトサイズ(Keeley標準筐体) |
| 製造国 / ブランド | 米国・Keeley Electronics(ハンドメイド) |
| 発売年 | 2012年(現行品) |
エフェクトの種類はオーバードライブ(真空管アンプが軽く歪んだような温かい歪みを付加するエフェクト)で、Tube Screamer系をベースにKeeleyの各種モディファイを取り込んだ改良版です。
コントロールは、Drive(歪みの量)、Tone(高音域の明るさ調整)、Level(音量)の3ノブに加え、Lo / Hiのモード切替トグルスイッチを備えます。Loは「Plus」系モッド(低域を太らせる、TS-808のモッドに由来)、Hiは「Baked」系モッド(ゲインレンジを広げる、TS-9のモッドに由来)の方向性です。
電源は9Vバッテリー(006P)またはDC 9V外部アダプター(センターネガティブ極性)に対応し、消費電流は約14mAです。
バイパス方式はトゥルーバイパス(エフェクターをオフにしたとき、内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。音質の劣化が少ない)です。ただしオン時はJFET入力バッファを通り、ピックアップの信号を素直に受け止めて開放的に鳴らす設計になっています。
筐体はBOSS型より一回りスリムなKeeley標準筐体で、Keeley Electronics(米国オクラホマ)がアメリカでハンドメイドしています。
どんな音がするのか
Red Dirtのサウンドを一言で表すなら「TSの太い中域を残したまま、風通しを良くしたオーバードライブ」です。ここではFender系クリーンアンプにつないだ場合を基準に説明します。
全体的なキャラクターとして、Ibanez TS9のような定番TSと比べると、中域が太く前に出る心地よさはしっかり受け継いでいます。ただTSにありがちな「箱の中で鳴っているような閉じた感じ」が薄く、より開けてオープンに響くのがRed Dirtの持ち味です。これはJFET入力バッファ(ピックアップの信号を素直に受け止める回路)によるもので、ピックアップが本来持つ表情を潰さずに歪ませてくれます。
周波数帯域の傾向としては、中域の存在感はTS譲りで太いものの、低域が痩せにくく、高域の抜けも素直です。TS9だと削れがちな低音のボディ感が残るため、和音を鳴らしても下が痩せず、コードの厚みが出ます。ゲイン量・歪みの質感は、Loモードならクリーンに近いブースト〜軽いクランチ、Hiモードにすると一段太くシロップのように粘る、倍音豊かなオーバードライブまで到達します。標準的なTS9より歪みのレンジが広く、より「汚せる」のが特徴です。
ダイナミクスへの追従性は非常に良好で、ここがRed Dirt最大の魅力です。ピッキングの強弱がそのまま歪みの濃さに出て、ギターのボリュームを絞るとスッとクリーン寄りに戻ります。弾いていると「自分の手の動きに素直についてくる」感覚があり、TSよりもコンプ感(音の圧縮された感じ)が穏やかで、弦の分離も良く感じられます。コードを鳴らすと各弦がクリアに聞こえ、単音リードでは一音一音の粒立ちが際立ちます。
定番のブースト用途では、Marshall系の歪みチャンネルの前にRed Dirtを置き、Driveを低めにすると、アンプの歪みをタイトに締めつつ前に押し出してくれます。TS系ブースト特有の「中域がモコッと持ち上がりすぎる」感じが抑えめなので、もとからミッドの強いアンプでも飽和しにくく、自然に馴染みます。
開発と使用のエピソード
Red Dirtの背景には、Robert Keeleyが2000年代初頭から積み重ねてきたTube Screamerモディファイの歴史があります。Keeleyは「Mod Plus」「Baked Mod」といった人気のTSチューンを数多く手がけてきた人物で、Red Dirtはそれらの改造で培ったノウハウを一台のオリジナルペダルにまとめ上げたものです。トグルスイッチのLo / Hiは、それぞれ808系・9系のモッドの方向性に対応しており、「Keeleyモッドの定番をスイッチ一つで使い分けられる」という発想が形になっています。2012年の登場以来、現代TS系の代表格として支持され続けています。
このペダルを語るうえで象徴的なのがジョン・ペトルーシ(John Petrucci/Dream Theater)の存在です。彼の公式サイトの使用機材ページにもRed Dirtが掲載されており、ツアーのリグに組み込んでいることが知られています。ハイゲインアンプの前段でブースターとして使うことで、彼の高速かつ歌うようなリードトーンに芯と抜けを与える役割を担っています。超絶技巧で知られるプレイヤーが選ぶという事実は、Red Dirtの「速いフレーズでも音が潰れず分離する」反応の良さを裏付けています。
