フェイザー(音に「シュワシュワ」「ウネウネ」とした揺らぎを加えるモジュレーション系エフェクト)の代名詞といえば、オレンジ色のあのMXR Phase 90。MXR Phase 95は、その名機Phase 90と、より控えめな兄弟機Phase 45の両方を1台に詰め込んだ、手のひらサイズのミニ・フェイザーです。標準的なMXRペダルの約半分のフットプリントながら、Speedノブ1つに「Script/Blockの音色切替」と「45/90の回路切替」という2つのスイッチを備え、定番フェイザーの主要なバリエーションをこの小ささでカバーします。
クリーンなカッティングに動きを足したいファンク系、アルペジオを揺らして広げたいクリーントーン、そしてエディ・ヴァン・ヘイレンばりにソロやリフへ浮遊感を乗せたいロック/メタルまで、フェイザーが活きる場面はとても幅広いもの。「Phase 90は欲しいけど45の繊細さも捨てがたい」「ボードのスペースは最小限にしたい」という欲張りな願いを、1台でまるごと叶えてくれるのがPhase 95の最大の魅力です。
MXR Phase 95の主な特徴とスペック
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エフェクトの種類 | フェイザー(位相をずらした音を原音に混ぜ、周期的なうねり=「シュワシュワ」とした揺らぎを生むモジュレーション系エフェクト)。Phase 90(4ステージ)とPhase 45(2ステージ)の2回路を内蔵 |
| コントロール | Speed(うねりの速さを調整するノブ)/Scriptスイッチ(モダンなBlock系とヴィンテージなScript系の音色を切替)/45-90スイッチ(控えめな2ステージのPhase 45と、より派手な4ステージのPhase 90を切替) |
| 電源 | DC 9V 外部アダプター(センターネガティブ極性)。消費電流は8mA。電池には非対応(ミニ筐体のため外部電源専用) |
| 入出力端子 | モノラル1系統(インプット・アウトプット各1)。入力インピーダンス約800kΩ、出力インピーダンス6kΩ未満 |
| バイパス方式 | トゥルーバイパス(エフェクトをオフにすると内部回路を完全に迂回して信号を通す方式。オフ時の音質劣化が少なく、原音をそのまま保てる) |
| Speedレンジ | 0.125Hz〜10Hz(ごくゆっくりした揺れから、コーラスに近い速い揺れまで) |
| 筐体サイズ | ミニサイズ(標準的なMXRコンパクトの約半分のフットプリント)。ボードの省スペースに貢献 |
| 製造国 / ブランド | MXR(Jim Dunlop傘下)。Made in USA |
| 発売年 | 2015年(NAMMで発表)。現行品として生産継続中 |
MXR Phase 95はどんな音がするのか
Phase 95のサウンドを一言で表すなら「定番フェイザーの揺らぎを、繊細から派手まで切り替えられる万能機」です。歪みのように音色そのものを作り変えるのではなく、原音に周期的な「うねり」を乗せて音を立体的に動かすのがフェイザーの役目で、Phase 95はその王道のキャラクターを忠実に持っています。
45/90による揺らぎの深さの違いがこのペダルの肝です。Phase 45モード(2ステージ)は揺れが浅く上品で、ゆっくりかけるとクリーントーンにほんのり厚みと立体感が出る程度のさりげなさ。コードストロークやアルペジオに「気づくか気づかないか」くらいの色気を足したいときに向いています。一方Phase 90モード(4ステージ)は揺れが深くハッキリしていて、あの「シュワーッ」という分かりやすいうねりが前に出ます。リフやソロに浮遊感を与えるのはこちらの担当です。
Script/Blockの切替はさらに細かなニュアンスを変えます。Blockモード(スイッチ・オフ側)は内部フィードバックによる軽い倍音の色付けがあり、うねりのピークがやや強調された、抜けの良いモダンな質感。Scriptモード(スイッチ・オン側)はそのフィードバックを取り除き、より穏やかでクリア、ヘッドルームに余裕のある上品な揺れになります。「派手にうねらせたいならBlock、自然に馴染ませたいならScript」と覚えておくと迷いません。
Speedノブを絞ればうねりは数秒に一回のごくゆっくりした波になり、上げていくと揺れが速くなって、最速付近ではコーラス(音を重ねて厚みと揺らぎを出すエフェクト)のようなビブラート感すら帯びてきます。弾いていての感触としては、フェイザーは歪みと違ってピッキングの強弱で効き具合が大きく変わるタイプではなく、踏んでいる間ずっと一定の「呼吸」のように音が揺れ続けるのが特徴。クリーンのカッティングに薄くかければグルーヴが生まれ、歪ませたリードに深くかければ70年代ロックの匂いが一気に立ち上がります。
どのアンプと組み合わせるかでいうと、フェイザーの動きが一番分かりやすいのはFender系のクリーンアンプにつないだときです。クリーンだとうねりの輪郭がクッキリ聞こえ、45/90やScript/Blockの差も判別しやすくなります。歪んだMarshall系アンプの前に置けば、エディ・ヴァン・ヘイレン的な「歪み+フェイザー」の浮遊するリードトーンが作れます。
MXR Phase 95のエピソード
Phase 95を語るには、まず元になった2つの名機の歴史を知る必要があります。MXR Phase 90は1974年に登場した、Speedノブ1つだけというシンプルさで世界を席巻した4ステージ・フェイザー。その少しあとに発売されたPhase 45は、ステージ数を2つに減らして揺れをより穏やかにした「控えめ版」でした。Phase 95は2015年、この2台のキャラクターを1つのミニ筐体に統合する形で登場し、さらにヴィンテージのScriptロゴ期とモダンなBlockロゴ期の音色差まで切り替えられるようにした、いわば「歴代Phaseの良いとこ取り」モデルです。
このペダル一族の最も有名な使い手がエディ・ヴァン・ヘイレン(Eddie Van Halen)です。彼は1970年代半ばにロビン・トロワー(Robin Trower)がPhase 90を使うのを聴いて導入し、「Eruption」「Atomic Punk」「Ain’t Talkin’ ‘bout Love」「Everybody Wants Some!!」といった初期ヴァン・ヘイレンの名曲で、ソロやリフに独特の浮遊感を与えました。あの「シュワッ」と音が泳ぐ瞬間こそ、Phase 90モードが生む4ステージの揺らぎそのものです。
ほかにもデヴィッド・ギルモア(David Gilmour/Pink Floyd)の浮遊感あるクリーントーンや、セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ(Steve Jones)が「Anarchy in the UK」のパワーコードにPhase 90を重ねて作ったザラついた厚みなど、ロック史の名サウンドにこの系統のフェイザーが関わってきました。Phase 95は、そうした歴史的トーンを手のひらサイズで追体験できる一台なのです。
MXR Phase 95の使い方と信号チェーンでの位置づけ
信号チェーン(シグナルチェーン: ギターからアンプまでの音の経路)での基本的な位置は、歪み系(オーバードライブ・ディストーション)の後ろです。フェイザーは歪んだ音に対してかけたほうがうねりが滑らかに乗りやすく、逆に歪みの前に置くとフェイザーで揺れた信号をさらに歪ませることになり、やや暴れた質感になります。どちらも正解ですが、まずは「歪み → Phase 95 → 空間系(ディレイ・リバーブ)」の順を基準にすると扱いやすいです。アンプのエフェクトループ(プリアンプ後段の端子)に入れるプレイヤーもいます。
典型的なセッティング例:
- クリーンカッティングにグルーヴを足す: 45モード/Scriptオン/Speed = 10〜12時。揺れが浅く上品なので、ファンクやクリーンバッキングにさりげない動きが出る。
- 定番のヴァン・ヘイレン風フェイズ: 90モード/Blockオフ(Block音色)/Speed = 9〜11時。深く分かりやすいうねりで、歪んだリフやソロに浮遊感を乗せる王道セッティング。
- ゆったりした音の広がり: 90モード/Scriptオン/Speed = 7〜9時(遅め)。数秒周期のゆっくりした揺れで、アンビエントなクリーントーンや持続音を立体的に動かす。
- コーラス/ビブラート的な速い揺れ: Speed = 2〜3時以上。速くかけると音が小刻みに泳ぎ、独特のサイケデリックな質感になる。
アンプとの組み合わせでは、まずFender系クリーンアンプで各スイッチの効きを確かめるのがおすすめです。うねりの輪郭がよく見えるので、45と90、ScriptとBlockの違いが体感しやすくなります。慣れてきたらMarshall系の歪んだアンプの前(または歪みペダルの後ろ)に置き、リードトーンに動きを足す使い方に発展させると良いでしょう。
重ね使いでは、ワウやコンプレッサーの後・歪みの後にPhase 95を置き、その先にディレイやリバーブを繋ぐと、フェイザーのうねりが空間系で気持ちよく広がります。歪みペダルと組み合わせるときは、Phase 95を歪みの後ろに置くと揺れが滑らかになり、前に置くとよりアグレッシブな揺れになるので、好みで使い分けてください。
MXR Phase 95と相性の良い機材
相性の良いギターアンプ
| アンプ | 出力 / 特徴 | Phase 95との組み合わせが人気な理由 |
|---|---|---|
| Fender Twin Reverb / Deluxe Reverb | 22〜85W / 煌びやかで中域が控えめなクリーン | クリーンが綺麗なのでフェイザーのうねりの輪郭がハッキリ聞こえる。45/90やScript/Blockの差を確かめる相手として最適 |
| Marshall系(Plexi / JCM800等) | 50〜100W / ブリティッシュな中域と歪み | エディ・ヴァン・ヘイレン的な「歪み+フェイザー」の浮遊するリードトーンの定番組み合わせ。歪んだ音にPhase 90モードを乗せると一気に70年代ロックの匂いが出る |