また、轟音と緻密さを両立させるギタリストとして知られるデヴィン・タウンゼンド(Devin Townsend)もツアーでRed Dirtを使用してきたことが伝えられています。さらにKeeleyのモッドTS時代には、スティーヴ・ヴァイ(Steve Vai)やジョー・サトリアーニ(Joe Satriani)といったヴィルトゥオーゾがKeeleyの手によるTSを使っていたことも知られており、Red Dirtはその系譜の上にある一台といえます。
使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、ギター側の前段です。コンプレッサーやワウの後、ディレイ・リバーブといった空間系の前に置くのが定番です。歪みアンプをブーストする場合はアンプのインプットに直接つなぎます。JFETバッファを内蔵しているため、ボード先頭に近い位置に置いてもピックアップの信号を素直に通してくれます。
典型的なセッティング例:
- 単体オーバードライブ用途(クリーンアンプ): モード = Hi、Drive = 12〜2時、Tone = 11〜1時、Level = 12時前後。Fender系クリーンに太く粘るドライブを乗せます。
- アンプブースター用途: モード = Lo、Drive = 8〜11時(低め)、Tone = 12時、Level = 1〜3時(原音より大きめ)。歪んでいるアンプの前に置き、タイトさと抜けを足します。ジョン・ペトルーシ系の使い方です。
- クリーンブースト的用途: モード = Lo、Drive = 0〜8時、Level = 2〜3時。歪みはほぼ足さず、音量と前に出る感じだけを稼いでソロで踏みます。
アンプとの組み合わせでは、Fender系クリーンアンプに単体でつなぎ太いクランチを作る使い方と、Marshall系やハイゲインアンプの歪みチャンネルをブーストする使い方の両方が王道です。Red Dirtは低域が痩せにくいぶん、ブースト時もリフの土台がしっかり残るので、メタル系のタイトなバッキングにも向きます。
重ね使いでは、コンプレッサーの後段に置くとダイナミクスが整い、リードの粒立ちが安定します。Red Dirtの後ろにさらに別のオーバードライブを重ねる「ゲインスタッキング(歪みの段重ね)」で、より濃いリードトーンを作るのも定番です。
相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
- Fender Twin Reverb / Deluxe Reverb:22〜85Wでクリーンな中域控えめのアンプです。Red Dirtを単体オーバードライブとして使う定番の相手で、素直なクリーンにTS譲りの太い中域を足しつつ、開けた抜けと弦の分離を活かせます。
- Marshall系(JCM800など):50〜100Wで中域が太くアグレッシブな歪みのアンプです。歪みチャンネルをRed Dirtでブーストすると、ミッドの押し出しが過剰でないため飽和しにくく、タイトに締めつつ前に出せます。
- 高出力ハイゲインアンプ(5150系など):100W級の現代的なハイゲインです。ジョン・ペトルーシのようにアンプの前段でブーストすると、低域を残しつつ高速フレーズの輪郭がくっきりします。
相性の良いエフェクター
- コンプレッサー(Keeley Compressor等):ダイナミクスを揃える役割です。コンプ → Red Dirt の順で、整えた信号を太く歪ませられます。同じKeeley同士の組み合わせはナッシュビル系セッションでも定番です。
- ノイズゲート(Boss NS-2等):ハイゲイン時のノイズ処理を担います。アンプを深くブーストするメタル系セッティングではノイズが増えがちなので、ゲートでリフの隙間を締めます。
- ディレイ・リバーブ(空間系全般):空間的な広がりを足す役割です。Red Dirt → 空間系 の順が基本で、歪みを作った後段で広げることで音像が濁りません。
兄弟機・派生機
Red Dirt Mini
フルサイズと同系のサウンドをコンパクトな筐体に収めた小型版です。本体は約1.5×3.6インチで電池は非対応のため、パワーサプライが必要です(消費約7.5mA)。フルサイズがLo/Hiの2モードなのに対し、Miniは内部DIPスイッチでDistortion / Overdrive / Crunch / Ampの4種クリッピングモードを選べます。
Red Dirt Germanium
選別したゲルマニウムトランジスタを採用した派生機です。周波数帯域ごとに可変するゲイン構造を持ち、標準のRed Dirtより攻撃的なボイシングになっています。低めのドライブでもアッパーミッドの押し出しとサチュレーションが強めです。