| Vox AC30 | 30W / きらびやかで中高域が豊か | クランチ気味のトーンにフェイザーを薄くかけると、揺れが上品に絡む。クリーン〜クランチでの相性が良い |
相性の良いエフェクター
| エフェクター | 役割 | この組み合わせが定番な理由 |
|---|---|---|
| オーバードライブ(MXR系・Tube Screamer系等) | 歪みを作る | 歪み → Phase 95 の順が基本。歪んだ音にフェイザーを乗せると、ヴァン・ヘイレン的な浮遊するリードトーンになる |
| ディレイ・リバーブ | 空間的な広がりを足す | Phase 95 → 空間系 の順で、揺れた音をさらに広げると音像が立体的になる。アンビエントなクリーンと好相性 |
| ワウ / オートワウ | フィルター的な動きを足す | フィルター系とフェイザーを重ねるとファンキーで動きのあるクリーンが作れる。70年代ファンク〜ロックの質感に |
MXR Phase 95の兄弟機・派生機
| モデル | 発売年 | Phase 95との違い |
|---|---|---|
| MXR Phase 90(M101) | 1974年 | Phase 95に内蔵される「90モード」の元になった4ステージの定番機。Speedノブ1つのみで、派手で分かりやすいうねりが持ち味。フルサイズ筐体 |
| MXR Phase 45(M290の45モードの元) | 1970年代 | 2ステージで揺れが浅く上品な「控えめ版」。Phase 95の「45モード」に相当する。さりげなく音を厚くしたい用途向け |
| MXR EVH Phase 90(EVH90) | 2004年 | エディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャー。Script/Block音色の切替スイッチを持ち、フランケンギター柄の塗装が特徴。45回路は持たない |
| MXR Script Phase 90(M101SE等) | 各年 | ヴィンテージのScriptロゴ期の音色を再現したフィードバックなしの上品なバージョン。Phase 95のScriptモードが狙う音に近い |
MXR Phase 95のモデリング・シミュレーション
エフェクターのモデリングとは、実機の回路や音響特性をデジタル技術で再現したもので、実機を用意しなくてもそのサウンドを手軽に使えるようにした機能です。Phase 95の元になったPhase 90/Phase 45は各社のマルチエフェクター/アンプシミュレーターでも定番として扱われています。なお、各モデラーがPhase 95そのものを収録しているのか、それともPhase 90/45を個別に収録しているのかはデバイスによって異なるため、以下に区別して整理します。
MXR Phase 95のQUAD CORTEXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | MX Phase 95 | MXR Phase 95 |
QUAD CORTEX(Neural DSP)のGuitar effectsセクションには、Phase 95そのものを再現した「MX Phase 95」がModulationカテゴリに収録されています(CorOS 1.4.0で追加)。各モデラーの中では珍しく、Phase 90単体ではなくPhase 95という統合機をそのままモデリングしているのが特徴で、実機同様に45/90やScript/Blockに相当するキャラクターを作り込めます。
MXR Phase 95のFractal Audio Systemsにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Script 90 / Block 90 | MXR Phase 90(Scriptロゴ期 / Blockロゴ期) |
| Effect | Script 45 | MXR Phase 45 |
Fractal Audio機器(Axe-FX、FM9、FM3等)のPhaserブロックには、Phase 95そのものという名称のモデルはありませんが、Phase 95の中身であるPhase 90とPhase 45が個別のTYPE(タイプ)として収録されています。「Script 90」「Block 90」がPhase 90のScript期/Block期に、「Script 45」がPhase 45に対応しており、Phase 95でできることはFractal上でこれらのタイプを選ぶことで再現できます。
MXR Phase 95のLINE6 HELIXにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Script Mod Phase | MXR Phase 90 |