Red Dirt Studio Deluxe(Compressor + Overdrive)
Red Dirt系オーバードライブにコンプレッサーを統合した上位機です。シリコンダイオードとダブルゲルマニウムダイオードの2モードを切り替えられ、ゲルマ側はより滑らかで深いサチュレーションが得られます。リードに向きます。
モデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Red Dirtのような人気TS系ペダルがどのデバイスに収録されているか、各社の一次情報をもとに確認しました。
QUAD CORTEX における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Red Drive | Keeley Electronics Red Dirt |
QUAD CORTEX(Neural DSP)のGuitar effectsセクションには、Red Dirtを再現したモデルが「Red Drive」として収録されています。CorOS 1.4.0アップデートで追加されたもので、公式のデバイスリスト上でもKeeley Electronics Red Dirtがベースであることが明記されています。
Fractal Audio Systems における収録
Fractal Audio機器(Axe-FX、FM9、FM3等)のDriveブロックには、Keeley Red Dirtを直接モデリングしたモデルは現行ラインナップには収録されていません。FractalのDriveモデルにはTube Screamer系(T808など)やKeeleyがモッドしたBOSS DS-1系などは含まれますが、Red Dirtそのものに対応するモデルは確認できませんでした。
LINE6 HELIX における収録
LINE6 HELIXのDistortionカテゴリにもKeeley Red Dirtをベースにしたモデルは現行ラインナップには収録されていません。HELIXにはKeeleyがモッドしたBOSS DS-1を再現した「Deez One Mod」がありますが、これはディストーション(DS-1)の改造版であり、Red Dirt(TS系オーバードライブ)とは別物です。Red Dirtに該当するモデルは確認できませんでした。
Kemper における収録
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Green Scream | Maxon OD808 / Ibanez TS-808 |
Kemperには、Red Dirtそのものを再現したストンプは収録されていません。Red DirtはTS系ペダルであるため、もっとも近い既存ストンプは、Tube Screamer TS-808(Maxon OD808)を直接モデリングした「Green Scream」になります。Red DirtのベースであるTS-808系のキャラクターはこのGreen Screamで近い方向が得られます。
なお、OS 8.0以降に追加された統合型オーバードライブ「Kemper Drive」は、TS808・TS9・Klon Centaur・Boss OD-1/SD-1・Analogman King of Tone・Timmy・Marshall Bluesbreakerなど複数の名機を参考にした「Uber-Drive」ですが、Keeley Red Dirtは公式の参照元リストには含まれていません。Kemper Driveは個別のペダル再現ではなく、各種ドライブのキャラクターを1台でカバーする統合型として収録されています。
使用アーティスト
海外のアーティスト
- John Petrucci(Dream Theater)/プログレッシブメタル:公式サイトの使用機材ページにRed Dirtが掲載されています。ツアーリグに組み込み、ハイゲインアンプ前段のブースターとして使っています。
- Devin Townsend/プログレッシブメタル、ヘヴィロック:ツアーでRed Dirtを使用してきたことが、Keeley側から伝えられています。
このほか、Robert KeeleyによるモッドTS時代には、スティーヴ・ヴァイ(Steve Vai)やジョー・サトリアーニ(Joe Satriani)がKeeleyの手によるTube Screamerを使用していたことが知られており、Red Dirtはその延長線上にある一台です。
よくある疑問
Red Dirt MiniやGermaniumとはどう違いますか?
サイズ・クリッピング・ボイシングが違います。Miniは小型で電池に非対応のかわり、内部DIPスイッチで4種のクリッピングモードを選べます。Germaniumはゲルマニウムトランジスタ採用でより攻撃的、Studio Deluxeはコンプレッサーを統合した上位機です。
QUAD CORTEXがあれば実機は不要ですか?
用途によります。QUAD CORTEXにはRed Dirtを再現したモデルが「Red Drive」として収録されており、CorOS 1.4.0で追加されました。一方、FractalとLINE6 HELIXにはRed Dirtに該当するモデルがなく、KemperもTS-808系のGreen Screamが近い選択肢になります。
ユーザーの評価と注意点
評価されている点
- JFET入力バッファによる開放的でダイナミックな鳴り:従来のTS系にありがちな閉じた感じが薄く、ピックアップの表情を潰さずに歪ませてくれます。「弾き手の手にそのままついてくる」反応の良さがレビューで繰り返し評価されています。
- Lo/Hi 2モードでKeeleyの定番モッドを使い分けられる:808系(低域を太らせるPlus)と9系(ゲインを広げるBaked)の方向性をスイッチ一つで切替でき、クリーンブースト〜太く粘るドライブまで1台でカバーできるのが強みです。
- TSより低域が痩せず、レンジが広い:標準TS9だと削れがちな低音のボディ感が残るため、和音の厚みやリフの土台が崩れにくくなります。クリアさを保ったまま深く歪ませられる点が「より広い用途で使える」と支持されています。
- アメリカ製のハンドメイド品質:オクラホマでの手作りで、初期TS-808と同じRC4558P系オペアンプを使うなど部品選定にもこだわりがあります。「TSモッドの名手が作る本気のTS」という信頼感があります。
注意点
- あくまでTS系の枠内のキャラクター:開けて素直とはいえ土台はTSなので、TSの中域そのものが好みでない人には根本的に合わない可能性があります。まったく別系統のオーバードライブを求める人には向きません。
- 単体では現代的ハイゲインまでは届かない:オーバードライブの範囲に収まる歪み量で、これ一台でモダンメタルの飽和した歪みは作れません。基本はアンプやほかの歪みと組み合わせる前提と理解しておきたい点です。
- 価格は定番廉価ペダルより高め:ハンドメイドのブティック系ゆえ、BOSSや標準TSと比べると価格は上がります。手頃なTSで十分という人にはオーバースペックに感じられることもあります。
まとめ
Keeley Red Dirt Overdriveは、「TSの太い中域」「JFETバッファによる開けた鳴りと優れたダイナミクス追従」「Lo/Hiで使い分けられる懐の広さ」が三拍子そろった、現代TS系の決定版といえるオーバードライブです。TSの良さは欲しいけれど、もう少し抜けと反応の良さが欲しい、という願いにきれいに応えてくれます。
こんな演奏をしたい方に特におすすめです。
- TS系の太い中域は好きだが、閉じた感じや低域の痩せが気になっていた方
- ピッキングやギターのボリューム操作にしっかり反応する、表情豊かなオーバードライブを探している方
- クリーンアンプの単体ドライブと、ハイゲインアンプのブーストを1台で両立させたい方
- ジョン・ペトルーシのように、速いフレーズでも音が潰れず分離するブースターが欲しい方
派手な飛び道具ではありませんが、踏めば「やっぱりTSはいいな、でもこれは一段良いな」と思わせてくれる完成度があります。TSの先にある一台として、ぜひ自分の手で弾いて確かめてみてください。