LINE6 HELIXには、Phase 95そのものや「45モード」に相当するモデルは現行ラインナップには収録されていませんが、Phase 95の中核であるPhase 90を再現した「Script Mod Phase」が収録されています。LINE6は商標上の理由から独自のもじり名称を使っており、これがMXR Phase 90に相当するモデルです。Phase 95的なPhase 90サウンドはこのモデルでカバーできますが、2ステージのPhase 45相当は用意されていません。
MXR Phase 95のKemperにおけるモデリング
| 種別 | モデル名 | 元となった実機 |
|---|---|---|
| Effect | Phaser(汎用アルゴリズム) | 特定の実機モデルではない(最大12ステージまで設定可能な汎用フェイザー) |
Kemperには、MXR Phase 95やPhase 90を名指しで再現した個別モデルは収録されていません。Kemperのモジュレーション系に搭載されている「Phaser」は、ステージ数(最大12)やSpread(ピークとノッチの間隔)などを自由に設定できる汎用アルゴリズム型で、特定の実機を1対1で再現する設計ではありません。Phase 90的な4ステージの揺れを作ることは可能ですが、「Phase 95のモデル」として独立しているわけではない点に注意してください。
MXR Phase 95の使用アーティスト
海外のアーティスト
Phase 95は2015年登場の統合機のため、ここでは元になったPhase 90/Phase 45を実機として使用したことが確認できる代表的アーティストを掲載します。
| アーティスト | 音楽スタイル | 使用・補足 |
|---|---|---|
| Eddie Van Halen | ハードロック / ヘヴィメタル | Phase 90の最も有名な使い手。「Eruption」「Atomic Punk」等の初期ヴァン・ヘイレン作品でソロ・リフに浮遊感を加えた |
| Robin Trower | ブルースロック | 1970年代にPhase 90をステージで使用。ヴァン・ヘイレンが導入するきっかけにもなった先駆者 |
| David Gilmour(Pink Floyd) | プログレッシブロック | 浮遊感のあるクリーン〜リードトーンにPhase 90系を使用したことで知られる |
| Steve Jones(Sex Pistols) | パンクロック | 「Anarchy in the UK」のパワーコードにPhase 90を重ね、ザラついた厚みを作った |
日本のアーティスト
現時点で信頼できる情報源からの裏付けが取れていないため記載を省略します。
MXR Phase 95の特徴と注意点
特徴
- Phase 90とPhase 45を1台で切り替えられる:45/90スイッチで、控えめな2ステージと派手な4ステージを瞬時に行き来できる。2台分のフェイザーを1つの筐体で賄えるのが大きな利点として評価されている。
- Script/Blockで音色の表情まで選べる:ヴィンテージなScript系とモダンなBlock系を切り替えられるため、同じ揺れでも「自然に馴染ませる」か「前に出す」かを使い分けられる点が好評。
- ミニ筐体でボードに優しい:標準MXRの約半分のフットプリントで、4機能分の切替を備えながら省スペース。ボードに1つフェイザー枠を作りやすいと支持されている。
- トゥルーバイパスで原音を保てる:オフ時に音質が変化しにくいため、フェイザーを踏まない場面でも音が痩せにくい点が安心材料として挙げられる。
注意点
- 電池が使えない(外部電源専用):ミニ筐体のため9Vアダプターが必須で、電池駆動はできない。電源を確保していないと使えない点は事前に把握しておきたい。
- コントロールがSpeedノブ1つでシンプル:うねりの「速さ」は調整できるが、揺れの深さ(Depth)やフィードバック量を細かく追い込むツマミはない。微調整をしたい人には物足りなく感じられることがある。
- 4種類の音をスイッチで覚える必要がある:45/90×Script/Blockの組み合わせで音が大きく変わるため、慣れるまでどのスイッチがどの音だったか混乱しやすいという声がある。
まとめ
MXR Phase 95は、「Phase 90の派手なうねり」と「Phase 45の上品な揺れ」、さらに「ScriptとBlockの音色差」までを、手のひらサイズの1台に凝縮した欲張りなミニ・フェイザーです。定番フェイザーの主要なバリエーションをこの小ささで網羅できるのは、ほかにない強みです。
こんな演奏をしたい方に特におすすめです。
- クリーンのカッティングやアルペジオに、さりげない動きとグルーヴを足したい方
- エディ・ヴァン・ヘイレン的な「歪み+フェイザー」の浮遊するリードトーンに憧れている方
- Phase 90か45かで迷っていて、両方を1台で試してみたい方
- ボードのスペースを節約しながら、定番フェイザーを1つ加えたい方
ツマミはSpeed1つとシンプルでも、2つのスイッチが生む音の幅は想像以上。フェイザー入門の決定版としても、ベテランのサブ機としても頼れる一台です。あの「シュワシュワ」を、ぜひ自分の足元で切り替えて楽しんでみてください。
